第80話 転生者、結局厄介事を引き受ける
慌てたピエラがキリエを呼びに行っている。一体何がどうしたのだろうか。
俺はピエラが驚いて眺めていた葉っぱが気になって仕方がない。どんなものなのかちょっと見てみる。
そこにあったのは、なんともくすんだ感じの赤色の葉っぱだった。
(ポインセチアかな。なんか不思議な感じのする葉っぱだな)
ところどころ緑色と赤色が混在する葉っぱは、前世で見た事のある植物によく似ている。
しばらく眺めていると、キリエを連れたピエラが戻ってきた。その表情はとても慌てた感じだった。本当に一体どうしたというのだろうか。
「またウネは勝手なことをしてくれたんですか?!」
キリエがずいぶんと声を荒げている。こういった声を出すというのはとても珍しいと思うぜ。まあ、先日の『緑精の広葉』の依頼だから、つい最近聞いたばかりなんだよな。
キリエは俺のいる場所へとどんどんと近付いてきている。
「ああ、魔王様。その手に持ってらっしゃるのは……」
そう言いながら、キリエは俺の手に握られていた葉っぱを見つめている。どうやら今回問題にしているのは、俺が手に持っているこの葉っぱらしい。
「はあ、嘘でしょ……」
額に手を当てて天を仰ぐキリエ。まったくもってどういう事なのかは俺に理解できない。
俺が困惑して様子を見ていると、ピエラの方が俺に声を掛けてきた。
「ごめんね、セイ。その葉っぱ、上級以上の治癒ポーションに使う葉っぱなのよ。それこそ自生しているのを見つけるのも難しいといわれている葉っぱなのよ」
「えっ、マジか?!」
ピエラの説明を聞いて驚く俺。くるりとウネの方を見るが、マイペースに庭園の世話をしているようだった。
「ウネはアルラウネの食いもんだって言ってたけど、そんなに珍しいものなのか?」
「そりゃねえ。ドライアドもアルラウネも、基本的には姿を見せない種族だもの。まあ、ドライアドは最近大量に出現したけど……」
俺の質問にどう反応していいやら困っているピエラである。
「魔族でもドライアドはともかくとして、アルラウネは会いづらい種族ではありますね。花を愛でるアルラウネは、花を踏み荒らす魔族を嫌いますから」
「ああ、なるほどな」
キリエの言葉を聞いて、俺は鼻歌を歌いながら庭園の世話をするウネを見てしまう。だが、ウネは名前の割に種族はドライアドである。
「自然を愛する~、それがドライアド~」
キリエやピエラが頭を抱えているというのに、当のウネはのんきなものである。
「今度、アルラウネの知り合いが来るのー。その子へのプレゼントなのよー」
と思ったら、急にキリエとピエラが頭を抱える原因となった植物を育てた理由を語り出した。
「名前はー、ウルっていうのー。近所の幼馴染みー」
聞いてもいないのに答えるウネである。名前が似てるな、紛らわしいぞ。
ツッコミたいのは山々だが、とりあえずは心の中にしまっておく。
「理由は分かりましたが、さすがに多すぎます。友人が帰られた時には、ちゃんと元通りにするか、規模を押さえてくれませんかね」
理由は分かっても納得しないのはキリエである。彼女には参謀としての役割があるために、魔王城内の秩序を守らなければならないのだ。だから、いくら知り合いとはいえ厳しい態度に出るってわけだ。
ウネはどこかマイペースなようだが、キリエの気持ちは汲み取ったらしくこくりと頷いていた。
「しょうがないのね。規模を抑えるしかないのー」
そうは言うものの、表情はものすごく不服そうだった。まったく、自由な奴だな。
「まったく、自由にしてはいいとは言いましたが、ここは魔王城の中ですからある程度こちらの言い分には従って頂かないと困ります。先日の『緑精の広葉』もそうですし、今回の『赤霊草』もそうですよ。過ぎたるものを多く抱え込むことは危険を招きます」
キリエはお説教モードである。ウネはそれを頬を膨らませて不機嫌な様子で聞いていた。
「むぅ、私たちの主食!」
ご飯の制限を食らって不機嫌というわけである。植物系の魔族であるウネたちにとっても、食事は大事なのである。
「誰も栽培するなとは言っていません。量を抑えてほしい、そう言っているのですよ」
キリエは釈明するも、ウネの不機嫌な様子は直る事がなかった。
「そういえば、緑精とか赤霊とかどういう意味なんだ?」
あまりにも雰囲気が悪かったので、俺はふと思った質問をぶち込んだ。
だが、それに答えたのはキリエでもウネでもなく、ピエラだった。なんでだよ。
その説明によれば、緑精というのは頭に葉っぱの生えるドライアドを指し、赤霊というのは頭に赤い花の咲くアルラウネを指すのだそうだ。そのまんまかよ。
命名の理由も単純で、ドライアドやアルラウネを見かけた近くで高確率で発見されているからだ。
こういう薬草類は取り扱いが難しく、それがゆえに材料としたポーション類が高くつく。それゆえに大量に安易に手に入るとなれば、それは確かに大問題というわけである。キリエが怒るのも無理はない。
「しょうがない。ピエラもキリエも他にもやる事があるし、俺が畑の様子を見ながらそれとなくウネをコントロールするか……」
盛大にため息をつきながらも、キリエに知恵を貰いながら俺がウネの面倒を見ることになったのだった。




