第82話 転生者、ドライアドの里を訪れる
カスミの案内で、俺はドライアドの里へと向かっている。
それにしても、さすがは木の精霊であるドライアドが住む里。さっきからまったくもって道なき道を進んでいっている。本当にこっちで合っているのが疑いたくなるくらいに道がない。
「おい、カスミ。本当にこっちなのか?」
「間違っていませんよ。あたしが信用できないの?」
俺が疑問を呈すると、カスミは怒ったように言葉を返してくる。魔王相手に遠慮がねぇな。
でも、俺はドライアドの里の位置が分からないので、カスミが案内する通りについて行くしかない。その後は特に言葉も交わす事なく、淡々と移動していった。
魔王城を出てから4日ほどが経っただろうか。ようやく目の前の景色が開けた。
「うおっ……、ちょっと眩しいな」
思わぬ日の光に、つい目をつぶってしまう。
それにしても、こんな道なき道を通り抜けてきたというのに、なんでカスミの服は汚れてないんだよ。俺の服なんて泥だらけなのによ。
「服が汚れていないのはメイドとしてのたしなみです。それよりも、到着しましたよ、ドライアドの里に」
カスミがそう言うと、目の前にはウネによく似た存在が動き回る不思議な光景が広がっていた。
「うわあ、これがドライアドたちか。確かにウネによく似ているな」
ちょこまかと動き回る小さなその姿に、思わず微笑ましくなってしまう。
だが、ここに来た目的を忘れるわけにはいかない。クルクーという鳥を集めに来たのだ。
そのためにはどうにかドライアドたちから話を聞かなければならない。なので、俺はまずカスミに話をつけてもらうように頼んだ。
「はあ、仕方ないわね。あたしじゃキリエ姉みたいにはいかないけれど、やれるだけやってみるわ」
俺は黙ってカスミの後について、ドライアドの里に足を踏み入れた。
「ああ、カスミじゃないか。久しぶりだねぇ」
「みんな元気そうね。特に変わりはないかしら」
「ああ、変わりはないとも。ここは周りから隔絶されているから、訪れる人もほぼ居ないからね」
カスミはドライアドたちとわいわいと楽しそうに話している。言っていた事と現実がまるっきり違うじゃないか。
そんな中、とあるドライアドが俺の方に気が付いて視線を向けてきた。
「カスミ、このもふっとしたやつは誰だい?」
低い位置からにゅっと根を伸ばして俺の顔に近付くドライアド。どうやら俺の事を知らないらしいので、隔絶されているのは間違いなさそうだった。
その様子を見ていたカスミが、ドライアドたちに説明を始める。
「キリエ姉が来た時に説明していたと思うけれど、その方が新しい魔王様よ。今回は獣人の魔王様ということで、少々問題は起きたけれどね」
「ほうほう、獣人とはな。それはぶったまげたなぁ……」
俺に顔を近付けていたドライアドが、納得したかのように根を縮めて地面に戻っていく。
「そいつは大変だったろうに。ささっ、こんなところで立ち話もなんだ。里の中に案内するよ」
「ちょっと待て、そんな簡単に招き入れて大丈夫なのか?」
俺の手をいきなり引っ張るものだから、つい叫んでしまう。
「大丈夫だよ。カスミが連れて来たのなら、信用できる相手に違いない」
ドライアドはそんな事を言って、俺の手を引っ張り続けていた。
なんて強い力なんだ。
純魔族ですら一発で吹っ飛ばしたような俺の力でも逆らえない。
結局、俺はされるがままにドライアドの里の中に引き込まれていった。
カスミと一緒に案内された場所は、ドライアドの長の家だった。
「お待たせ致しました、新たな魔王様。わしがドライアドの現在の長であるリーツでございます」
見るからに年老いたドライアドが出てきた。それにしても名前に捻りがねえ。
「どうですかな、魔王様。ウネは悪さをしておりませんかね」
リーツが問い掛けてくるので、俺は正直に話しておく。リーツは表情を変化させる事なく、ただ頷いて俺の話を聞いていた。
「やっぱりそうですか。アルラウネから名前を取るくらい捻くれたドライアドですからな。ちょっと自由は過ぎますが、悪い子ではないのでどうか温かく見守ってやって下さい」
「あ、ああ。もちろんそのつもりだよ」
俺は戸惑いながらも頷いておく。
「ところで、魔王様は何の目的でこの里にいらしたのですかな」
すると、リーツは突然本題に突っ込んできた。まったく、その心の内がまったく読めねえな。ウネと同種族だってのが納得できるぜ。
「うん、鳥の卵を定期的に手に入れようと思って、ここにいるっているクルクーっていう鳥を何羽か連れて帰りたいんだ」
俺がそういった瞬間、リーツの表情が変わった気がした。
「ほほう、我らが友人たるクルクーを欲するというのですか……」
さっきまでと明らかに雰囲気が違っている。まるで怒っているかのように、周囲の空気がピリピリとしている。
まったく、一体なんだっていうのだろうか。
それなりに警戒される事は予想はしていたが、ここまで怒りをあらわにするとは思ってもみなかった。
戸惑う俺に、静かに怒れるリーツ。そして、まったく動じていないカスミ。
一体この後どうなってしまうんだよ。俺は心の中で悲鳴を上げたのだった。




