第76話 転生者、久しぶりにマールンと会う
俺は正直言って驚いた。
「すげぇ、もの凄い速さで道が整備されていっている……」
目の前の光景に驚きを隠せなかった。あっという間に平坦な道が姿を現していっているのである。
ぶっちゃけ、俺は何もしていない。むしろ邪魔をしているような状態だった。
さすがにそれは気が引けてしまう俺は、食事を用意してどうにか貢献している。社畜になる前の一人暮らしの最中に培った料理の腕が、まさかここで活かされるとはなぁ……。感慨深くなるもんだぜ。
「うおおおっ、魔王様の手料理だと?!」
「うまい、うますぎる!」
「これで明日も頑張れるというものよ」
街道の整備に尽力してくれている魔族たちはこの有り様である。そこまで喜んでもらえるなら、料理するかいがあるってもんだよな。
喜んでくれるっていうならやりがいってあるってもんだしな。ただ見てるだけってのはさすがにみんなに悪い気がするもんよ。
とまあ、俺が魔族たちの飯を作ってる間に、あっという間に国境付近までやって来た。いや、今は領境かな。ここまでたった数日だぜ。
ずらっとそびえ立つ境目の壁。そこにいた兵士たちがものすごい勢いで整地されていく街道にビビりまくっていた。
「な、なんだこれは?!」
「おう、久しぶりだな」
「お前は、セイ・コングラートか」
「その名前で呼んでくれるとはな。もう廃嫡されたはずなんだが」
俺が冷静に指摘すると、兵士たちはハッとした表情をしていた。
そして、首をぶんぶんと振り回すと、俺たちに向けて今さら槍を向けてきた。
「魔族たちが何の用だ」
「見ての通りだよ。魔王城からここまで街道を整備してきたんだ。ずいぶんとガタガタとしてたからな」
「何のためにそんな事をする」
俺の説明に顔を見合わせて、再び槍を突き出してくる兵士たち。よく見ると槍を持つ手が震えている。
ちらりと顔を見て、その視線を追う。その先には、街道の整備を行っているオークとミノタウロスたちが立っていた。つまり、単に図体がでかい魔族たちに怯えているというわけだ。
そうはいっても、ついて来ているオークやミノタウロスたちは小さい奴でも俺の倍以上の身長がある。小さくても4mはあるもんな。そりゃ威圧感に身構えちまうってもんだよな。
「まぁ簡単な話だよ。俺としては人間と仲良くしたいんだ。元人間だしな」
そう話して俺は街道がよく見えるように少し移動する。
「そのために、交易のための整備された道を作ったってわけだよ。ガタガタ道じゃ酔って仕方ないだろう?」
俺は腰に手を当ててニカッと笑う。俺の態度に疑り深い顔をしている兵士たち。あんな事があったってのに、まだまだ魔族への信用が低いってことだよな、これって。
人間と魔族との間の溝というのは、簡単には埋まらないくらいに深いものなんだなと、改めて思わされた。
「とにかく、お前たちがどう思おうと、俺たち魔族側は人間たちを受け入れるだけの準備がある。魔王城までの街道の途中に街を整備するつもりだし、国王陛下にも伝えておいてもらえないか?」
俺がこう言っても、まだまだ信じられないといった表情の兵士たちである。
そこに予想外の人物が現れる。
「よう、久しぶりだな、セイ」
「マールンじゃないか。国境にいるとはどうしたんだ」
そう、魔王討伐隊の一人だったマールンである。
事情を聞けば、ピエラが薬師たちを連れていったために調査のためにやってきていたらしい。まったく、ピエラですらもう信用してないのかよ。薄情すぎねえか?
「まあ、そう怒るなって。国の薬師たちを連れていったんだ。どうするつもりか気になるのは当然だろう?」
「ピエラが許可もなしに連れていくとは思えないんだがな。どこかで情報が止められたのか?」
「ハミングウェイ伯爵だろうな、おそらく。娘の行動を国王陛下たちに正しく伝えなかったのかも知れないぜ」
「……やりかねないな」
マールンとの話で、俺は思わず頭が痛くなってくる。娘ぐらい信用してやれよ、ハミングウェイ伯爵……。
「まっ、ここでの対処は俺に任せておいてくれ。しばらくは滞在しているから、多少なりと融通は利かせられるはずだ」
「頼りになるな、お前は」
「へへっ」
和やかに話す俺とマールンである。
とりあえず、マールンには街道の整備とピエラが連れていった薬師の待遇についてしっかりと説明しておいた。
「そうか。薬草を自由に育てられる魔族か……。いや、便利だな、魔族って連中は」
「俺も驚いたぜ。詳しい薬草の種類については言えないが、おそらく薬師連中なら泣いて喜ぶ環境だと思うぜ」
「薬の事はよく分からないが、俺もそう思う」
魔王領との境目の壁の周囲の整備を行う間、俺はマールンといろいろと話し込んだ。
「そうか。魔族の方が変わろうとしてるんだな」
「まぁ、俺とピエラによるところは多いけどな。魔族たちを見る限り、攻撃してくるから嫌いっていう話ばかりで、そこまで人間を毛嫌いしている様子はないみたいだよ」
「へえ、そうなんだな」
俺の話を、マールンは真剣に聞いてくれている。やっぱり友人というのはいいものだな。
「こんな感じだからな。俺は本気で魔族と人間との関係を変えてやるつもりだよ」
「そいつは楽しみだな。俺も負けてられないぜ」
久しぶりに盛り上がる二人なのであった。
こうしている間にも門の前の整備が終わり、俺のところにキリエがやって来たのだった。




