44 うん。ごめん。たぶん、若干、バカにしてる
「うん。たぶん、中二病。別に、“神々に与えられた制約”を超えるとか、たぶん、素晴らしくも何ともない」
パク・ソユンが、答える。
『たぶん』を、二回使って。
さらに、続けること、
「何か、日本の、昔のお坊さんが、こんなこと言ったらしいんだけど、さ? 人間の本質ってのは、皆、“クソ袋”なんだって」
「クソ袋……、ですか?」
と、秘書の女が、すこし顔をしかめて聞きかえす。
「うん。たぶん、“ウンコを溜める袋”みたいなもんだって。まあ、何だろう? あの、ニートが自分を、ウンコ製造機とかいう的な」
と、淡々と答えるパク・ソユンに、
「その……、そんな、“醜悪な本質”を課した神に、憤りを、感じませんか? パク・ソユン様?」
と、秘書の女が、また共感を求めて聞いてきた。
だが、パク・ソユンは答える。
「はぁ? 別に、それで、いいんじゃない?」
「それで、いい――、とは?」
秘書の女が、聞き返すと、
「うん。まあ、美しく飾ろうが、美しい理想を語ろうが、高度なIT社会を作ろうが、シンギュラリティとかいうのに近づこうが……、所詮は、人間は、クソ袋――。古今東西、そんな人間の愉しみってのは、概ね、『食う飲む、喋る歌う、打つ』くらいしかないわけで、」
と、まだ話し続けるパク・ソユンに、
「いや、それで――」
と、秘書の女が思わず割り込むように、「それでいいのか?」と、口を挟もうとするも、
「――でも、それだからこそ……、人間ってのは、いいんじゃない?」
と、その先に手を打つように、パク・ソユンが言葉を置いた。
「いや、――ですが、パク・ソユン様、」
秘書の女が、まだ説得する。
その様子は、どこか調子が少し崩れかけているようにも見える。
そして、その時、
――ブ、ッ……
と、何か、“音”が響くとともに、
「あっ……? ごめん、オナラ、出ちゃった」
と、パク・ソユンが、脂汗と血が滴りながらも、正直に申し立てた。
その傍ら、
「は――?」
と、ドン・ヨンファが、シュールな顔でポカンとする。
まあ、そんな顔をするのも、無理もないだろう。
これまでも、クリーチャーを目にしても無反応であったり、危機的状況にも関わらずカンチョーをしたり、便意を聞いてきたりと、“異次元クラスに緊張感の無い”パク・ソユンである。
だが、ここにきて、屁をこいて見せるなど、あまりにも予想外の出来事であった。
「何、で……? オナラなんか、してんの? ソユン?」
ドン・ヨンファが、引きつり気味の顔で聞く。
「はぁ? まあ、人間だから、出るときは、出るんじゃない?」
パク・ソユンが、少しイラっとした様子で答える。
「その……、わざと……、じゃないよね?」
「さあ? わざとじゃないかもしれないし、ちょっとは、わざとかもしれない――」
「何だよ、わざとかもしれないって……、」
ドン・ヨンファが、つっこみたくも呆れる。
まあ、そのドン・ヨンファのことは、さておき――
肝心なのは、まだ話の途中の、秘書の女のほうである。
真剣に話をしようとしていた矢先に、屁をこくなどということを、されたわけであるから、
「――あの……? 人が、話をしようとしているときに、放屁をするなど……、どういう神経を、しているのですか……?」
と、これまで感情をあまり出さなかった秘書の女が、どこか、怒気に震えはじめる。
「だから、ごめんって、言ってるじゃん。クソ袋の話をしてただけに」
「あの、ですね……? 貴女は、私を、馬鹿に、してるのですか?」
「うん。ごめん、若干、バカにしてる」
と、怒りはじめる秘書の女に、パク・ソユンが「ごめん」と言いつつも、逆なでするようなことを言う。
「(そ、ソユン……! ま、また、おちょくるようなこと言っちゃダメだって――!)」
ドン・ヨンファが、ハラハラして小声で注意するも、
「何、ですか? その、若干バカにしてるって……?」
「はぁ、ごめん。じゃあ? もうちょい、ちゃんとバカにしてあげよっか? はい、バーカ、バーカ」
「だ、からッ!! 何で!? 敢えて喧嘩売るの!?」
と、おかまいなしに、パク・ソユンは秘書の女を煽る。
その刹那、
――ブッ、チンッ――!!
と、今度は屁の音などではなく――!! 秘書の女の堪忍の尾が完全に切れる音がした!!
その同時!!
「いい加減にしろってんだよッ!! この下品なクソ女がッ――!!」
と、ブチ切れた秘書の女が、パク・ソユンに襲いかかる!!
先の、ユスリ・タカリと同じ能力を有しているのか――!?
瞬間移動のようにしてパク・ソユンに迫り、その手を“かざさん”とする!!
「そ、ソユンッ――!!」
ドン・ヨンファが、慌てる。
先に、パク・ソユンは大きなダメージを負いながらも、何とかユスリ・タカリを倒したわけである。
そんな状態もかかわらず、同等の能力を持っているかもしれぬ秘書の女が襲いかかるという、まさに危機的状況――!!
しかし、その時、
――ボワッ――!!
と、突如!! 空間に生じたナニカ――!!
「ッ――!?」
秘書の女は気がつき、咄嗟に動きを止める!!
眼前の、空間の間隙から、
――ドド、ドドドッ――!!!!!
と、先のドン・ヨンファの植物とは比較にならないほどの!! 数十倍にも強力な魔界植物たちが姿を現し、まさに鉄砲水の如く――!!
怒涛の勢いで秘書の女へと襲いかかる!!
「ちィィッ――!!」
秘書の女が感情をむき出しにした舌打をしつつ、
――ザ、シュッ――!!
と、大きく後方へと回避する!!
それと同時、
『ふむ。そろそろ、その辺にしておくのだ。貴様――』
と、妖狐の、神楽坂文の声がした。
すなわち――!!
いま、異界にいる妖狐だが、異なる世界線を超えて魔界植物を召還し、ふたりに助け差し伸べたわけである!!




