第90話 転生者、結局隠し事ができない
おとなしくなった俺を見て、最初はびびった様子を見せていたトータレ侯爵はにっこにこの笑顔を見せている。してやったりといったところなのだろう。完全にしてやられただよ、まったく。
「それはそれとして……。魔族たちの態度を見る限り、ずいぶんと慕われているようですね、セイ」
ここまでの俺に対する魔族の様子を見ていたらしく、びくつく俺に優しく声を掛けてくるトータレ侯爵。
トータレ侯爵の言葉に、俺は照れくさく頬をかく。後ろではキリエが当然ですといった感じのすました顔で立っている。
俺が見せる珍しい姿に、魔族の薬師たちは驚いている。だが、事情を説明するとすぐに納得したようだった。魔王のかつての師匠であるのなら仕方がないといった感じだった。
「まぁ、俺が魔王っていうのが大きいだろうな。魔族は魔王には結構無条件で従うところはあるし」
俺がこう言うと、すぐさまキリエから指摘が入る。
「違いますよ。魔王様から感じられる人柄、そしてその強さにみなさん心酔しているのです」
すると、魔族の薬師たちが勢いよく頷いている。薬師たちはそもそも面識がないし、俺のやった事なんてのはあまり知らないはずなんだが?
「魔王様がメズレスたちを追い出してくれたから、私たちは戻ってこれたんです」
「そうです。あのままでは魔王城を追い出された薬師として情けない生活を送りかねませんでした。本当に感謝しています」
次々薬師たちが頭を下げてきて、思わぬ事態に俺は戸惑ってしまう。
「まったく、魔王様はいつもご謙遜なさるのですね。自分が行った数々の行動をしっかりと思い出して下さいませ」
キリエに咎められて思い出そうとする俺だが、はたしてどれを指してこんな風に言われているのか見当もつかなかった。
俺のこの態度を見て、キリエは頭を押さえながら特大のため息をついていた。キリエの行動がよく分からない俺だったが、トータレ侯爵はどうやら理解できたらしくて笑っていた。
「はっはっはっ、こういう無自覚なところは相変わらずよな、セイ。お前さんも苦労するな」
「お言葉ではございますが、まったくその通りでございます」
「おい、その言い回しで否定しないのかよ!」
キリエの反応に思わずツッコミを入れてしまう俺である。俺の反応のトータレ侯爵は大口を開けて笑っていた。
だが、これだけ騒いでいれば当然こういう事態が起きてしまう。
「もう、さっきからうるさいのよー!」
そう、ウネが乱入してきたのだ。
庭園からこの薬師たちの詰所まではあまり距離が離れていない。騒げば当然ウネの耳にも入ってしまうというわけだった。
「いや、悪かったな。邪魔して悪い。とにかく草花の世話に戻ってくれ」
俺が慌てて穏便にウネを庭園に戻そうとするが、これがまたうかつな発言だった。
「ほう、妙な魔族が世話している庭園か……。これは興味があるな」
トータレ侯爵が興味を示してしまったのだ。この反応を見て、俺はキリエの方へとそーっと視線を向ける。
うん、明らかに怒っているわ。何のために遠回りしたんだよという視線を俺に向けている。見えないはずの怒りマークがはっきりと見えるぜ。
この状況に俺は観念する。
「トータレ侯爵、これから見せることは他言無用でお願いします。他の人はここで待機しておいてくれ」
「庭園を見せないように移動してきたわけだからな。さすがに私でも何かあるというのよく分かるぞ」
事情を察してくれたトータレ侯爵は、連れてきた面々に薬師たちの相手をするように命じておく。そして、俺やキリエ、それとウネと一緒に庭園へと移動する。
詰所から外へ出ると、そこには緑があふれる庭園が広がっていた。しかも、植えられた植物にこれといっていいほどのまとまりがない。
「これは、こんなに様々な種類を乱雑に植えておいて、どうにかなるものなのか?」
トータレ侯爵は、目の前のちぐはぐでめちゃくちゃな庭園に驚いてドン引きだった。さすがは貴族、自分の屋敷の庭園とかがあるので、この庭園の異常さにすぐに気が付いたようだった。
「わちの能力を使えば、このくらいはどうとでもなるのよー」
ウネは実に自慢げである。
庭園を案内していると、トータレ侯爵はとある一角で足を止める。そこに植えられて植物を見ながら震えているようだ。ピエラはともかくとして、トータレ侯爵もこの植物が何か知っているようだった。
「ちょっと待て、『緑精の広葉』に『赤霊草』もあるじゃないか。ここはどうなってるんだ」
「侯爵様も知ってるんですね、これ」
「当たり前だ。国政に関わるものとして、あらゆる知識を持ち合わせているのだぞ。今回私が薬師の一件でやってきたのがどうしてか分からないのか」
「いや、俺への対策のためじゃないのか?」
「それもあるだろうがな。それ以上に薬師の上司にでもあるのだよ、私は」
トータレ侯爵に怒られる。いや、国政に関わってるのは知ってるが、まさか薬草に精通しているなんて知るわけないじゃないか。なんて理不尽な怒られ方なんだよ。
文句のひとつも言いたいが、ひとまずそれはぐっと抑えておく。一応交渉の場だからな。
対応に困っている俺の顔を見てキリエが笑っている。これには何とも言えない気持ちに放ったものの、ひと通りの説明をトータレ侯爵に行うのだった。




