第74話 転生者、一休みする
新しく作られた薬師の詰所が稼働して2日後、ようやくピエラが戻ってきた。
ピエラ一人だけの移動ならまだしも、薬師数名を一緒に連れてくるとなると、そのための足の確保に時間がかかったようだ。
まあ、人間たちの世界に魔族たちの持つような規格外な馬はいないからな。
「ごめんなさい、セイ。すっかり遅くなっちゃったわね」
「いや、気にするな。むしろ早い方だと思うぞ」
俺とピエラが言葉を交わす後ろで、若い男女が合わせて五人ほど縮こまって立っていた。ピエラは慣れてしまっているが、そりゃ魔族たちの住む場所の中核にやってきたら、普通の人間はこうなるよな。
というわけで、俺は怖がらせないように気さくに挨拶をする。
「おっす、よく来てくれたな」
笑顔で右手を上げて挨拶をしたのだが、人間の薬師たちはびびりちらしたままである。あ、あれ?
その様子を見ていたピエラは、薬師たちに対して声を掛ける。
「ほら、いつまでもびびってないの。セイは確かに追放されたコングラート伯爵の息子ではあるけど、別に恨みなんて持ってないわよ」
ピエラが話を始めると、そこへ魔族が一人近付いてきた。
「キリエ姉が忙しそうにしているので、あたしが担当することになったわ」
やって来たのはキリエの妹のカスミだった。
「あなたたちが人間の薬師たちね。あたしは魔王城のメイドたちの副メイド長のカスミよ。薬師たちが住む場所まで案内させてもらうわ」
カスミは、そう言いながら俺やピエラの方を見る。任せてくれと言っているようだった。踏ん反りがえった自信満々な姿に、俺とピエラは思わず顔を見合わせてしまう。
そして、俺はカスミに薬師たちの事を任せることにした。
すると、満足したようにカスミは、ピエラの連れてきた薬師たちを詰所へと案内したのだった。
俺とピエラはその姿を見送ると、ひとまずは俺の執務室へと移動する。ピエラとキリエで集めてきた薬師たちの素性を確認するためだ。
「それにしても、男は三人か。まあ、キリエの方は男に嫌がらせをされて去っていった薬師たちを呼び戻しただけだからな。女に偏るのは仕方ないか」
「ちょっと待ってよ。それだと男連れてきたのはまずかったかしら?」
「いや、そこはキリエがうまくやってくれるだろ。俺だってキリエがそういう事情の魔族を集めてくるとは思わなかったからな」
思わず声を上げてしまうピエラに、俺は事情をそう説明しておいた。
「女性の感覚と男性の感覚は違うからな。むしろ連れてきてくれたのはよかったと思うよ。心配なら男三人を離せばいいだけだしな」
俺はそういって、ピエラを落ち着かせた。これにはピエラも納得した様子を見せていた。
さて、魔族と人間、双方の薬師が揃ったわけだな。となると、次はどうしたらいいかな。
「そうだ。共通の服、制服を作ろうか」
「制服?」
「ああ、同じ役職にあるということを分かりやすくするんだよ。王国でも兵士たちは同じ格好をしていただろう?」
「そういえばそうだったかしらね」
俺が少し熱く語っているというのに、ピエラの反応は実に冷たいものだった。そういえばピエラは魔法系なので、兵士たちの訓練を見たことがなかったな。こいつはうっかりだ。
まぁそれはとりあえずどうでもいい。思い立ったら吉日とかいうからな。
ひとまず俺は、薬師のみんなの共通の服を作ることにした。そのためにクローゼに声を掛けると、服を作りたくて仕方なかったのか秒で了承してくれた。
「これで、ウネに関連したものは片付いたかな」
執務室に戻った俺は、椅子に座って机の上で体を伸ばしている。
「お疲れ様。それにしても魔族って薬の研究をしていたのね」
「まあ、みんながみんな常識はずれな回復力を持っているわけじゃないからな。キリエやバフォメットからいろいろ聞かされたよ」
机の上で伸びたまま、ピエラの疑問に俺は答えていた。
すっかりリラックスしているために、俺の背中ではしっぽがゆっくりと左右に揺れている。それを見ているのか、俺と話をしているのにピエラの目は左右にゆっくりと動いていた。
「何を見てるんだ?」
俺はそれが分からないので、ピエラについ聞いてしまう。
「あっ、うん。なんでもないよ、なんでもね」
「うん?」
ピエラがごまかすので、俺はつい体を起こして首を傾げてしまう。すると、ピエラはとても残念そうな顔をしていた。いや、どういうことだよ。
「とりあえず、少しは平和に向けて前進したかな。人間と魔族のいさかいがなくなれば万々歳だぜ」
「どうでしょうね。私たちの王国内でもまだまだ反発はあるようだし、そもそも相手は王国だけじゃないんだからね」
「だなぁ……。でも、できる限り俺の代で状況は変えたいな」
俺は頭の後ろで手を組んで、天井を見上げる。
すると、ピエラが俺の側に寄ってきて椅子にもたれ掛かった。
「大丈夫よ、セイなら。私もついてるし、魔族の皆さんも理解があるようだし……ね」
ピエラがそう言いながら見せた笑顔に、俺はどういうわけか安心を覚えた。
そして、一休みをすると、和解に向けての次の計画を考えることにしたのだった。




