第91話 転生者、宿場町の進捗を確認する
その後、一泊したトータレ侯爵たちは、いろいろと納得した感じで王国へと戻っていった。かつていろいろ教えられた侯爵を相手にするのは正直疲れたというものだ。
ただ、魔王城での食事と客間を褒めてもらえたのは嬉しかった。これには俺自身も前世の知識などを頼りに口出しをした部分だからな。
というわけで、緊張はしたものの、トータレ侯爵相手の接待を無事に終えて、俺は執務室で伸びていた。
「お疲れ様です、魔王様」
俺がぼけっと座っていると、キリエが紅茶とお菓子を持って部屋にやってきた。
「ああ、キリエか。ありがとう」
淹れてもらった紅茶を一口すする。いつ飲んでもいい温度だ。
「それにしても驚きましたね。魔王様を鍛えた方がいらっしゃるなんて」
「まったくだ。なにせ幼少時から鍛えられてきたが、常に厳しい感じの人だったからな。あんな弱腰を見せられたせいでまったく気が付かなかったぜ」
そういって、俺は紅茶をもう一口すする。
「とはいえ、王国の人間の中ではピエラやマールン以外では少なくとも信じられる人間だ。だからこそ、ウネとかのことも紹介したんだけどな」
「まぁそうですね。魔王様を欺いたことは許せませんが、信念の強そうな方でした」
キリエから見ても、トータレ侯爵の印象はよかったようだ。そのような反応を見ると、俺も少し気分がいいというものだ。自分のことでなくても嬉しく思うというのは久しぶりな感情だった。
お菓子に手を付けた俺は、キリエに別件を尋ねる。
「そういえば、宿場町の整備は進んでいるのかな」
そう、街道沿いに建設中の宿場町だ。人間側もそうだが、魔族側も向かうのであれば休息は必要。野宿では魔物が襲い掛かってくる危険性もあるので、安心して休める場というのはどうしても欲しいわけだ。
俺の質問を受けたキリエは、少し考え込んでいる。
「少々お待ち下さい。担当のバフォメットをお呼び致します」
どうやらキリエは把握できていないらしい。そこで、もう一人の重鎮であるバフォメットを呼びに一度部屋を出ていった。
一人にされた事で、俺は椅子にもたれ掛かるようにして深く腰掛ける。椅子から投げ出されたしっぽは、小さくゆっくりと揺れている。
しばらくすると、キリエがバフォメットを連れて戻ってくる。急な呼び出しだったからか、バフォメットはちょっとご機嫌斜めのように見えた。
「まったく、いきなりなんですか。説明もなしにわたくしめの手を引っ張るなど、あなたらしくありませんよ」
おっと、どうやらキリエが珍しくやらかしたらしい。
だが、俺の部屋にやってきた事で、なんとなく事情は察したらしい。次第にバフォメットは落ち着きを取り戻していた。
「おほん、街道の宿場町の建設でございますね。魔王様の出身である王国との境界から魔王城に至るまで、通常の馬車で二日かかる距離ごとに設けてございます」
何も言っていないのに、バフォメットは宿場町の話を始める。こいつ、エスパーか?
「魔王様? 何を驚いてらっしゃるのですか?」
バフォメットが説明を一時中断して、俺に確認をしてきた。だが、俺はまだ驚きで固まっている。
「バフォメット、魔王様は聞いてもいないのに、求めていた話を聞かされて驚いていらっしゃるのですよ」
「ああ、なるほどそういうわけでございますか。これは気が付きませんでした。ですが、今私を呼んで聞かれる話題など、これくらいしかございませんのでね。間違いございませんでしょうか」
バフォメットからの確認の言葉に、ようやく俺は我に返って首を左右に大きく振る。
「いや、ああ、その通りだ。……説明を続けてくれ」
「はい。では、続けさせて頂きます」
俺は両肘をついて手を組み、その上に顎を置いて少し前屈みの姿勢になる。その状態で続きを求めると、バフォメットは説明を再開していた。
一応かなりの日数が経っているとあって、基本的な機能は備えるくらいになっているらしい。
建設は街道の時と同じく、オークやサイクロプス、ドライアドやノームたちが行っているらしい。魔王である俺から褒められると聞いただけでノリノリで作業にあたってくれるとはな……。これは本当に何か褒美を用意してやらなきゃいけないな。
バフォメットの報告を聞いて、本気でそう思った俺だった。
「では、魔王様が直々の褒美を用意していると伝えておきますか?」
「いや、それはやめてくれ。働きすぎてぶっ倒れられても困る。みんな健康に無事に工事を終わらせられたら、その時にでも用意をさせてもらうさ」
「承知致しました。無理なく進めるよう伝えておきます」
バフォメットは一礼すると、俺の執務室から出ていった。有能すぎるんだが、有能すぎて逆に怖いぜ。
俺はバフォメットを見送ると、キリエの用意してくれた紅茶とお菓子で再びひと息つく。
魔王になってからというもの、結構な日数が経っているが、現状はとても平和だ。まあ、やることは多いんだがな。
願わくは、この平和な時間が続いてほしいものだがな。
近隣諸国を調査しているコモヤの報告を気長に待つとするか。
ひと息入れ終わった俺は、再び書類と格闘することにするのだった。




