第63話 転生者、甘く見られる
翌日を迎えて、デザストレは魔王軍の訓練に向かっていった。昨日の事もあるから、多少なりと学んでくれているだろう。
俺はデザストレにやり過ぎないように注意をして、ウネが居る庭園へと向かっていった。
「よう、ウネ」
「ああ、魔王様。おはようなのですよー」
ぱあっと明るい笑顔を見せるウネだ。ドライアドっていうのは基本的に無邪気なようだから、この屈託のない笑顔は癒される。
俺はウネと挨拶を交わすと、畑の状態を確認している。魔王になったせいか魔力に対して少々敏感になっているらしいから、庭園全体からウネの魔力をひしひしと感じ取れている。
「さて、どんな植物を育ててるのかな」
「一応魔王様から注文のあったものは植えてみたよ。それからー、魔王様が入ってきた辺りはお花が中心」
俺が興味深そうに眺めていると、ウネはご機嫌に答えてくれる。
「そうかそうか、まぁ引き続き頼むよ。やること片付けたら、俺も本格的に畑を手伝うからな」
「約束だよ」
「ああ、約束だ」
ウネと庭園の様子を確認した俺は、次の場所へと向けて移動していった。
俺が次に向かった場所は、ピエラの部屋だった。
「よう、ピエラ。仕事ははかどっているか?」
ノックをして部屋の中へと入る。中ではピエラが書簡を眺めて唸っている状態だった。ちなみに隣にはバフォメットとキリエも座っていた。
「なんだ、三人揃っていたのか」
俺はついついそんなことを言ってしまう。
その声にピエラが反応して、俺に顔を向けてきた。
「セイ、ちょうどいいところに来たわ。処理がなかなか終わらないから手伝ってほしいの」
「三人もいて終わらないって、どんだけなんだよ」
「それだけ新しい魔王様に期待が集まっているのでしょうな。前の魔王様は少々威圧的でございましたからね」
俺が呆れたように反応すると、バフォメットからはそのような言葉が返ってきた。
「魔王様が実情をじっくり見ていかれたので、これなら自分たちの要望を通せると思われたのでしょう。まったく、どうでもいい事まで言ってきていますので、量が多すぎるのです」
キリエからもかなりきつめの愚痴が漏れている。これはどう考えても獣人たちの時と同じような状況のようだった。
それにしても、先日もピエラと一緒にチェックしていたのに、まだ終わってないというのが理解できない。一体どういう事なのだろうか。
「実はですね。あれからもどんどんと送られてくるんですよ、要望書が」
その理由はキリエの言葉で分かった。
どうやら、後から思いついたことを遠慮なく送り付けてきているらしい。まったく、遠慮はないし歯止めも利かないときたものだ。
「際限がないってのは恐ろしいな。とりあえずある程度絞ったところで、ガツンと言い聞かせに出向くしかなさそうだな……」
あまりの酷い状況に、俺はとにかく頭が痛くなった。
「デザストレのやつも連れていくか。あいつがドラゴンの姿で移動すれば、それだけで圧力にはなりそうだしな」
「そうですね。厄災の話は魔族たちの多くに伝わっていますから、魔王様が従えているとなるといい抑止力にはなると思います」
キリエが賛同してくれてはいるが、正直俺は乗り気じゃなかった。
力で抑え込むというのは単純明快な方法ではあるものの、前世の感覚が残っているので本当は取りたくない手段なんだよな。
とはいえ、これだけ好き勝手にやられてしまっては、分からせてやる必要があるというものだ。平穏な生活のためには多少強引にやらなければならないってわけだ。
そんなわけで、魔族どもを分からせに行くために、ひとまずは受け入れる要望を決定することにしたのだった。
結局、すべての要望に目を通し、受け入れて実現させる要望を決定するのに数日間がかかってしまった。
その間も次々と要望を送りつけてくるものだから、ひとまず見ることさえも保留しておく。よくもまあこんなに送り付けてこれるもんだな、おい。
「ちくしょう。歓迎しているようで完全になめてやがるな……」
「ええ、ここまで酷いとは私も思いませんでしたよ」
「魔王討伐のついでに、多少滅ぼしておくべきだったかしら……」
俺の文句を言うと、キリエは愚痴を漏らし、ピエラにいたっては物騒なことを言っていた。共通している事は我慢の限界が来ているということである。
魔王領の各地を巡るということでこの日はデザストレも呼んであるのだが、一向に姿を見せない。まったく、どうしたというのだろうか。
嫌な予感がした俺は、椅子から立ち上がる。
「ちょっと訓練場を覗いてくる。もしやと思うが、あいつ、忘れてるだろうな」
「いってらっしゃいませ、魔王様」
というわけで、俺はキリエたちに準備をさせている間に、訓練場へと向かう。
すると、案の定そこにはデザストレの姿があった。
まったく、今日は俺の方に来いといったのに、あいつの頭はすっからかんなのか……。
「おい、デザストレ。お前はどうしてここにいるんだ」
「なぜだと聞かれたら、稽古をつけるためだ」
「お前な。今日は俺のところに来いと言っただろうが。忘れてるんじゃねえぞ、この駄竜が!」
俺が本気で怒って怒鳴ると、デザストレはこてんぱんにされた記憶からか、すっかり怯えて縮こまっていた。
魔王軍の兵士たちが呆然と見守る中、俺はデザストレの耳を持ってずるずると引きずってその場を後にしたのだった。




