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続ホルスの宝島 ~潮の果て~  作者: 育岳 未知人
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1.南と北の十字架が集う場所

宝探し系ユーチューバーでフリーターのマナティこと千葉学ちばまなぶは、今沖縄から更に南に移動した日本最南端の波照間島にテントを設営し、浜辺に佇んでは海の声を聴きながら夜空の星を眺めていた。隣にはマナティの女神ミオこと立花美緒たちばなみおが寄り添っている。彼女は東京の東都基督教大学総合病院の脳神経外科に勤務するハルこと井川晴海いかわはるみの同僚で親友でもある内科勤務の看護師である。


彼らの居る波照間島の夜空には満天の星が輝いている。星々は、そして、潮騒は二人に何を語り掛けているのだろう。


「いや待てよ、『ソロモン王の黄金の十字架』とは黄金こがね色に輝く北の空のはくちょう座の十字架と、南の空の南十字星の十字架のこと?」

ふと、マナティが呟いた。

「そうかも知れないね。もし、本当に海の底に黄金の十字架が眠っているとしても石板のヒントだけでは探しようがないものね。石板には他に何も書かれていなかったのかなあ。」

「いやあ、途中で天候が悪化したのでそれ以上詳しく調べることはできなかったんだよ。ミオの言う通り石板を掘り出して細かく調べてみたら他にも何か刻まれているかも知れないな。帰ったら安藤先生に相談してみるよ。」


エジプト考古学者アンディこと安藤襄治あんどうじょうじは自分の得意分野のピラミッド遺跡の発掘調査を中断してエジプトの天空神ホルスにまつわる神殿遺跡調査に熱中していた。そして、その結果、ホルス神とソロモン王が結び付ける古代エジプトと古代イスラエルの繋がりが見えて来たのである。しかし、それも束の間、彼は日本まで追って来たその妨害勢力に襲われ、ハルの務める東都基督教大学総合病院脳神経外科に担ぎ込まれ、キリスト教徒のハルと知り合い、彼女が切り出した『ソロモン王の黄金の十字架』の話にエジプトで見た自らがソロモン王になった夢を想起し、彼女と共に聖書の解読に勤しむこととなった。そして、それをきっかけに彼女の同僚のミオとその友人のマナティも加わり黄金の十字架を巡る宝探しの冒険が始まったのである。早速ネット情報を調べ始めたマナティの目に留まった四国徳島の剣山に伝わる『ソロモンの秘宝伝説』を頼りにアンディとマナティが調査を行った剣山山頂に鎮座する劔山本宮宝蔵石神社の磐座で遂に石板を発見し、その碑文『黄金の十字架が南と北の空に輝く時、海に眠る愛と富が目覚めるであろう』というヒントに導かれ、マナティとミオは沖縄旅行の合間を縫って二人で波照間島を目指したのである。


二人は大学時代からの付き合いなのだが、マナティにとってミオは困ったときにいつも手を差し伸べてくれる女神のような存在なのだ。今回の沖縄旅行は、そんな心優しいミオへのマナティからのささやかなプレゼントでもあった。とは言っても、今彼らが追い求めている『ソロモン王の黄金の十字架』を巡って劔山本宮宝蔵石神社の磐座で発見した石板の碑文が暗示する南と北の十字架を求めて、みなみじゅうじ座の南十字とはくちょう座の北十字の両方を観ることができる日本最南端のここ波照間島にも足を延ばして野営しながら夜空に輝く二つの十字架を仰ぎ見ることにしたのである。


夜の9時近くになったであろうか。南東の空水平線付近と、北の空水平線付近に本当に二つの十字架が輝き出した。二人は二つの十字架を交互に仰ぎ見て何故か涙が溢れて来た。すると、ミオがふと呟いた。

