第83話 転生者、クルクーをゲットだよ
俺がクルクーが欲しいというと、リーツの様子がどういうわけか険しくなっていく。
どういうことなのかとカスミの方を見るが、カスミもどういうわけか分からないようだ。
くそっ、一体何がどうなっているんだ。俺はリーツの雰囲気に思わず息を飲んだ。
予想外の態度に硬直する俺をよそに、リーツはくるりと俺に背を向けていた。
「ついてきなさい」
そうとだけ言うと、リーツはとことこと歩き始めた。一体どこへ向かおうというのだろうか。
わけが分からないが、とりあえず俺とカスミは、リーツの後を追いかけていく。
そうやって向かった先には、まん丸でふわふわのもふっとした感じの可愛らしい鳥なのかどうかよく分からない生き物がたくさんいた。
「うわっ、なんだこの可愛い鳥たちは」
俺は思わず駆け寄ってしまう。
なにせ前世ではセイ太というメスの犬を飼っていたし、割と俺は動物が好きなのである。
だが、自分自身が動物になるというこの状況は、いささか不本意だがな。
「なんと、クルクーが懐いておる……だと?」
リーツが目の前の状況に驚きおののいている。
聞いていた限り、クルクーはドライアドにとってはパートナーのような鳥だ。現状では、ドライアド以外に懐くというのはまずありえないというのが、リーツたちの常識なのだそうだ。
だが、どうしたことだろうか。そのクルクーは俺から逃げるどころか、逆に近付いてきて体をこすりつけてくる。
ついでに言うと、俺が頭を撫でてやれば気持ちよさそうに目を細めている。この光景にはリーツは首を突き出して固まってしまっていた。
「どういうことなのだ。まさか、わしら以外に懐く相手がいるとは……」
クルクーの世話係であるドライアドたちも驚いてその光景を見ている。
俺はクルクーと戯れながらくすぐったくしている。そして、リーツに対して再び声を掛ける。
「なあ、何羽か連れて帰ってもいいか? ちゃんと世話もするし、数を減らす事もしない。構わないか?」
俺の問い掛けに、リーツはものすごく複雑な表情で唸っている。懐かれているので許可は出しても構わなさそうなのだが、ドライアドの長としての立場が彼をここまで悩ませているのだろう。
長く悩み抜いた末、ようやくリーツがポンと手を叩く。
「分かった。つがいで4組でどうだ」
「それで構わない。最初は数を増やす方向から始めるつもりだ」
リーツの提案数に、俺はすぐさまオッケーを出す。
だが、リーツの話はこれでは終わらない。俺たちが抱える問題というものを、リーツは見抜いていたのだ。
「ふむ、それは構わぬが、そちらでクルクーを世話できる者はいるかな?」
「はっ!」
リーツに問われて俺は知ってしまった。
そう、魔王城の中でクルクーを知る者はキリエとカスミ、それとドライアドであるウネの三人だけだ。だが、知っているからといって世話ができるかといわれたら、それはまた別の問題である。
「うう、そこに気が付かないとは……」
「魔王様ってどこか抜けてるのですよね」
「気付いていたのなら言ってくれ。要らない恥をかいただけじゃないか」
「何か問題でも?」
めちゃくちゃ冷たいカスミだった。どこか俺のことを敵視してないか?
俺たちのやり取りを見ていたリーツは実に楽しそうに笑っている。
「ほっほっほっ、実に仲が良いようですな」
「そう見えるか?」
笑いながら話すリーツに、俺はついつい睨みつけるようにして少し声を荒げてしまう。だが、リーツの方はそれに動じることなく引き続き笑っていた。
そして、その状態のままで両手を二度ほど叩くと、ドライアドが二人ほど俺の前に姿を現した。
さっきまで居なかったはずなのだが、一体どこからやって来たのだろうか。
「お呼びでしょうか、長」
「うむ、魔王様についていって、クルクーの世話をして欲しいのだ。構わぬかな?」
「はい、問題ございません」
リーツの呼び掛けに即答するドライアドたちだった。見る限り、ウネと同じで女性型のようである。
「魔王様、こちらがクルクーの世話役を務めることになる、クルルとルククの双子の姉妹でござます」
「ドライアドにも双子っているのか」
「ええ、そこそこの率で存在しますぞ。むしろそれほど珍しくはないというくらいですぞ」
なんとまぁ、双子はかなり多いということらしい。ならば、ウネにもいたりするのだろうか。
それはさておき、この二人をクルクーの世話役として魔王城に遣わしてくれるらしい。かなり助かる提案だ。
無事にクルクーという鳥を手に入れた俺は、リーツに礼を言っておく。そして、世話役の二人も連れて意気揚々とカスミとともに魔王城へと戻っていった。
(これでしばらくは数を増やす事に専念して、安定してきたら卵料理が食べられるようになるな)
異世界転生してからというもの、足りなくて困っていたものがこれで一つ埋められることになる。
こうやって動物を飼うことも、スローライフには必須だからな。
自分で世話をするわけではないものの、今回のドライアドの里の訪問は、実に満足度の高い結果となった。
欲しいものをひとつ手に入れた俺は、次なる目標を立てることにするのだった。




