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【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第二章 女体のヒトガタ建築の中で

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9 概ね、【食う飲む】、【喋る歌う】そして【打つ】


 ふたりは実際に、“そちら”へ、トットコ……と歩いていってみる。

 まず、パク・ソユンが、ガラスの前に立つものの、

「……」

 と、無言で、案の定、あまり反応がない。

 その横から、

「おおっ……!?」

 と、ドン・ヨンファが対照的に、“その眺め”に息をのんだ。

 その、ふたりが眺めるものは、確かに、驚くべき光景だった。

 まず、膝をついたセクシーポーズをした、この【女体のヒトガタ建築】だが、内部は【筒状】になっていた。

 岩盤に空いた、円筒状になった穴――、そんな地形を活かして、この女体建築を築いたと思われる。

 それで、他の部屋もこの部屋と同じように、岩盤を縫って突き出す形で、ガラス張りの部分が張り出していた。

 それらが、互いにあまり重ならないように、うまいぐあいに【螺旋状】になっており、ぐるり――と囲むようなダイナミックな光景――

 また、そして、


「うッ――!?」


 と、こんどはドン・ヨンファが、驚愕し、思わず腰を抜かしかける。

 というのも、その、ガラス張りの下を見た先は、

 

 ――グワ、ンッ――!! 


 と、30メートルほど下だろうか――!? 青い海面が大きく上下し、揺れていたのだ!!

 高所恐怖症の者や、そうでない者でも、ときに腰を抜かしかねない眺めである!!

 また、青い海面はというと、確かに、“何か生命を湛える海洋を抽出した”とでもいうべきか――? 神秘的、かつ幻想的に感じる光景でもある。

 だが同時に、青い海面が、こちらへと迫るように大きく揺れるさま――

 まるで、何か、飲みこまれるような……、あるいは、【取り込まれてしまう】ような、ある種の海洋恐怖症と似た、得もいわれぬ不気味で不安な感覚を呼び起こさせる。

「う、わぁ……」

 ドン・ヨンファが、恐る恐るも眺める。

 その後ろから、

「ああ、そうだ? とりあえず……、何か、非常事態が起きたら、さ? アンタ、落としてあげるから、安心していいわよ?」

「何で、安心できるんだよ? てか、非常口使えば良くないかい? ソユン?」

 と、真顔で言ってきたパク・ソユンに、ドン・ヨンファはつっこんだ。


 そのようにしながらも、

「とりあえず、ここにずっといても、ヒマだからさ? 散歩がてら、カジノのほうへ行かない?」

 と、パク・ソユンが提案してきた。

「あ、あ……? 確かに、そうだね」

 ドン・ヨンファも、それに同意する。

 確かにの確かに、いくら興味を引くアート壁であったり、未だ見たことない光景・絶景とはいえ、人間というのは、ずっと同じものを見続けることには、あまり耐えることのできないものである。

 つまり、“飽きる”わけである。


 また、個人差はあるものの、人間というのはおおむね、【食う飲む】、【喋る歌う】そして【打つ】くらいしか楽しみはないものである。

 なので、「さっさと、カジノにでも行こう」というパク・ソユンの判断は、至極まっとうなものであり、ドン・ヨンファが同意するのも当然だった。

 そうして、ふたりは、部屋を出ることにする。

「とりま、このままの格好でいいから、出よ?」

「あ、ああ……」

 と、せっかちなパク・ソユンに、ドン・ヨンファが遅れがちに頷く。

 せっかちは、悪い事ではない――

 だが、そうしながらも、


「……」


 ふと、ドン・ヨンファは、ふたたびオブジェの作品が目に留まった。

 緻密精密に計算つくされた工業製品、もしくは建築物などとは違い、【遺伝子という、とくに設計図のない情報】――まあ、『遺伝子=設計図』とされるが、ある発生学の専門家によると、遺伝子には、【精密な工業製品等のような、事前に事細かく厳密に決められた完成形のような情報】というのは、無いらしい――と、【濃度勾配に従った簡素なルール】からスタートし、【自ずから然りて複雑に構築される】、管状、筒状の【竹】という生命体――

 そんな【竹】を見ながらも、その、【管】だったり、【筒】というキーワードが、どこか頭にこびりつくような、“何かモヤモヤしたもの”を感じていたのだが……

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