第61話 転生者、厄災を圧倒する
翌日になって、俺は魔王軍の訓練場に姿を見せる。すると、そこでは一人の男が大暴れする姿が見えた。
魔王軍屈指の強者であるヴォルフ……ではなく、最近とっ捕まえてきたデザストレだった。そういえば、魔王軍の訓練に参加しろって命令しておいたんだっけか。
「おらぁ、どうした。その程度で魔王を守れるというのか? 魔族どもを守れるというのか?」
一応命令で殺さない程度にやってくれといってはおいたが、うん、見事に死屍累々になってるな。
これはちょっと止めておいた方がいいだろう。放っておくと脱落者が出て、魔王軍の層がぺらっぺらになっちまう。
「もう少し手加減してやれ、デザストレ」
「おう、魔王か。何だこいつらは。いつもよりも歯ごたえがねえじゃねえか。もっと鍛えてやれよ」
首を鳴らしながら文句を言うデザストレ。
そうはいっても、毎度のごとく屈強な魔王軍を壊滅させてきたドラゴンからすれば、魔族がどんなに強くても歯ごたえがないだろう。
そういう文句を思い浮かべながらも、俺はぐっと言葉を飲み込んでおいた。
「さてと、今日は俺も参加させてもらうからな。というわけでデザストレ、お前が最初の相手な」
「はあっ?!」
その代わりに、特訓の最初の相手に選んでやった。
魔族たちの目の前でこてんぱんにしてやれば、いくらこいつとて静かになるだろうと考えたからだ。
「ぐぐぐ……、いくら魔王とはいえ、二度も負けるものか。単独ならば我の方が強い!」
あっ、こいつ、自分で一度負けたことバラしやがったぞ。直接は誰にも言ってないんだがな。頭悪いのかよ、こいつ。
いろいろともうところはあるけれど、いちいちツッコミを入れるのも疲れるので黙っておく俺である。
改めて、訓練場の真ん中で対峙する俺とデザストレ。双方ともに武器を持たない素手による格闘である。
「一応、魔法は禁止な。魔法使いたかったら、ここじゃないところでやろう」
「まあ仕方あるまい。肉弾戦とはいえ、我の方が強いに決まっている」
デザストレも大した自信である。
まあ確かに、先日勝ったとは言っても、キリエとピエラのアシストあっての勝利だからな。てか、俺単独だったら襲い掛かってこなかったじゃないか。
そんな事情があるので、まともにやり合うのは今回が実に初めてだ。
心からうきうきしている俺に対して、デザストレの表情はかなり嫌そうである。
こいつ、魔王がいる間は眠って逃げてたからな。魔王とは相当戦いたくないって気持ちがにじみ出てきてるのがよく分かる。
だが、今回ばかりは逃げられない。互いに勝負をけしかけたんだからな。
「ヴォルフ、合図を頼むぞ」
「はっ、お任せを」
魔王軍に所属する魔族たちが見守る中、ヴォルフの合図で俺とデザストレの戦いが始まる。
周りへの被害を考えて、互いの肉体以外攻撃手段は一切禁止である。俺は魔法、デザストレはブレス攻撃が封印されるということだ。
周りの関心はほとんど俺に集まっていた。というのも、デザストレにことごとくぼっこぼこにされてきたし、それに伴って罵倒まで食らったらしいからな。
つまり、みんなの俺への関心はというのは、俺の強さよりもデザストレをぎゃふんと言わせてくれという比重が多いようだった。
魔族のトップとして仇は取ってやるが、なんだかそういう期待のされ方はあんまり嬉しくないな。
「ふん、戦いの最中に考え事とは余裕だな」
俺の様子を見ていたデザストレが攻撃を強めてくる。
それにしても距離感に違和感を感じると思ったら、こいつ爪を鋭く伸ばしてやがる。ドラゴンクロウってやつか。目立たないとはいえ、姑息な事をしてくれるもんだ。
「はははっ、手も足も出ないか。今代の魔王も大した事がないな!」
俺がほとんど手を出さないものだから、デザストレが調子に乗っている。
だが、頭がよろしくないのがよく分かる行動だ。
確かに俺は攻撃をほとんど仕掛けていない。だが、デザストレの攻撃もまったくといっていいほど当たっていないのだ。
まったく、こんな事も分からないとはな……。こいつ、単純に力だけでのさばってただけじゃないか。
というわけで、俺はもう遊ぶのをやめた。こいつのバカ笑いに付き合ってられないくなったのだ。
パシッ!
「なっ!?」
「捕まえたぜ。まったく、そんな実力でよく威張り散らせたもんだな」
「くそっ、放せ!」
俺の手を振りほどこうとするデザストレだが、俺の手はまったくもってびくともしなかった。
「お望みなら、見せてやるよ、魔王の力。……その身にたっぷりな!」
俺がギンとデザストレを睨みつけると、俺の体中の体毛が逆立っていく。
その魔力の高まりに、デザストレの顔が青ざめていく。そして、仰け反りながら首を左右に激しく振っていた。
「やめろ、やめてくれ。魔法はなしだっただろう?」
「禁止にしたのは周りに被害が出る魔法だ。俺自身の体に使う身体強化なら、何も問題はないんだよ」
半ば屁理屈ではある。
「や、やめろ、死にたくない……」
「だったら、もうちょっと謙虚になるんだな。壁にでも埋まって反省してろ!」
「うわあぁぁっ!!」
次の瞬間、俺の拳でデザストレは壁画となっていた。
「いててててて……。ちょっとやり過ぎたか」
拳を思い切り振り抜きすぎたせいか、肩が外れそうになっていた。
あまりの強烈さに静まり返っていた訓練場だったが、俺の勝ちを確認して一気に湧き上がったのだった。




