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異世界転生者のTSスローライフ  作者: 未羊
第一章 大陸編

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第87話 転生者、現実を目の当たりにする

 訓練場から城内に戻った俺を待っていたのは、大量の書類だった。

 要望云々は解決したものの、今度は王国側とのやり取りなど大量の文書が届いているのである。

 そういえば、魔王領という形で、今は王国所属だったな。社交界こそ免除されているものの、納税だのなんだのといろいろ話がやって来るというわけだった。ちっ、面倒だな。

 目の前の大量の書類に頭が痛くなる俺だが、事前に気分転換をしておいて正解だった。あれがなければ、きっとすぐに放り投げていただろう。


「魔王様、私も手伝いましょうか」


 紅茶を持て来たキリエが俺に話し掛ける。参謀であり専属メイドであるキリエの助力は、確かに頼もしい限りである。

 だが、王国とは勝手の違う魔王領で生まれ育ったキリエに、王国の仕事ができるかどうかというと少々疑問が残るのだ。


「いや、これは王国の仕事だしな。キリエは魔王領の仕事を頼むよ」


「畏まりました。厳しそうだったら仰って下さい、お手伝い致しますので」


 キリエはどうしても手伝いたそうにしていたが、俺は丁寧に断っておいた。

 そんなわけで、俺は黙々と王国から送られてきた書類と向き合っていた。

 これだけスムーズに書類が送られてきたのは、先日整備した街道のせいだ。あれのおかげで商人たちが来るようになったものの、こういった雑務を持ってくる兵士たちまで平然とやって来る。

 魔王領というだけで敬遠していた者も多いはずなのだが、どうしてこうなった。

 だが、書類整理でなければ、キリエやバフォメットも同席させられる。なので、キリエの申し出を断りはしたものの、同じ部屋の中で別々の仕事をこなしていた。


「魔王様、王国の方が見えられています」


 魔王城の中で働く使用人が俺の執務室にノックもなしに飛び込んできた。


「どうしたのですか、騒々しいですね」


 俺は顔を上げただけだったが、キリエの方はしっかりと咎めている。キリエは使用人を束ねる立場にあるせいでかなり厳しいのだ。


「も、申し訳ございません。ですが、私ではとても止められそうに……」


「ふん、どけっ!」


 使用人が事情を報告し終わる前に、偉そうな態度のおっさんが使用人を張り飛ばしていた。


「何をするのですか、魔王様の御前ですよ!」


 キリエが珍しく声を荒げている。それと同時に、突き飛ばされた使用人に近付いて治療を施していた。


「ふん、メイド風情が偉そうに……」


 おっさんは謝罪もなく俺の方へと顔を向ける。

 だが、こんな事をされては俺の話す気にもなれない。


「わざわざこの俺が出向いてきたのだ。おとなしく要求を飲め」


 まったく自分勝手に話を進めている。


「帰れ」


「は?」


「帰れといっているんだよ!」


 俺は大声で叫ぶと、おっさんに殴りかかっていた。


「いけません、魔王様。帰すにしても穏便に!」


 キリエの声で俺は殴り飛ばすことをやめ、おっさんの襟首を掴み上げた。かなり重そうなおっさんだが、軽く持ち上げられた。


「くそっ、離せ。俺が誰か分かってるんだろうな?」


「ああ、分かってるよ」


「だったら、さっさと……」


 じたばたと暴れるおっさんは偉そうな態度を崩さない。最初の行動だけで既に切れていた堪忍袋の緒は、その態度にもう一段切れた。


「キリエ、このおっさんを黙らせてくれ。あと動けないようにもな」


「畏まりました。お連れも同じようで構いませんか?」


「ああ、問題ない。こんな無礼な奴を送り込んできたんだ。王国にも警告を添えて丁重に送り返してくれ」


「承知致しました」


 俺が許可を出すと、キリエはおっさんとその部下をまとめて魔法で縛り上げていた。本当に魔法って便利だよな。

 あと、ギャーギャーうるさいので口も塞いでおいた。今度はうーうー唸って入るが、さっきよりはマシか。


「バフォメット、いますか?」


「はっ、こちらに」


 キリエが呼び掛けると、ゆらりとバフォメットが姿を現した。


「いけませんね、心優しい魔王様の御前であの狼藉。魔王様のご許可があれば、わたくしめが手を下しておりましたよ」


 物騒なことを言っているが、ここは魔王領である。そのために、王国内の属領となれど法ははっきりいって別物だ。

 目の前で唸るおっさんも、王国内の感覚で来てたんだろうな。人間の法で魔族を縛れると思うなよ。

 俺はさらさらと手紙を認めると、封筒に入れておっさんの首からぶら下げる。


「はっきりいって見るのも不快だ。とっとと人間たちの領域に捨てて来てくれ」


「御意に。人間、魔王様がお優しくて命拾いをしましたね。次があるとは思わないで下さいよ?」


 バフォメットが視線を向けると、おっさんはその目の奥に何かを感じたのか、唸るのをやめて黙り込んでしまった。そして、こくこくと激しく何度も頷いていた。

 さすがは長く魔王に仕える重鎮の魔族だなと思うぜ。


「さて、そっちのメイドは大丈夫だったか?」


「は、はい。ご心配をお掛けしました」


 キリエの治療を受けた使用人は、俺に対して何度も頭を下げていた。

 まったく、せっかく街道を整備したというのに、これでは先が思いやられるな。

 街道沿いに進んでいる宿場町の整備の事を思うと、俺は頭が痛くてたまらなくなった。

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