「どうかこの世界が平和でいつまでも続きますように。」



「マナティ知ってる? 『きらきら星』の歌のこと。」

「そりゃあ知ってるさ。」

「♪ きらきら光るお空の星よ 瞬きしてはみんなを見てる きらきら光るお空の星よ だろ? その後は、みんなの歌が届くといいな だったかな?」

「そうよ。でもね、その元になった英語の歌詞には続きがあること知ってた?」

「そんなこと聞いたことないなあ。童謡なのに続きなんてあるの?」

「童謡だからみんな知らないと思うけど、実はその後に、続きがあるらしいの。元々はフランスの民謡で『あのね、お母さん』という歌だったらしいんだけど、イギリスの詩人ジェーン・テイラーっていう人が付けた英語の替え歌"Twinkle, twinkle, little star"( きらめく小さなお星様 )が童謡として世界的に広まったみたい。日本では、武鹿悦子っていう人が意訳して付けた歌詞が広く子供たちに歌われているけど、実は宇宙につながる歌で、宇宙人? いや神様かも知れないけど、宇宙と交信していたのかも知れないわ。テイラーが何故星の替え歌にしたのかはよくわからないけど、元々のお母さんに問いかけるフランス民謡だって、母なる宇宙を相手に問いかけていると思えば納得できるのよねえ。あのモーツァルトだって、この曲を基に変奏曲を書いているわ。」

「ええっ、それ本当の話? じゃあ、その後にどんな歌詞が続くんだい?」

ミオは『きらきら星』に続く歌詞を付け加えて歌いながら空を仰いで踊った。

『♪ きらきら ひかる おそらの ほしよ

 まばたきしては みんなを みてる

 きらきら ひかる おそらの ほしよ

 きらきらひかる おそらの ほしよ

 みんなの うたが とどくと いいな

 きらきらひかる おそらの ほしよ』


「通常はここまでの繰り返しなんだけど、歌い継がれるうちにいつの間にか人知れずこっそりと続きが歌われるようになったのよ。行くわよ!」


『♪ きらきら光る お空の星よ

 僕らの夢を 叶えてくれる

 きらきら光る お空の星よ

 きらきら光る お空の星よ

 僕らの生命を 運んでくれる

 きらきら光る お空の星よ』


「やあー、ブラボー! ミオ!」

マナティもミオの踊りを真似て一緒に踊った。


「ちなみに英語の原詞はもっとリアルなの。」

『♪ Twinkle, twinkle, little star, 訳:きらめく、きらめく、小さな星よ

 How I wonder what you are!  訳:あなたは一体何者なの?

 Up above the world so high,  訳:世界の上空はるかかなた

 Like a diamond in the sky.  訳:空のダイアモンドのように

 Twinkle, twinkle, little star,  訳:きらめく、きらめく、小さな星よ

 How I wonder what you are!  訳:あなたは一体何者なの?』


「そう言えば、『星の王子さま』を書いたのもフランスの作家でサン=テグジュペリとか言ったよね。あの話も宇宙から来た王子の話だったかな?」

「そう、でもあのお話はサハラ砂漠に不時着した飛行士が宇宙から来た王子様と出会い、会話を交わすうちに色々な教訓を得るというお話よ。特に『大切なものは目に見えない』っていう助言は示唆に富んでいて広く知られているわ。」

「UFOとか宇宙人って単なる都市伝説だと思っていたけど、実は僕たちの生活にも密やかに溶け込んでいたのかも知れないな。」

ミオがさらに続けた。

「それはそれは遠くから流れ着いた椰子の実のよう。遠い遠い宇宙の星からやって来た生命体の源が根を下ろし枝を伸ばして、この島のヤシの木のように大きく育ったのよ。」

「そうか、つまり、地球が生命を育む奇跡の星になったのも、この星に流れ着いた椰子の実のおかげだったってことか・・・あー、わかったよ! 地球だって宝島だっていいたいんでしょ? 」

