第72話 転生者、薬師を出迎える
そんなわけで、魔王城の一画の改装が始まった。ウネに任せた庭園の側に薬師たちが居住する区画を建設するのである。
魔族の中でも力自慢の部下が集まって、レンガやら石やら持ってきてそのためのスペースを作り始めた。
「うるさくてかなわないのよー……」
ウネからは不評ではあるものの、一時的な我慢だ。ウネの育てる植物を大事にしてくれる人が住む場所だからと、俺は必死に説得する。
「うーん、魔王様がそういうのであれば、信じるのよー……」
ウネとしては納得していないようだが、魔王である俺の言葉だからということで受け入れてくれた。
こうなったら、ピエラやキリエがどんな人物を連れてくるかによるだろう。
悲しいかな、俺にはどっちにも大した伝手がない。それゆえに人選では任せることしかできない。だからこうやって、魔王城の改築の指導にあたることくらいしかできなかった。
研究室に関しては、基本は封鎖することになった研究室を参考にしている。でも、まったく同じというわけにはいかないだろう。いろいろと心的外傷があるだろうし、新しい環境ということをアピールしなきゃいけないからな。
あとは、水回りと寝室。同性であるなら共同部屋の方がいいかなと、基本的には二人部屋を作る方向にした。
とりあえず、二人が連れてくる薬師の人数が分からないので、少々多めに作るように魔族たちに指示を出していく俺。
庭いじりをしているウネは、ものすごく気怠そうにその改築作業を眺めていた。
数日すると、キリエが魔王城に戻ってくる。
「ただいま戻りました」
「お帰り、キリエ。どうだ、薬師は集まったかい?」
俺が迎え入れながら質問すると、キリエの顔がにっこりとした笑みに包まれる。
その様子を見る限り、どうやら薬師集めには成功したようだ。
「一応は、以前城で働いていた方に声を掛けさせて頂きました。汚ぶ……変態どもを追い出したと話したら、快く引き受けて下さいました」
キリエはまたメズレスたちの事を『汚物』と言いかけていた。よっぽど嫌ってたんだな。まあ、その気持ちはよく分かるがな。
それはそれとして、俺はキリエに連れられてきた薬師たちの姿を見る。ものの見事に女性ばかりだ。おそらくはメズレスの凶行によって職場を去った薬師たちだろう。
俺が改めてしっかりと視線を向けると、女性たちはピシッと緊張した面持ちで直立していた。
「ま、魔王様。こ、今回はお、お声掛けいただき、誠に光栄でございます」
薬師の女性の一人が、声を震わせながら頭を下げてきた。魔王である俺を目の前にして緊張している事がよく分かる。
「よく来てくれたな。俺は新しく魔王の座に就いたセイという。俺が居る限りは以前のような事にはならないしさせないから、ぜひともその腕を存分に振るって欲しい」
俺が声を掛けると、みんな元気に返事をしていた。うん、いい返事だな。
とりあえず人数を確認すると六人のようだ。
だが、また改築中の真っ只中で、やって来た薬師たちには別室を使ってもらうしかなかった。
「すまないな。本当なら薬師たちのための部屋で住んでもらう予定だったんだが、まだ部屋が完成してないんだ。しばらくは客間で我慢してくれ」
「いえ、住まわせて頂けるのでしたら、別に倉庫のような場所でも……」
「いや、しっかりとした研究をしてもらいたいからな。それなりの待遇を用意するのは当然だろう?」
遠慮するような態度を取る薬師たちに、俺はにこりと笑顔を見せながら声を掛ける。すると、薬師たちは嬉しそうに感動していた。
その様子を見た俺は、重要な話を追加する。
「そうだ。今回は人間たちの薬師も呼んであるということを伝えておく。もし何かあれば遠慮なく俺に相談してくれ」
「人間……ですか?」
露骨に嫌な顔をする魔族の薬師たちである。その姿を見る限り、やっぱり人間と魔族が分かり合うというのは厳しい感じに思える。
だが、のんびりとした生活を送るには、そういういがみ合いというのは解消しておきたいものだ。
「そもそも俺が元人間だからな。俺の人間時代の友人を通じて、引き受けてくれそうな薬師を集めているところなんだよ。だから、そこらの人間に比べれば、まだ信用はできると思うぞ」
「はあ……。いくら魔王様のお言葉とはいえ、にわかには信じられませんね」
まあ、そういう反応にはなるだろうな。
俺はひとまず薬師たちをキリエに任せて、薬師の研究設備の進行具合を確認しに戻った。
「ああ、魔王様。お戻りになられましたか」
俺が戻ると、バフォメットが改装現場に姿を見せていた。バフォメットも魔王軍においては重鎮であるために、様子が気になっていたようだ。
「この設備が完成しますと、弱い魔族たちも救われる時が来るのでしょうかね」
「どうだろうかな。言っておくが、ここは魔族だけじゃなくて人間たちにも卸す薬を作るんだからな。もう人間との敵対関係は終わりにするんだよ」
「左様でございましたか。人間との共存、それも悪くないかもしれませんな」
いろんな考えを巡らせながら、俺とバフォメットはしばらくその改装の様子を見守ったのだった。




