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異世界転生者のTSスローライフ  作者: 未羊
第一章 大陸編

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第88話 転生者、部屋のにおいが気になる

 王国からやってきたおっさんを追い返し、俺は気持ちを落ち着けようとウネのところへとやってきた。


「あら、魔王様ー。どうしたのよー」


 俺が姿を見せると、ウネののんびりと間延びした声が聞こえてくる。うん、なんとも今は落ち着く声だ。


「いや、変な奴が来て対応に疲れたからな。ちょっと落ち着きに来たんだ」


「そうなのよー」


 俺に対応しながらも、畑や庭園などをじっくりと見て回るウネ。その草花を愛でる様子は、実に落ち着くというものだ。

 さて、この庭園にやってきたわけだし、薬師たちも様子を見ておくか。


「薬師たちはあの詰所の中か?」


「そうなのよー。たまに薬草を採りに来るくらいで、ほとんどあの中なのよー」


「そうか、ありがとな」


 答えてくれたウネに礼を言いながら、俺は薬師の詰所へと向かう。

 中では薬草のにおいがこれでもかと漂っている。扱っているものが繊細とはいえ、ずいぶんとにおいがこもってしまっているようだ。

 今の俺は獣人なせいで鼻が利きすぎる。そのせいで鼻が曲がりそうな感覚に陥ってしまった。


「うう、洗浄魔法っと……」


 以前、ピエラから無理やり覚えさせられた洗浄魔法を使って、自分の顔周りの空気だけをきれいにしておく。これだけでもずいぶんと楽になるというものだ。


「ふぅ、すごい薬品のにおいだな。こんなにひどいのは病気をした時に診てもらった病院以来か……」


 俺は詰所の一室にどうにかたどり着いた。

 そこでは魔族と人間の薬師たちがあれこれと作業をしていた。薬瓶の中の色を見る限り、治癒ポーションといったところだろう。淡いピンクが特徴的だからすぐ分かる。


「あっ、魔王様?!」


 たまたま席を立った薬師が俺に気が付いて声を上げる。その声で反応したのは残りの半分くらい。まったくすごい集中力だな。


「魔王様?! どうしてこちらにいらしたのですか」


 特に魔族の薬師たちの反応が早かった。魔族が魔王に気が付かないなど、不敬にもほどがあるということでこれだけ反応が早いのである。

 一人が反応した後の魔族の反応の素早さに驚くが、俺は落ち着いて質問に答える。


「薬師たちがどういう状況なのか確認しに来ただけだ。俺は魔王だから、隅々まで把握しておく必要があるからな」


 もっともらしい事を答えておく。魔族の薬師はその答えで納得してくれたようで、座って落ち着いてくれたようだった。

 気が付くと、薬師は全員切りのいいところまで作業を終えて、おとなしく椅子に座っていた。

 俺と対応していた魔族は、どこからともなく椅子を持ってきて俺に座るように促してきた。強く勧めてくるので、仕方なく俺は椅子に腰掛ける。


「どうだ、作業の具合は」


 とりあえずは漠然として現状の確認だ。安心して作業をしてもらうには、環境を整える必要があるからな。


「はい、ここはいろんな素材に器具が揃っていて、とてもやりやすい環境です」


「ご飯も寝床もちゃんと確保されていて、はあ……、王国に戻りたくないですよ」


 人間の薬師たちはこの状態だ。


「まったく、魔族でも手に入れるのが困難な素材も揃いますからね。さすがは魔王城だと思います」


「あの変態たちを追い出してくれたおかげで、のびのびと作業ができて嬉しいですよ」


 魔族の薬師たちの満足度も高いようだ。

 メズレスたちという悩みの種を全部除去したのは、実に環境の改善には大きかったようだ。まあ、あいつらの視線には俺も寒気を感じたからな。

 薬師たちの話を聞いていて、俺は納得しながら頷いている。本当に環境を整えておいてよかったと感じている。


「魔物の素材とか欲しいものがあったら、キリエたち使用人を通じて要望を出しておいてくれ。すぐとまではいかなくてもできるだけ早く対応させてもらうからな」


「はい、ありがとうございます」


 薬師たちから感謝の言葉を受けて、俺は嬉しそうな表情で薬師たちの詰所から去ろうとする。


「あっ、そうだ」


 が、その直前にふと何かを思い出す。


「なあ、部屋のにおいとか気にならないか?」


「いえ、特には」


「気になりませんね」


「……そうか」


 あっけらかんとした表情で返ってくる答えに、俺はどう反応していいのか戸惑ってしまう。


「どうかなさいましたか、魔王様」


 俺の首を傾げる仕草が、どうも気になったようだ。


「いや、なんでもない。まぁ気にしないで仕事を頑張ってくれ」


「……はい」


 俺は詰所から出ていく。薬師たちはしばらく俺の反応に首を捻っていたようだった。

 中にしばらくいるとその辺りの感覚が狂ってしまうようだ。やれやれ、慣れというものは困ったものだな。

 俺は腕を組んで唸りながら、ウネの元に戻ってくる。


「魔王様、どうしたのよー?」


「いや、なんでもない。ウネってあの詰所の中に入った事は?」


「あるのよー。それがどうかしたのー?」


「いや、においとか気にならなかったかなって」


 俺がウネに確認すると、ひたすら首を捻るウネだった。ああ、植物なせいか気にならないのか……。


「変な魔王様ー」


 ウネは何事もなかったかのように、草花の世話を再開させていた。

 その姿を見た俺は、ぽりぽりと頭の毛をかきながらその場を後にしたのだった。

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