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【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第七章 島からの脱出

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45 いや、気にするわ。こわかち、こわかち




          (2)




「たっ、タヌキさんッ――!?」

 まさかの助けに、ドン・ヨンファが驚き、

『だから、タヌキでないといっておるだろ。わざとだろ、貴様? 殺すぞ』

「あっ? ご、ごめんごめん!!」

 と、うっかりタヌキ呼ばわりしたのを詫びる。

 その間にも、


「もう、いいでしょう――!! 自らをクソ袋というのなら!! そのまま、島ごと死になさいなッ!! このモルモットどもッ!!」


 と、いつの間に移動したのか――、吹き抜けの遥か高いところから見下ろす秘書の女が、二人に向かって憎悪を隠すことなく叫ぶ。

 同時に、


 ――ドッ、ォーンッ……!!!!!


 と、爆発音が、この変態的な建築物全体に響きわたった。

「おっ!? わッ――!!」

 ドン・ヨンファが驚愕し、

「う、ん――?」

 と、パク・ソユンが相変わらずの、薄い、かつ鈍い反応をする。

 また同時に、


 ――ガタ、ガタ、ガタッ……!!!


 と、建物が揺れつつ、炎に包まれ始めるという――、使い古されたベタな演出のように!!

 まさに、自爆と自壊をはじめる!!

「ま、まさかッ!? 自爆!?」

「まあ、それ以外に、ないでしょね」

 慌てるドン・ヨンファに、慌てる様子がないパク・ソユンが答える。

「ど、どうするッ――!? どうするッ!? ソユンッ!?」

「いや、私に聞かないでよ!! うるさいわね!! ――てか、タヌキ!! 何とかしなさいよ!!」

 半ばパニクるドン・ヨンファを鬱陶しがりつつ、パク・ソユンは、妖狐に力を貸せと言う。

『ふむ。仕方ないヤツらめ』

 妖狐が、「やれやれ」と答える。

 すると、


 ――ファ、ァァンッ……


 と、“何かオーラのようなもの”が、まるで、“スキャン”でもするが如く――

 ロビー内に展示してあった、例の、旧ソビエト軍の可変翼の戦闘機――、ミグ23の、先端から尾翼まで読み取るように“走った”。

 それと同時に、


 ――ゴ、ゴ、ゴッ、ゴ、ゴォォォッ……!!!!!


 との爆音とともに――!! もう少なくとも十数年は動いていないジェットエンジンが!! 燃料なしに動き出す!!

 あわせて、

 ――ギィ、ィィッ……!!

 と、その可変翼も、離陸するの際の角度へと、大きく開いた。

『乗れ。カスども』

 との、妖狐の声とともに、

「うわ、んっ――!?」

「はぁ――?」

 と、ドン・ヨンファとパク・ソユンが反応するよりも先に、身体が宙に浮く。

 そしてそのまま、無理くりに、コクピットに乗せられる。


「い、いや? こ、これって、二人乗りなのかい? タヌッ――、キツネさん?」

『フン、ちっちゃいことは気にするな』

「いや、気にするわ。こわかち、こわかち」

「何言ってんだよ!? ソユンッ――!?」

 妖狐とパク・ソユンの謎のやりとりに、ドン・ヨンファが困惑と錯乱気味につっこむ。

 その間も、


 ――シュバッ――!! ドッ、ゴォォン――!!!!!


 と、恐らく妖力によってか――!! ミサイルのように放たれた力が。眼前の壁面を破壊する!!

 そうして、外界への出口が開いた形になる。

 右手が負傷して操縦できないパク・ソユンを椅子にする形で、ドン・ヨンファが上に乗っかり、戦闘機を動かす。

「じっ、じゃあッ!! 脱出するぞッ!! ソユン!!」

「うん、早くしてって!!」

 ふたりは、そう言葉を交わすとともに、半世紀近く前のミグ戦闘機を発進させる。


 ――グッ、ォォンッ――!!!!!


