第77話 転生者、引き返す
俺がマールンと話しているとキリエがやって来た。仕事モードなのか、なんとも無表情である。顔のパーツは整っているし、笑っていれば本当に愛想がいいんだが、参謀という立場もあるからだろうな。
「魔王様、門の外まで整備が終わりました。どうかご確認願います」
どうやら、整備が完了したとの事らしい。
そんなわけなので、俺はマールンや兵士たちも呼んで、その整備した状態を確認することにした。
そうやって見せられた魔王領側の地面。そこはきれいなまでに敷かれた石畳と、凹凸の消えた土の地面が広がっていた。よく見ると水はけをよくするためのため池と小さな溝も見える。
「どこでこんな土木技術を覚えたんだよな……」
「魔族に不可能は……あるにはありますが、人間と同じにしてもらっては困ります」
きりっとした表情で答えるキリエ。街道整備に参加した魔族たちも無言ながら何度も頷いている。
「それに、きれいな街道を整備するように仰られたのは魔王様です。私たちは以前見た人間の街を参考にそれを実行したまででございます」
キリエはそういうものの、人間の街の地面だって結構ガタガタだ。
それがどうだろうか。門の近辺の石畳はこれでもかというくらいまっ平らになっている。しかも、適度な隙間を持たせる事で水はけを確保し、滑りにくい状態になっていた。
それは土の部分にいえることで、まるでロードローラーが走ったんじゃないかというくらい平坦だった。改めて思うが、魔族の魔法恐るべしといったところだ。
「見事すぎて言葉もないな。これならしっかり褒美を取らせないとな」
俺が評価を下すと、参加した魔族たちはみんな喜んでいた。
この様子を見ていたマルーンたちは、魔族たちの行動が理解できないのか呆然としていた。分からなくはない。
「ここまでの街道の路面状態を確認しながら戻って、あとは宿場町を整備するくらいか。さすがに休憩所がないと話ならないからな。野宿はもう勘弁だぜ」
「畏まりました。戻り次第手配致しましょう」
俺の話にキリエがすぐさま反応していた。本当に反応が早くて俺はずいぶんと楽をさせてもらっている。部下が優秀だと、こんなにも楽ができるんだな。
こっちの話はひとまずひと区切りがついたので、俺はくるっとマールンたちの方へと振り返る。
「それでだ」
俺がひと言発しただけで、マールン以外がものすごく警戒を強める。おいおい、反応よすぎだろ。
「おい、まだ何も話してないだろうが」
思わずツッコミを入れるしかなかった。
まったく、これが人間たちの方に存在する魔族に対する偏見ってやつなんだろうな……。元人間の俺にも容赦なしかよ……。
俺は困った顔をして、キリエやマールンを見る。二人とも首を振ったり肩をすくめたりと、よろしく思わない反応を示していた。
まったく、こんな状態では和解なんていうのはまだまだ夢のまた夢って感じだな。まっ、王国からしても周りの国から睨まれかねないっていう警戒の現れなんだろう。
元王国民であるがために、王国の立場も分からなくはない。まったく、人間たちの横の連携というのもなかなかに面倒だよな……。
まあ、俺はもうそんな事は気にしない。
「とりあえずだ、お前たちの方から何名か、この街道の完成度を確認するために人を寄こしてほしい」
俺の提案を聞いて、兵士たちは驚いた表情でお互い顔を向け合っている。
「きちんと整備された街道だからな、攻めるのも容易になる。だが、その場合は俺たちも遠慮はしない。自分たちの生活だってあるからな、敵対行為には徹底的に抗わせてもらうぞ」
俺たち魔族側の姿勢をひとまずははっきりさせておく。牽制は重要だからな。
きりっとした表情で言っておいたために、兵士たちは完全に怖気づいているな。うん、牽制成功だな。険しい表情のまま、俺は心の中で満足する。
その様子を見ていたマールン。どうやら俺の心の内を見抜いたらしく、表情を歪ませて必死に耐えていた。笑うなよな。
「よし、それだったら俺が行こう。魔王討伐で必死だったから、魔界の中はよく見てなかったからな」
マールン、お前もか。
膝を手で打ってからのマールンの発言に、俺は心の中でそのようにツッコミを入れた。
だが、マールンは俺の表情と態度を気にする事なく、兵士たちの方へと振り向いて声を掛けていた。
「魔王を討った勇者を送り出した王国の兵士として、よもや魔王領に向かうことを躊躇する臆病者はいないよな?」
兵士たちに対して煽りを入れるマールン。ちょっとばかり予想外の行動である。
どうやらマールンも、俺の事となるとピエラ同様に思わぬ行動に出てしまうようだ。友人として嬉しい限りだな。
さて、マールンに焚き付けられた兵士たちはどう動くかな?
すると、二人ほどの兵士が俺たちに同行することを申し出てきた。それ以外は、まごまごとしていた。なんとも煮え切らない態度だな。
とはいえ、魔王領の街道を確認に向かうメンバーが決まったので、放っておいても問題はないだろう。ここからは人間たちの問題だからな。
長距離移動となるためにしっかりと準備をすると、俺たちはマールンたちを連れて来た道を戻ることとなったのだった。




