第81話 転生者、畜産に手を出そうと考える
魔王領内の統治、王国との間の街道の整備、いろいろやらかしてくれるウネの対処と、ようやく一段落がついてのんびりできる日々がやって来た。
俺の出身国以外の様子はコモヤが中心となって調べて回ってくれている。
侵入してきた人間たちから奪った装備類は、魔王城まで献上させるようにした。魔王領へやって来る人間たちは対魔族装備で固めていることもあるので、魔族たちの手元に置いておく事がそもそも危険だからな。
というわけで、俺はようやくこうやって畑仕事に精を出しているというわけだった。
「ふぅ、こうやって汗を流すのもたまにはいいよな」
「さすがは魔王様。様になってるのー」
力仕事をして汗を拭う俺。全身体毛に覆われているので、拭っている感がないのがつらい。
水分を飛ばすために身震いするっていうのがよく分かるぜ。
「畑仕事もいいが、スローライフといえば家畜もそうだよな。牛乳と鶏卵は必須だな」
「牛乳と鶏卵?」
俺が畑を見ながら話していると、ウネが首を傾げながら尋ねてきた。
なので、俺はそれがどういうものなのかをウネに説明しておく。すると、ウネは珍しく腕を組んで足をトントンとさせながら唸っていた。
「さすがのわちも知らないのー……。鶏が何か分からないけれど、鳥の卵なら何でもいいのー?」
「まぁそうだな。鳥の卵、簡単に手に入りそうなのはあるか?」
「それならあるのよー」
どうやら、鳥全体にまで範囲を広げるとそれなりに候補はいるらしい。なので、俺は無毒の鳥に絞ってウネに再度問い掛ける。
すると、今度はさっきより早く答えが返ってきた。
「わちたちドライアドとは仲のいい、クルクーという鳥がいるのよー。あれならおとなしいし、魔王様の希望にそうと思うのー」
「そうか、それは助かるな」
「ふふん、もっと褒めてー」
鼻息荒くドヤ顔とポーズを決めるウネである。あまりに可愛かったせいか、俺はついその頭を撫でてしまった。
卵が手に入れば、料理の幅が広がるからな。王国の中でも牛を飼うというのはあったが、鳥を飼うという行為は連絡手段目的にしか使われていなかったからな。
卵が定期的に手に入るようになれば、学生時代まで趣味で料理をしていた俺の腕前が猛威を振るうだろうな。
ついついそんな妄想をしてしまう俺なのだった。
「それじゃ魔王様、自分で集めに行ってくるのよー」
「うえっ?」
妄想しているところに急にウネから声を掛けられて、俺はつい変な声を出してしまう。
「だからー、ドライアドの里まで行って、クルクーを集めてくるのよー。魔王様が相手ならー、みんなよくしてくれると思うよー」
ウネはにこにことした笑顔を浮かべたまま、俺にそんなことを言ってくる。なんでそんなに楽しそうな表情をしているのだろうか。
いろいろ思う俺だが、ドライアドの里という単語にとても興味を持ってしまう。
「ふふん、魔王様が気になっている。場所なら、キリエやカスミが知っているのよー。どっちかに案内してもらうといいのよー」
「なんだ、カスミも知ってるのか」
「そうなのよー」
「ふむ、それなら助かるな」
俺はつい顎に手を当てて考え込む。
それというのも、今はキリエは薬師の相手で忙しいからだ。キリエもピエラも手が空いていないとなれば、カスミを動かすしかないのだから、知っているというのは実に心強い情報だった。
「分かった。それじゃ、俺たちがドライアドの里に行っている間、ウネはこの庭園の事を頼んだぞ」
「任せるのよー」
「ただし、やりすぎんなよ。またキリエにどやされるからな」
「うう、分かったのよー」
キリエに叱られるというワードは、ウネにかなり効果的になっていた。ここまで散々説教を受けているので、相当にトラウマになってきているのだ。
ウネと話を終えると、俺はメイドたちの集まっている部屋へと向かっていく。
以前の俺なら戸惑う場所だったが、今の体になってからというものまったく抵抗がなくなった。慣れっていうのは怖いものだ。
「カスミ、いるかな?」
一応ノックをしてから中に呼び掛ける。魔王とはいえ礼儀は欠かせない。
しばらくすると、扉がゆっくりと開いてカスミが顔を出してきた。
「何でしょうか、魔王様」
相変わらず不機嫌そうな顔のカスミだ。キリエと違ってまだ俺に完全に気を許してないからな、こっちは。
とりあえずその事は置いておいて、用件だけをスパッと伝えることにする。
「ドライアドの里に連れていってほしい」
「は?」
ものすごい威圧を持って顔を歪ませるカスミ。
ひとまずそうなった経緯を説明すると、カスミの表情が緩んでいった。
「そういうことでしたら、承りますわよ。あたしに任せなさいって」
自信たっぷりのカスミである。
なので、俺は全面的にカスミを信用して任せることにした。
こうして、卵を求めにドライアドの里に行くことになった俺とカスミ。
正直言って、どんな連中がいるのか楽しみだ。もっとも、ウネのような気ままな性格ばかりだと疲れてしまいそうで困るがな。
しっかりと準備を終えた俺とカスミは、城の事をキリエやバフォメットたちに任せて、ドライアドの里に向けて出発したのだった。




