第75話 転生者、街道整備を始める
薬師たちの問題が一応解決したところで、翌日の朝のこと、キリエやピエラたちを交えて次に何をすべきか朝食を取りながら話し合うことにした。
「領内の事はある程度片が付いたと思うんだ。次はどうしたらいいと思う?」
俺の質問に、面食らったような様子を見せるキリエたちだ。なんかおかしいことを言ったか?
まったく失礼な話だな。俺はじっと目を細める。
その様子を見ていたピエラが、突然俺をギロッと睨んでくる。
「それじゃあ、私から言わせてもらいますね」
「お、おう。なんだ、何でも言ってくれ」
勢いに押される俺。しっぽが思わずピンと立ってしまう。
「魔王城と王都を結ぶ街道。まずはこれから作らなくっちゃ。それができたら、各地の主要都市を結ぶ街道ね」
「おいおい、道なんて既にあるだろうが」
ピエラが話し始めると、俺は反論を入れる。ところが、ピエラは俺を睨んできた。
「あのねえ。王都から普通の馬車で向かう時、どれだけ大変だったと思っているのよ。地面はガタガタでものすごく跳ねる揺れる。おかげで薬師の人たち、何回吐いたと思っているの?」
「酔ったのかよ……」
「魔王領の馬車は乗り心地いいわよ。でもね、それは魔族だからこそできることなのよ。同じ環境に人間たちの条件を適応したら、そりゃまあひどい目に遭うわね。まったく、私も知らない間にこっちの常識に浸食されてたのね……」
ピエラは両腕を組んで頬を大きく膨らませて口を尖らせている。よっぽど酷かったんだろうな。
すると、ここでキリエが動いた。
「そうでございますね。道が悪いことは私も認めます」
味方するかと思ったらピエラに味方したぞ?!
キリエの思わぬ行動に、俺は思わず声に出してしまいそうになった。ついでに、お皿に手をぶつけてこぼしそうにもなった。危ない危ない。
「まったく、落ち着いて下さい、魔王様」
「いや、まったく面目ない。とりあえず、話を続けてくれ」
俺は2回ほど深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
その様子を確認したキリエは、咳払いをしてから発言を再開させた。
「魔族たちは基本的に障害物とか気にしませんからね。悪路であっても何事もなく進んでいきます」
「ふむふむ」
「ですが、人間はさすがに同じようには参りません。身体能力といったら、低級の魔族にすら劣る部分がございます」
「そうなんだな」
キリエの言葉にいちいち相槌を入れる。だが、さすがはキリエ。気に留める事もなく話を続けている。さすがは参謀といったところだな。
「そうですね……。土木と馬車に対して詳しい種族を呼び寄せましょうか。魔王様のご命令とあれば、すぐにでもやって来ます」
「いや、俺はそこまで強制的にやらせるわけには……」
あまり他人を強制的に働かせたくない俺は、キリエの話に消極的に反応する。
「いいえ。これは人間たちとの和解のために必要なのです。それを望んでらっしゃるのは、他でもない魔王様ご自身なのです。自覚なさって下さい」
ところが、キリエからは厳しい言葉が返ってきた。
食事中であるために席を立つことはしないが、キリエからものすごい圧が掛けられているのはよく分かる。
「わ、分かった。すぐに手配を頼む……」
その圧力に負けて、俺はキリエにすべてを任せたのだった。怖えよ。
翌日、キリエの呼び掛けで城に集まってきたのは、力自慢のオークとミノタウロス、土魔法が得意で手先も意外と器用なノームとドライアドだった。
この世界じゃ人間以外の種族は全部まとめて魔族になるらしいからな。ノームとドライアドなんていったら、妖精とか精霊とかそういう扱いになるのによ。不思議な世界だぜ、ここは。
「ずいぶんと大人数だな」
「ピエラ様のお住まいでらした王都までは距離がございますからね。少しでも早めにと思いまして、人数を招集致しました」
「な、なるほどな……」
いわゆる人海戦術というやつか。
「指揮は誰が執る?」
俺が確認すると、全員の表情が俺に向いた。おいおい、俺かよ。
「いや、なんで俺なんだよ」
「魔王様に褒められることを報酬として集めたからでございます」
「キリエ?!」
思わぬ餌に俺は素っ頓狂な声を出してしまった。
俺が驚いて集まった魔族たちの方を見ると、俺に褒められることを糧に気合いを入れている姿が見える。マジかよ……。
「先日王都へ向かった時の道のりがしっかりと頭に残っておりますので、作業の手順は私にお任せ下さい。魔王様はただ様子を見守ってくれればよろしいのです」
「そっか、キリエがついて来てくれるのか。なら安心だな」
キリエが来るのならひと安心だ。
「皆の者、魔王様の願いを実現させるため、その身を粉にして働くのです。いいですね?」
「おおーっ!!」
キリエが呼び掛けると、集まった魔族たちは空気が震えるほどの声を張り上げている。
魔王のためってだけでこいつら、こんなにもやる気を出すのかよ。魔族というのはどこまでも魔王至上主義なようだった。
そんなこんなで、魔王城と俺やピエラの住んでいた王都とを結ぶ一大事業が盛大に幕を開けたのだった。




