第65話 転生者、本気で魔法を使ってみる
魔王領の統治にある程度のめどがついたら、次は周辺諸国だ。
魔族たちの中でも相性の良し悪しはあるというもの、人間と魔族の相性に比べればまだ可愛いものかもしれない。
特に魔王が昔から人間たちに対して戦争を仕掛けていた歴史があるために、すこぶる仲が悪い。ピエラに対して一部の魔族はかなり毛嫌いしていたようだしな。
俺の補佐という立場と魔王を倒したという実績がなければ、一部の魔族たちはきっと襲い掛かってきただろう。
そんなピエラは、今では獣人たちとはかなり仲良くやっているらしい。まあ、襲い掛かっても返り討ちだし、地獄のもふもふも待っているから逆らうのをやめたんだろうな。
クローゼに服を頼んだのは、その次の周辺諸国への訪問を見据えてである。
魔族の代表的な格好では警戒感を与えるだろうと、人間たちが着ているものに近い衣装を着ることにしたのだ。
俺としては敬意を払っているというポーズのつもりだが、向こうはどう捉えてくれるだろうかな。
とりあえず、クローゼが服を作っている間、俺はこっそりとコモヤを使って周辺諸国の情報をまとめさせていた。
知っていると知らないとでは、交渉の戦術にどうしても違いが出てくる。特に国内情勢は押さえておく必要があるだろう。そこをうまく使えば有利に事を運べるはずだから。
争いが減ればそれだけのんびりとする時間が増えるからな。楽をするための努力はしっかりしておかないとな。
面倒だとは思うが、しっかり力を入れることを俺は誓ったのだった。
とはいえ、服ができ上がらないうちに俺はまったく動く事はできない。
そんなわけで、ウネが管理する庭園へと俺はやってきた。
「おう、ウネ。調子はどうだい?」
俺が声を掛けると、ウネはにこにことした表情を俺に向けてきた。ずいぶんと機嫌がよさそうだ。
「うん、さすが魔王城。植物の育ちが早い」
どうやら、自分が手塩にかける植物たちが順調に育っていて嬉しいようだった。
確かに見回してみると、以前に比べると植物の背丈は伸びているし、生い茂る面積も広まっていた。
「土に魔力が豊富に含まれているせいなのかな、これは」
「さすが魔王様、その通り」
俺がぼそっと言うと、ウネのは俺に向かってサムズアップである。よく俺の呟きが聞こえたな、こいつ。
思わずぼそっと呟いてしまいそうになったが、サムズアップを思い出した俺はぐっと言葉を飲み込んだ。
俺が堪える間も、ウネは気にしない様子で植物の世話をしている。
改めて見てみても、この魔王城の庭園はかなり広い。しかも、ここだけじゃなくて他にも数か所存在している。
俺が今居る場所以外は別の魔族に世話を任せているが、さすが専門であるドライアドのウネには敵わないようだった。まあ、草木ボーボーの荒れ地になってなければいいんだよ。
じっと俺が眺めていると、突然ウネは生えている葉っぱをぱくっと口に放り込んでいた。
「ちょっと待て、今何を食った」
「お食事。この葉っぱ、わちたちドライアドの主食って言ったよ」
ウネの言葉に冷静にそこを見てみると、ピエラが話していた『緑精の広葉』が一面に生えていた。
「いや、主食にしては生えすぎていないか?」
「んー、確かに生えすぎかも。普通こんなに生えないよ」
どうやらウネにも想定外の生え方らしい。
「魔王様、こちらにおいででしたか」
俺が頭を抱えていると、キリエがやってきた。
「ああ、キリエ。ちょうどいいところにやって来た。これ、どう思う?」
「何がでしょうか」
俺に近付いてきて、指し示す場所を覗き込むキリエ。その目の前にある光景に、さすがにキリエの表情が歪んでいた。
「いや、これはさすがにおかしいでしょう。結構生育が難しいんですよ、この植物は……」
キリエが額に手を当てている。
「……まったく、先日あれだけ叱りましたのに、なんで懲りないんですかね」
本気で頭が痛そうである。
「こうなったら、本気で魔力回復薬の製造に取り掛かりましょうか。放っておくとこの辺り一帯がこの葉っぱに浸食されますよ」
「そ、そんなにやばいのか?」
「当たり前です。生育が難しい植物がこれだけ安定して育っているんですから。ここだけ隔離でもしないと、魔王城全体が侵食されるのも時間の問題です」
「マジかよ……」
俺まで頭が痛くなってきた。とはいえ、少しでも急いだ方がよさそうだ。
俺は責任を取って、手を前に突き出す。
「何をなさるおつもりですか、魔王様」
「ここに魔力の小屋を作るんだ。中のものが外へ勝手に出ていかないようにな」
正直俺は物理攻撃が得意なので、魔法を扱うのは不安がある。だが、魔王である以上城の中での事には責任を持たなきゃいけない。
「ウネ、そこからどいてくれ」
「うえ? 分かったのよー」
最初はこてんと首を傾げたウネだったが、俺の魔力を感じて慌てて飛び退いていた。
(イメージとしてはビニールハウスだな。あの状態を俺の魔力で組み立てるんだ)
目を閉じて集中した俺は、頭の中にビニールハウスの形状をしっかりと思い浮かべる。そして、イメージが固まると同時にカッと目を開く。
次の瞬間、俺の手の先から大量の魔力が放出されたのだった。
くそっ、うまくいってくれよ。
祈るような気持ちで、俺は魔法を放ったのだ。




