第66話 転生者、魔族の対応で困る
俺が魔法を使った瞬間、まるでプレハブ小屋のような輪郭の光が立ち上がる。
そして、その輪郭が光の筋となって固定化されると、そこを埋めるようにキラキラとした光の膜が形成されていった。
イメージとは違ったものの、『緑精の広葉』の畑だけを覆うビニールハウスもどきが完成したのだった。
「おお、すごい、すごい?」
ウネがとても驚いた様子で、ビニールハウスもどきを見ている。
垂れ下がる光の膜をそっと触れるウネ。光というものでありながら、触れると感触がしっかりとある。
「すごい。魔力が光っているのよー」
触ってみてウネはその光の膜の正体を知った。そう、俺の魔力が作り出した膜だったというわけだ。
自分自身でも驚きだが、魔力って物質化できたんだな。
「どうやってるの? ねえ、教えて、教えてよ」
目を輝かせながら俺に質問してくるウネ。しかし、そうは言われても俺にもさっぱり理屈が分からなかった。
その俺たちを見かねたのか、驚きのあまり動けなかったキリエがゆっくりと光のビニールハウスもどきへと歩み寄っていった。
ビニールハウスもどきに近付いたかと思うと、周りを歩きながらじろじろと見て回るキリエ。その行動にどういうわけか緊張を強いられる俺である。
ひと通り眺め終わったキリエは、かなり唸っているようだった。どういう評価を下されるのか、内心バクバクする。
「素晴らしいですね。中から外へは一切物を通さない魔法の膜。それでありながら、私たちは出入り自由。こんな細やかな魔法が使えるなんて、さすが魔王様でございます」
実際にビニールハウスもどきを出入りして確かめているキリエ。よくこんな得体の知れないものの中へ入ったり出たりできるもんだ。
だが、ここまでべた褒めされると悪い気はしないものだな。俺はどことなく照れくさくなった。
「ともかく、これで『緑精の広葉』の問題は解決ですね。ウネ、しっかり管理して下さいよ」
「任せるのよー」
ようやくキリエから許されたのが嬉しいらしく、ウネは光の小屋の中に入ってもぐもぐむしゃむしゃと葉っぱを食い散らかしていた。豪快に食べるなぁ……。
「時にウネ」
「なんなのよ」
葉っぱを食い散らかすウネに対してキリエが声を掛ける。
「その葉っぱ、20枚くらいもらっていってもいいかしら」
「別にいいのよー。好きなだけ持っていくといいのよ」
ウネから返事をもらったキリエは、『緑精の広葉』をぶちぶちと摘み取っていた。一体何をするつもりなのだろうか。
「魔王様が人間との交渉を有利に進められるように、これで魔力ポーションを作るのです。ただでさえ魔力が豊富な魔族がこれを持っていたら、人間たちはどう思うでしょうかね」
「脅威に思って逆効果にならないかな……」
キリエが話す内容に、俺はそう疑問を呈する。
「それはそうでしょうね。しかし、私たちとて、いつまでも人間に攻められてボロ負けするような存在ではありませんよ」
そう言いながら悪い顔をするキリエである。参謀としての面が強く出ているのか、思わずその表情に引いてしまうぜ。
「あとですが、滅ぼすだけが魔族の存在ではないということを、人間たちに知らしめてやる必要がございます。魔王様も以前は魔族に対して非常に偏った知識をお持ちでしたでしょう?」
「まあ、それは確かにそうだな」
キリエの問い掛けに言い返せない。まったくもってその通りだからだ。
あの社会の中にいたのなら、魔族たちは滅ぼすべき相手という認識は否が応でも持たざるを得なかったからだ。
だが、転生者である俺は、どうしてもそこまで非情にはなり切れなかった。だからこそ、最初から狙いは魔王だけに絞り、他の魔族は無力化することだけを心掛けたんだがな。
「だというのに、魔王様のあの時の慈悲ときたら、思わず感動してしまいましたね。殺さずに無力化をする。それは実に高等な技術がないとできないものなのですよ」
庭園から移動しながら話すキリエは、頬を赤らめながら興奮した様子で喋っている。キリエにしてはこの様子はかなり珍しいものだぜ。
「魔王様のその行動には感動致しましたね。元々歴代魔王様の専属ではありましたが、これほどまでに誇らしく思えるのも珍しいものです」
「ま、まあ、キリエには感謝しているよ」
俺は思わずキリエの勢いに押されてしまう。感情が思ったよりも重めだった。
「では、魔王様。私は薬師たちが集い場所へと行ってまいります。安定して魔力ポーションを作れるようにしませんとね」
「ああ、頑張ってくれよ」
キリエがそういうので、俺は激励の言葉をかけてキリエと別れた。
はてさて、ここからどうしたものだろうか。
キリエはなんだか忙しそうだし、ウネには庭園を任せた。コモヤは人間界の調査に出ていったし、クローゼは服の製作で忙しい。
ピエラも獣人たちのところへ出ていったしな。
「うーん、デザストレの様子でも見に行くか。ちゃんと反省したのか見てやんないと、あいつは気ままだしな」
いろいろ悩んだ結果、俺は魔王軍の訓練場へと足を運んだのだった。




