第55話 転生者、服の依頼に立ち会う
城に戻った俺たちは、キリエの案内で早速クローゼが軟禁されているという部屋へと向かう。
「クローゼ、お仕事ですよ」
ノックも無しに突然扉を開けて入っていくキリエ。友人相手だとまったく遠慮も手加減もない。
部屋の中では、黙々と糸を紡ぎ続けるクローゼの姿があった。仕事がなさすぎてかなり精神的に参っているようだった。
その陰鬱さに、思わず俺の全身の毛が逆立ってしまう。
「ああ、キリエ。久しぶりですわね……」
ぎこちない動きでキリエの方へと顔を向けるクローゼ。その目はなんとも危険な感じを受けてしまう。
(これはだいぶ精神的にきてるな……)
俺はその姿に思わず同情してしまう。
ところが、キリエはずかずかとクローゼに近付いていく。
「だいぶ参っているようですね。喜んで下さい、そんなあなたにお仕事ですよ」
「なんですって?」
キリエの言葉に激しく反応するクローゼ。
「どどど、どんな仕事なんだ。早く言ってくれ」
禁断症状でも出ているのか、キリエに掴みかかるような勢いで詰め寄っていくクローゼ。キリエはそのクローゼを両手でしっかりと押しとどめている。
「まったく、落ち着きなさい。魔王様の御前でその姿はみっともないですからね」
「はっ! こ、これは魔王様、失礼致しました」
キリエに言われて、クローゼは初めて俺の姿に気が付いたようだ。どうやらキリエの姿しか見えていなかった模様。よっぽど閉じ込められた事を恨んでるんだな。
ぱぱっと体の埃を払って俺たちの方へと向き直ったクローゼは、首を垂れて俺たちへと挨拶をする。
「ご機嫌麗しゅうございます、魔王様。わたくしが仕立てたお召し物がよく似合ってございます」
「あっ、そうか。そういえばそうだったな」
クローゼからの言葉で、ようやく俺は思い出した。今俺が着ている服の類は、全部魔王城にやって来た時にクローゼが仕立ててくれたものなのである。最近忙しかったせいですっかり失念していたぜ。
「ところで、キリエ。わたくしに仕事とは一体何なのかしら」
すっかり忘れられていたことをスルーして、キリエに確認するクローゼ。切り替えが早いというべきだろうか。
「ええ、こちらの方々の衣装を仕立てて頂きたいのです」
そういってキリエはデザストレはもちろんのこと、ピエラの肩にも手を添えていた。
二人を見たクローゼは、見慣れない姿につい首を傾げていたようだ。
「どちら様ですかしら」
「こちらは魔王様のご友人であるピエラ様。こちらは眷属となったデザストレです。クローゼには、この二人の衣装を頼みたいのですよ」
紹介を兼ねて、改めて依頼内容を話すキリエである。
すると、クローゼは二人の事をじっくりと見ている。
「まったく、二人ともすごい魔力ね。そこら辺の魔族が束になっても敵いそうにないですわね」
「そういう感想はいいですから、引き受けるのか引き受けないのか答えて下さい。もちろん、選択の余地はありませんけれど」
おいおい、それは脅しというものだぞ、キリエ。
俺は心の中でツッコミを入れておく。
ところが、クローゼは予想外の反応をしていた。
「ビビッときましたわ。ええ、引き受けさせて頂きますとも」
脅しに屈するどころかものすごく嬉々としていたのだ。どうやら、服飾職人としての仕事がある事が嬉しいようだった。そういえば、俺の服を作る時もめちゃくちゃ喜んでいたな。
とりあえず、クローゼが喜んでいるのなら、俺からいう事は何もあるまい。
「では、早速お二人をお借りしてよろしいでしょうか。採寸を致しますわ」
「ええ、頼みましたよ、クローゼ」
二人の意見は無視して、ちゃっちゃと話が進む。ピエラたちが困惑しているので、俺は近付いて声を掛けておく。
「とっとと採寸を終わらせてしまえ。そしたら、あとは勝手に服を作り始めるからよ。希望があれば言っておけば、それに沿って作ってくれるぜ」
「そうなのね。分かったわ」
ピエラはおとなしく採寸をされに、部屋のパーテーションの向こう側へと移動していった。
デザストレもよく分かっていないようだが、ピエラの後に続いて採寸をされていた。
「うふふ、これは作りがいがありますわね。出来上がりまで、7日間くらい待ってもらえるかしら」
「はい、分かりました。お願いします」
ピエラはおとなしく頭を下げて痛いが、デザストレは腕を組んで不機嫌そうに立ったままだった。
「では、クローゼ。魔王様の新しい衣装も含めて頼みましたよ」
「は~い、任せて下さいませ」
しれっと俺の衣装まで追加で頼むキリエである。ちなみに俺はそれにまったく気が付いていなかったために、後日後悔することになる。
俺たちが立ち去った部屋からは、クローゼの歓喜に打ち震える声が響き渡っていた。
あまりの喜びように、俺はつい心配になってしまうのだった。
服ができ上がるまでの間、俺たちは魔族たちの要望書を眺めながらその時を待つ。約束の7日後を迎えると、俺たちの元に服が完成したという知らせを届く。
俺たちはクローゼがこもる部屋へと向かうのだが、果たしてどんな服ができ上がったというのだろうか。
期待と不安を胸に、俺たちはその扉を開けたのだった。




