43 まあ、某マトリックス方式なのか――? それとも、別の何らかのSFモノのような形で
(1)
ユスリ・タカリを倒した、後のこと。
ドン・ヨンファの“植物”によって、パク・ソユンの手が、応急で処置される。
残ったのは、秘書の女、ただ一人だけになる。
「――で? 残りは、アンタだよね?」
パク・ソユンが、まだ引かない脂汗と血を滴らせながらも、ジッ……と、秘書の女を見て言った。
なお、隣のドン・ヨンファも、
「……」
と、緊張した表情とともに、秘書の女の動向を警戒し、注視する。
いっぽう、秘書の女のほうも
「……」
と無言で、パク・ソユンの質問には答えずに、ゆるり……と、こちらを見ていた。
相対峙する中、
「――まさか? アンタも、“アイツと同じような力”を、持っているわけ?」
パク・ソユンが、ふたたび聞いてみる。
「さあ……? ……どう、でしょうね?」
秘書の女が、これには、ゆっくりと答える。
続けて、
「てか? アンタのボスが死んじゃったけど、さ? 大丈夫な、わけ? あと、そもそも、ロクに助ける様子もなかったけど?」
と、同じく、パク・ソユンが問う。
まあ確かに、ユスリタカリは彼女のボスであるゆえ、少しくらい、加勢したり助けたりしてもよいものの、戦闘中に、そのような素振りはなかった。
「ええ。特に……、問題は、ありません」
秘書の女が、ビジネスライクに、淡々とした様子で答えた。
それを聞いて、
「そうなの……、かい……?」
ドン・ヨンファも、怪訝な顔をしながら、恐る恐ると聞いた。
やはり、自らのボスが“助けの手を差し伸べられないままに倒された”――、という理解不能な答えに、少々、何か戦慄に近いものを感じるのだろう。
その問いに、
「はい。先ほど、申しましたように……、実験に協力してくださった皆様の記憶も、意志も……、“私どもの中”で、文字どおりに、“共有されて”、生きております」
と、秘書の女が答える。
それを聞いて、
「……?」
と、ドン・ヨンファが、「どゆこと――?」と云わんかのような、さらに怪訝な顔をする。
その傍らでは、
「はぁ、」
と、パク・ソユンが相変わらずの、気の抜けた相槌をする。
まあ、某マトリックス方式なのか――? それとも、別の何らかのSFモノのような形で、ユスリ・タカリや、実験体となった招待客たちの、『脳内の情報というか意志とかいった情報が、おそらくは電脳空間か何かの中で、“統合”される形で残されている』ということなのだろうか?
そうしていると、
「――です、ので……、同様に、理事長の意志も、私の中に――、私ども財団の中に――、全て、“残っている”のです」
と、秘書の女が、続きを話し終えていた。
それと、同時に、
――パ、カリ……
と、秘書の女の顔が、あろうことか――? まるで、仮面が取れるような形で、CG作品のように外れる。
また同時に、その髪の、ドレッドの部分も、
――グ、ルン――
と、同じくCGのように、複雑な回転をしながら蠢いた。
そんな突然の光景に、
「なっ――!?」
と、ドン・ヨンファが思わず、驚愕の声をあげる。
そうしている間に、秘書の女が、
「――さて、パク・ソユン様? 先ほどは、私は貴女のことを、“はしたない”と、汚い言葉を投げかけてしまいましたが……、このたびの、私どもの、理事長を打ち負かしたことに敬意を表しまして……、貴方がたを、特別な待遇のもと、私どもの財団にお招きしたいと思います」
などと、パク・ソユンとドン・ヨンファに、自分たちのX財団へと、ふたたび勧誘に等しい提案をしてきた。
「は、ぁ?」
怪訝な顔で、気の抜けた反応をするパク・ソユンに、
「それに、ですね……、先ほど、貴女は、私どもが皆様を“変形”しましたことに憤られておりましたが……、私どもは、人びとが憎いのでは、決してありません」
と、秘書の女が言う。
「――?」
キョトンとするドン・ヨンファと、
「……」
と、パク・ソユンが無言で、ジトッ……とした目で、話の続きを聞く。
「むしろ、ですね……、私どもにとっては、人びとは皆、愛しく、慈しむべき存在でもあるのです。ゆえに、真に恨むべくは……、我々に、自分たちに似せただけの、脆弱で朽ちやすい、“不完全な形”を与えた神々――!」
ここで、秘書の女が抑揚をつける。
「ッ――!」
思わず、ドン・ヨンファが気圧される。
まあ、いっぽう、
「……」
と、パク・ソユンは相変わらず、ジトッ……とした、少し眠たそうな目で聞いていたが。
そこへ、
「その、神々に与えられた制約を超えるための、“偉大な事業”を為すのが、私どもの目的――。理不尽な神々にも……、そして、何者にも打ち負かされることのない、永遠に老いず、朽ちない、美しい肉体と、明瞭な頭脳を手に入れる――。貴女とも、利害関係は、合いますよね……? パク・ソユン様?」
と、秘書の女が、ここで初めてか? パク・ソユンに共感を求めるよう聞いてきた。
だが、そんな問いに、
「は――? 全然――」
と、パク・ソユンは一言で、“それ”を否定した。
また続けて、
「てか? 何その、神々に与えられた制約ーとか? だから、ナニそれ? 美味しいの――、っての? 中二病的な、ナニカなわけ?」
と、気持ち少し、煽るように言った。
それを聞いて、
「は、い……? 中二病――、ですか?」
と、秘書の女の顔が、少し険しくなる。




