第54話 転生者、マッチョに興奮する
急にデザストレの体が光ったかと思うと、その体が縮んでいく。
(あっ、これ。絶対戻せとか言われるやつだ……)
社畜ではあったものの、世に出ている小説や漫画なら片手間に読んだ事があるので、すぐにピンときてしまった。
そして、目の前には予想通りの結果が展開されてしまった。
「うん、やっぱり人化だよな……」
当然の結果にがくっと項垂れる俺だったが、おそるおそる人型となったデザストレを見る。
その姿を見た俺は、さっきまでの沈んだ気持ちが嘘のように興奮してしまった。
「おお、かっけえっ!」
頭には2回折れ曲がった太めの角が生え、背中には翼と太めのしっぽが生えている。
さすが厄災と呼ばれ強力な闇属性を持つがゆえに、髪は漆黒、肌も浅黒い。
普通の人化キャラといえばイケメンになってしまうことが多い中、なかなかに渋い面持ちを持っていて、全身の筋肉もがっしりとした感じだ。
体のラインにぴったり合うような衣装だからか、二の腕や太ももの筋肉や腹筋の割れ具合も一目瞭然だった。
「なるほどなあ、このくらいのムキムキマッチョマンじゃ、並み大抵の魔族が敵わないのはよく分かるぜ」
俺はデザストレの体をぺちぺちと触りながらべた褒めである。
「む、むきむきまっ……? なんだそれは」
俺から飛び出た言葉に『?』を浮かべてじっと見てくるデザストレ。ああ、この世界じゃ通じない言葉だったか。
俺はごまかすように咳払いをする。
「とにかく、筋肉質なところがいいと思う。俺は細マッチョよりゴリマッチョ派だからな」
「先程から何を言っているのだ、お前は」
冷静にツッコミを入れられてしまう。厄災のドラゴンのくせに意外と頭が回るな、こいつ……。
さっきまであんなちゃちい戦い方してたくせに、何なんだろうな。
だが、実際に意味不明な話をしていたのは事実だから、俺は咳払いをしてとりあえずごまかしておく。
「なあ、キリエ。こいつを配置するならどこがいいと思う?」
ひとまず話題転換だ。ごまかすにはこれに限るというものだよ。
俺の質問に、キリエは顎を抱えて考え込む。さすがにこの時のキリエは、メイドではなく参謀の顔になっていた。
(ご意見番みたいで頼りになるよなぁ、キリエは)
その一生懸命悩む様子を、俺は微笑ましく眺めている。
キリエの結論を待つ間、俺だけじゃなくてピエラもデザストレに興味津々だった。
「なんだ。なにを珍しそうに見ている」
さすがに凝視し過ぎたらしく、不快感をあらわにするデザストレ。
だが、ドラゴンの時とは違い、人型となったデザストレにはそれほどまでに恐怖心を感じない。そのために、多少睨んだところで俺たちには効かなかった。
「うふふ、素敵な殿方ですね。セイ、なんとしても魔王軍に引き込んで馴染ませましょう」
「もちろん、そのつもりだぜ」
俺とピエラの話を聞きながら、困惑した表情を浮かべるデザストレ。
その表情に気が付いた俺は、つい気になって問い掛けてみる。
「どうしたんだよ、変な顔をして」
「いや、隙だらけだというのに隙がないというか……。なんだ、この気持ち悪い状態は……」
まったく酷い言い草だった。
おそらくその原因は、俺が放つ至近距離でしか感じられない魔力のせいだろう。距離的にデザストレは、俺の魔力をひしひしと感じているはずだからな。
俺たちがいろいろと盛り上がっていると、キリエがようやく結論を出す。
「魔王様。その者の配置ですが、魔王様付きの護衛と致しましょう」
なんとも予想外な役職を提案してくるキリエである。当然ながら、俺はその理由をキリエに尋ねる。
「厄災のドラゴンであるデザストレは、魔王様の魔力に対して恐怖心を持っております。ですので、常に魔王様のそばに置く事で魔族たちへの敵愾心を削げると思うのです」
「なるほどな。ただ、こいつは男で、俺は女だ。四六時中……じゃなくて、常にそばに置いておくというわけにもいかないだろう」
キリエの提案に、俺は頷きながらも懸念点を挙げる。
そりゃ魔王討伐の際に、俺とマールンとピエラの三人で旅してて何度となく一緒に野宿はしたがな。知ってる仲だったからどうにかなったんだ。
だからこそ、ろくに知らないデザストレ相手となると警戒が一気に強まるというものだ。
「バカにしてくれるな! 俺は誇り高きドラゴンだ。魔族ごときに欲情など抱かぬ!」
はっきり言ってのけるデザストレである。
だが、これはこれでショックを受ける内容だった。さすが厄災のドラゴンだぜ……。
とはいえ、デザストレは俺の護衛に対しては反発していないようなので、これは決定事項となってしまった。
「それでは、服を仕立てるためにクローゼのところに参りましょうか」
「あれ、クローゼって今どこにいるんだ?」
キリエの発言を聞いて、俺は質問を投げかける。
「城で軟禁しております。魔王様やピエラ様を筆頭に、様々な方の服を仕立てる必要がございますのでね」
「うっわぁ……。たまには家に帰してやってくれよ?」
「承知致しました。本人の希望がございましたら考えます」
あっこれ、ダメなやつだ。
俺はクローゼに対して心の中で合掌をしておく。
そして、話がまとまったので、俺たちは魔王城へと戻ることにしたのだった。