「マナティ気付いちゃった。はっはっはっはっは。」


星や月の明かりに照らされて、波の穂が瞬くように輝き、まるで海に浮かぶきらきら星のごとく、煌めいて見えた。


「そうよ。地球は宇宙に浮かぶ島。そして、私たちの居る島も母なる海に浮かぶ島。」


二人は何だかアダムとイヴになったような気がした。

「私たちはこの星のアダムとイヴよ。私たちがこれから新しい未来を築いて行くのよ。そうだわ。これは神様に委ねられた第二の創造よ。」

「そうだったんだね。じゃあ僕たちはまず何をすればいいんだろうか?」

潮騒に交じって遠くで声が聞こえたような気がした。

『過去を俯瞰するんだよ。』

二人は互いに見つめ合った。すると、海が大きく二つに割れた。

遠くで海面を跳ねる大きな鯨の陰影が見えた。

夜空にオーロラのような幕が下りて来ると、そこに世界の出来事が走馬灯のようにゆっくりと映し出されては流れて行った。幾度もの戦禍が、海賊船が、平和の祭典が、空を覆うような大津波が、火山の大爆発が、命の誕生が。地球はさらに古代へと遡る。そして、太古の地球の姿が。。。


二人は大空に繰り広げられる逆再生ドラマのプレビューのようなポイント再生画像に見入っていたが、ある時、自分たちの居る島と同じような光景が表れて驚いた。よく見ると、そこには古代の服装と思しき姿ではあるが明らかに自分たち二人の姿が映っている。

「これは一体どういうことなんだろう? 僕たちは昔同じ過去に遭遇したということなんだろうか? もしかして、二人して同じデジャブを見ているってこと?」

マナティは自分の頬をつねったり、叩いたりしてみたが、どうも夢ではなさそうだ。

「ミオ、君にも見えるよね?」

「ええ、あの映像って私たちよね?」

「やっぱり君もそう思うだろう?」

二人がそう言っている間に、映像はその島のさらに過去に遡って行く。

一部の高い山だけを残して陸地が沈んで行き、大津波が押し寄せて来た。その前には大きな街並みが浮かび上がる。石造りの建物が立ち並び、モアイ像のような石像も。ピラミッドも。



いつの間にか、二人は浜辺近くのテントに戻って寝入ってしまったようだった。

朝の日の光と小鳥の囀りで二人が目を覚ますと、見知らぬ老人が近くに現れた。

「あんたたちは見かけない顔だが、どこから来たのかい?」

マナティはまだ寝覚めの悪い顔で眼を擦ってから彼を認めるとおもむろに答えた。

「僕たちは東京から来たんです。おじさんはこの島の方ですよね? 僕たち昨夜不思議な空の光景を目にしたんですが、何かご存知ないですか?」

「『はいむるぶし』のことかな?」

「いや、『はいむるぶし』と『はくちょう座』の両方が見えたのも凄いんですが、もっと凄い光景が見えたんですよ。そう、大空に幕が下りて来て、そこに映像が映し出されて。。。」

「ほほう、そんなこともあるじゃろう。ここは波照間島じゃ、世界の果てる間になるという言い伝えもあるくらいじゃ。ここでは不思議な光景が時々起こるんじゃよ。」

「えー、そんな話があるんですか?」

マナティとミオは顔を見合わせた。

老人は不思議な笑みを浮かべながら去って行った。


「でもどうして僕らの映像が映し出されたんだろう?」

「そうね、不思議だよね。もしかしたら、私たち太古の昔に出会っていて、その生まれ変わりだったりしてね。」

「そうか、もしそうだとしたら、僕らがここに来て、昨夜の映像を見たのは必然だったってことなんだろうか? これは神の摂理なんだろうか。」

二人は何か天命みたいな使命感を感ぜずにはいられなかった。

「僕は帰ってまた、あの剣山の石板を追うことにするよ。」

「そうね、あそこにまだ何かヒントが隠されているのかも知れないものね。」


待ちに待った二人のバカンスは、甘い期待とは裏腹にこんな難題を残しての帰還となった。


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