第64話 転生者、次なる一歩を踏み出す
結論から言えば、デザストレを移動手段にして回ったのは正解だった。
厄災と呼ばれるドラゴンの姿を見せつけておけば、それだけで魔族たちは静かになったのだから。
その怯えたところで、俺とキリエの二人で叶える要望を伝えて対処をして回った。
とにかく要望を送る前には自分たちで精査してから送るようにと、俺はしっかりと言い聞かせておいた。
なんといっても魔王となった俺が対処する場所は一か所じゃない。あちこち全部の要望を聞いていたら、それこそ忙殺される。転生前の社畜生活より酷くなるのは目に見えている。もうあんな生活はしたくないんだよ。
デザストレの移動速度の速さもあり、あっという間にすべての魔族の拠点を巡り終える。全部で10日かかったかどうかといったところだった。
「いやあ、助かったぜ、デザストレ」
「我としては不満だ。ただの移動手段で済まされるのは実に屈辱極まりないというものだ」
ぶつぶつと文句を言うデザストレ。
だが、俺としては本当に助かったのは紛れもない事実だ。
「そういうな。お前がドラゴンの姿でじっとしていただけでも、十分な効果はあったんだ。キリエ、今夜はこいつの好物でも食わせてやってくれ。今回の一番の功労者だからな」
「畏まりました。厨房に伝えて参ります」
キリエはそう返事をすると、ゆっくりと歩いて厨房へと向かった。
ちょうど時を同じくして、獣人たちの集落に向かっていたピエラも戻ってきた。
「おう、ピエラ。そっちはどうだった?」
ピエラの姿を見た俺は、状況を尋ねる。
するとピエラは、奥に変わった様子を見せる事なく淡々と答えていた。
「拡張された領地の開発は順調よ。みんな器用に木を切って家を建てているわ」
淡々という割には、ずいぶんとほっこりとした表情を見せているピエラ。無類とまではいかないが、かなりのもふもふ好きであるピエラは、一生懸命働く獣人たちを見てすっかり癒されていたようだった。
「そっか。ある程度めどがついたところで一度確認に向かうとするかな」
「ええ、見てあげるとみんな喜ぶと思うわよ。みんな、セイの事をしっかりと慕っているみたいだからね」
「そうかいそうかい」
ピエラの話を、適当に聞き流す俺。だが、慕われていると聞いて、俺のしっぽは無意識に左右にぶんぶんと振れていた。それが見えているらしく、ピエラは今にも笑いそうな顔をしていた。
「……なんだよ」
「ふふっ、何でもないわよ」
俺が不機嫌そうな顔を向けると、ピエラはふいっと顔を俺から逸らしていた。一体何なんだよ。
それはともかくとして、着実に魔王領の体制作りは進んでいっていた。
魔族たちの基本的な序列は力であるため、純魔族や獣人たちは力を示して黙らせたし、それ以外の種族も厄災のドラゴンを従えていった事で黙らせる事ができた。
とはいえ、俺は自分の理想を一方的に押し付けることはしない。
魔族たちには魔族たちなりの考え方はあるし、習慣というものもある。なんといっても俺はそもそもが人間だ。さらに加えて別世界で生きていたという条件まで加わる。どう考えたって、俺の考えが魔族たちに馴染むわけがないってわけだ。
だから、お互い譲れるところは譲り合う形で制度を決めていかないとな。
ああ、そうだ。
魔界を巡った際に、人間から剥いでおいた身ぐるみは回収しておいた。取り戻されると殺されかねないからと説得してな。
人間の道具は魔族たちに扱えないことが多いし、それが原因で死なれちゃ困るわけだ。だったら、俺の手元で厳重に管理するのがいいだろう。
将来的にはこういったトラブルを減らすために、出身の王国以外にも外交を打って出ないといけないだろうな。まったく面倒だ。
「クローゼ、ちょっといいかな」
「何かしら、魔王様」
俺は考えるところがあって、服飾職人であるクローゼの元を訪れた。
キリエの閉じ込めているおかげで、結構気軽に会えるんだよな。最初こそ苦手にしていたが、もう女の体にも服にも慣れた。そのせいですっかりクローゼの事は怖くもなんともなくなったってわけだ。
「将来的に人間たちの国にも行くことになるだろうから、そういう時のための服装を作っておきたいんだ」
「あらあら、それはどういうわけかしら」
興味深そうに見てくるクローゼに対して、俺は自分の考えをつらつらと語る。
その俺の話をクローゼは黙って聞いてくれていた。まあ、仕事がなくて暇しているというのもあるんだろうけどな。
「分かりましたわ。それでしたら、ピエラ様を参考にさせて頂いてよろしいかしら」
「うーん、こっちに来た時に着ていたピエラの服は、魔王討伐の時に着ていた戦闘用の衣装なんだよなぁ……。どっちかいったら、キリエの参謀の時の服装の方を参考にして欲しいかな」
「承知致しましたわ。それでは、気合いを入れて作らさせて頂きます」
クローゼはそう言うと、俺を部屋から追い出した。
部屋の扉は明かなくなってしまったが、とりあえずそのまま放っておけば大丈夫だろう。ちゃんと食事をしてくれるかどうかだけは心配だがな。
こうして魔王領の安定に一区切りをつけた俺は、次を見据えて動き始めたのだった。




