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異世界転生者のTSスローライフ  作者: 未羊
第一章 大陸編

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第92話 転生者、宿場町の視察に出る

 書類を片付けて、翌日の俺は余裕を持っていた。

 というわけで、街道の整備状況を担当しているバフォメットと一緒に、宿場町の確認へと出向く。

 キリエは城の事を任せているので、今回同行するのは専属メイドである妹のカスミだった。

 魔族の馬車ではぎりぎり1日かからない場所に、魔王城から最初の宿場町が建設されていた。街道はそのままに、その両脇に宿屋や食堂などの設備が建設され、統治する人物の屋敷までが備えられている。

 魔王領の中にありながら、街の雰囲気はどちらかといえば人間たちのものに近い感じだ。おそらくは必要以上に人間を怖がらせないようにするための配慮だろう。ただ、さすがに魔界領内にあるというだけあって、見回す限り魔族だらけなんだがな。

 俺たちはひとまず宿場町の町長の邸宅を訪れる。一応、赴任する人物はもう決まっているらしいからな。今日も来ているとの事で挨拶をしようというわけだ。


「うわぁ、これが町長の屋敷か。でっかいな……」


 建物の規模なら、宿屋にも負けていないバカでかい屋敷が建っている。

 ただの屋敷にするならここまで大きくする必要はなかったのだが、さすがに要人を迎えるとなると、特別な宿が必要だろうという考えからこうなったらしい。つまり、要人用の宿を兼ねているというわけである。

 町長の屋敷の外には、門番役のオークが立っている。槍を構えて立っているその風貌は、なんともいえない威圧感があった。


「これは魔王様。よくぞお越し下さいました」


 俺に対して敬礼を決める門番のオーク。でかい図体ではあるが、その動きは実に機敏だった。


「バフォメット様も、ご苦労様です。作業、警備ともに異常ございません」


「うむ、ご苦労。相手が人間であれ魔族であれ、妨害をするような者がいれば、捕らえて引き渡して下さい」


「はっ、畏まりました。では、お通り下さい」


 報告をしてバフォメットから労いの言葉を貰うと、門番のオークは俺たちを中へと通していた。

 中に入ると、案内役に現れたのはドライアドだった。


「ようこそ、領主邸へ。ご案内致します」


 出迎えてくれたドライアドの態度はいたって一般的なものだった。クルルとルククも同じように普通に喋るので、やっぱりウネだけが特殊なんだろうな。


「……魔王様? いかがなさいましたか」


 案内役のドライアドが、俺の方を見てきょとんとした表情を見せている。


「ああ、なんでもない。うちの城に居るウネってやつがちょっと変わった喋り方なんでな。つい比べちまっただけなんだ」


「まあ、ウネってば。そうでしたか」


 俺の話を聞いて、ドライアドはなんだか気になる反応をしている。


「私、ウネの母親でルネと申します。娘がずいぶんとお世話になっているようで、この場を借りてお礼申し上げます」


「なんと、ウネの母親か。いや、……うん、なんでもない」


 驚いた俺は何かを言いかけて言葉を飲み込んだ。


「いえ、はっきり仰って下さい、似てないと」


 すると、ルネがはっきり言ってしまった。これには俺も思わず苦笑いである。


「まあ、それいいんだ。言葉遣いはのんびりとしてるけど、庭園はちゃんと世話してくれているからな」


「そうなのですね。また変なものを持ち込んで広めていないかと思ったのですけれど」


「うぐっ!」


 ルネの言葉に思い切り声を上げてしまう。そりゃそうだ。ウネのやつ、『緑精の広葉』に『赤霊草』まで持ち込んでやがったんだからな。キリエもピエラも大騒ぎだったもんな……。

 俺の態度を見て、ルネは大きなため息をついていた。


「やっぱりそうですか……。キリエ様の命令でしたし、過去の実績があるとはいっても行かせるべきではありませんでしたね」


「ま、まあ。ちゃんと庭園の世話はしているから、それでいいんだよ。とりあえず、町長の屋敷を案内してくれ」


「魔王様がそう仰られるのでしたら、そう致しましょう。では、ご案内致します」


 ふう、ようやく話が進んだぜ。

 俺が額を拭ってひと息ついていると、後ろでカスミは笑っているし、バフォメットは落ち着いたように見えて無駄な咳払いをしていた。どうやら俺たちのやり取りを面白がっていたようだ。

 俺がギロリと睨むと、二人揃って必死にごまかしていた。


「魔王様? 置いていきますよ」


「ああ、悪い。すぐに行く」


 危うくルネの案内に置いていかれるところだった。ルネが気が付いて声を掛けてくれたので、何事もなかったかのように俺たちはルネの後ろをついて行った。

 そうやってやってきた町長の部屋。無駄に扉がでかかった。


「ちょっと待て、魔王城の扉よりは小さいが、なんかでかくないか?」


「統治者の部屋の扉は大きい方がよいのですよ。これは魔王領での常識でございます」


 俺の疑問に、バフォメットが答えてくれた。なるほど、一種の権力の象徴というやつか。

 納得のいった俺は、扉の前に立つ。


「町長様、魔王様が見えられました。失礼致します」


 ルネが扉の中へと呼び掛けると、扉がゆっくりと開いていく。まさかルネのような小さな体でも余裕で開けられるとは……。意外な光景に俺は面食らっていた。

 そして、ようやく町長とのご対面である。さて、宿場町の町長とはどんな奴なんだろうかな。

 ちょっと楽しみになっている俺なのだった。

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