 と、さすがの可変翼の効果か――、機体は建物から出るとともに、すぐさま離陸し、もう海を眼前としていた。

 そうして、ぐるりと旋回しながら、まだ薄暗さの残る夜明けの中――、朝日が昇るのをバックとして、“ヒトガタの変態建築”が、炎に包まれるのが見える。

「う、わぁ……、すっごい、燃えてるなぁ……」

 ドン・ヨンファが、傾いた機体の、斜め下にヒトガタを見ながら言う。

「まあ、間一髪、だったわね」

 パク・ソユンが、それに呼応するように言った。


「――と、いうか? ほんと、何だったんだろうな? 今回」

「さあ、ね……? とりあえず、帰ったら、寝たいわ……」

「いや、君は帰ったら、まず病院じゃないか? ――てか? 若干、手が治ってないか?」

 ドン・ヨンファがつっこみながらも、パク・ソユンの、“クパァッ――と逝ってしまった手”が、少しだが、良くなっているのに気がついた。

 まあ、自身の異能力によって召還した植物の応急処置と、妖狐の妖力による効果もあるのだろう。

「そう、ね……? 何か、たぶん、内臓と肋骨も損傷してるんだろうけど……、若干、治ってきてる気がするし」

 パク・ソユンが、サラッと言った。

 確かに、その肉体の損傷であるが、驚異的な速さで回復しているのは間違いなさそうである。

 某船坂軍人もビックリな回復力、であるといえる。


 そうして、ドラ焼きダヌキの妖力を以って――、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは、ミグ23戦闘機で巡行する。

 その妖狐に、パク・ソユンが、

「そう言えば、さ? タヌキ、」

『何だ? ……というか、意地でも、キツネと呼ぶつもりないだろ? 貴様? 殺すぞ』

 と、「殺す」と言われながらも、

「うん。その、さぁ……? さっき、アンタと、“アイツ”の――、ユスリ・タカリってヤツの“力”について話した時に、さ? どこで、手にした力だろうな――? とか、言ってたじゃん?」

『ん……? ああ……、確かに、言ったな』

「それって……、やっぱり、“誰か”が――、何者かが、ユスリ・タカリたちに、“あの力”をあげた可能性ってのが――、あるわけ?」

 と、まるで、タバコを“あげた”の語感で、パク・ソユンは妖狐に聞いてみた。


『まあ、そう、だな……? おそらくは、ヤツと同等の――、いや、“並みの魔人や邪神とは比較にならないくらいの何者か”が……、ヤツに、“力”をもたらした可能性は、ある――』

 何か、意味深に答える妖狐に、

「へ、ぇ……」

 と、ドン・ヨンファと、

「ふー、ん……。邪神、ねぇ……」

 と、パク・ソユンが、曖昧そうに相槌した。

 まあ、並みの魔人と云われても、そもそも魔人とは何ぞやという話なので、あまり実感はわかない。

 ただ、先ほどのユスリタカリや秘書の女よりも、強大かつ不可思議な力を持っている存在ということだろう。


 また、

『まあ、もし、“そんな何者か”が出てくるとしても……、相手をするのは、貴様たちではないだろうがな』

「ま、まあ……、それは、さすがに勘弁、願いたいからね」

 と今度は、何かを仄めかすような妖狐に、ドン・ヨンファが苦い顔で答えた。

 そうして、

『――と、いうわけで、だ……。質問は、それくらいで、いいな? カスども? こっちも、また鉄火場に戻らないといけないのだ。邪魔をしたら、殺すぞ」

「はぁ、まだやってたの? アンタ?」

 と、パク・ソユンがつっこむ。

 それと同時に、

 ――プ、ッツ……

 と、ここらで、妖狐との通信が切れる。


 そのようにしていると、空は次第に、明るくなってきた。

「はぁ……、朝、だね」

 操縦するドン・ヨンファが、思わず、出てくる溜め息とともに言った。

「まあ、朝でしょね」

 と、パク・ソユンが答えつつ、

「そう言えば、さ? アンタ?」

「うん? 何だい?」

 と、質問を言うのを待つドン・ヨンファに、

「今は、便意は大丈夫なの?」

 と、またしても、例の便意を尋ねた。

「まった、こんな状況で聞きやがったし……。君は、何だい? マイブームなのかい? その質問?」

「いいえ。――だって、昔、戦闘機で訓練中に催してさ、そのまま漏らしたとか、あるらしいじゃん」

「まあ、あるだろうね……、人間だし。まあ、心配しなくても、いま、僕は大丈夫だけど」

 と、いちおうは、小さい方を漏らした前科のあるドン・ヨンファが答えると、

「あっ、そう――」

 と、パク・ソユンが頷きつつ、一呼吸おいて、



「ごめん。私はいま、若干、催してる」


 と、思わぬ言葉を返してきた。

 そんな、海と、空の境界の美しい朝焼けの中――

「うん。とりあえず、着くまではガマンしてくれな」

 と、締まりの無い相方のひと言に、ドン・ヨンファがつっこんだ。


 


(終了)


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