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【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第六章 立て直しと再対決

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40 相変わらず、淑女とはほど遠く、はしたない


「ええ……」

 秘書の女が、ゆるり……と、ふたりに答える。

 そのまま続けて、

「少し、『汚い話』には、なりますが……、我々、人間には、生理的欲求のうち、排泄欲というのが、ありますよね?」

「うん。ウンコのことだねー!」

 と、パク・ソユンが、露骨に、すこし大っきな声でウンコと言って相槌をする。

 たぶん、大っきな声は、わざとと思われるが。

 それを聞いて、

「……」 

 と、秘書の女が、ジロリ……と、どこか険しい目をした。

 続けるに、

「まあ……、そう、ですね……? その、生理的な欲求と、結びついた――、とでも言いましょうか? 排泄する時の、気持ち良さ――、これは、“くだ”としての、生物の本来持った感覚――、その、名残のようなものであります」

 と、話す秘書の女の言葉に、

「……?」

 と、ドン・ヨンファが、怪訝な顔をしながらも耳を傾ける。


 秘書の女は、さらに続けて、

「ゆえに、ですね……、私どもが、皆様にもたらす“変形”というのはですね……、腸管を、“管”自体を“排泄”するようにして、その肉体をグリン――と、ひっくり返すわけであります」

「ち、腸から、身体を、“ひっくり返す”――、だって?」

 と、戦慄と驚愕の混じるドン・ヨンファに、

「ええ……。ですから……、その“快楽”というのは、通常の排泄の、もしくは性行為と比較しても、何万倍のもの快楽でもありますよ」

 と、秘書の女が朗らかに――、しかしながら、どこか狂気を秘めたような目で、そして、プレゼンでもする時のように話す。


 まあ、“どちらかというと複雑な形をした人間”というのも、元を辿れば、ミミズのような、“筒”や“管”といった“単純な形”から始まったわけである。

 その名残の消化管――、特に腸管というのは、第二の脳とも言われるように、多数の神経が結びついているという。

 なお、ちなみに、もっと単純には“袋”や“茶碗”といったように、“入り口と出口が一体となった構造”から始まったともいわれており、それが入口と出口と非常口に、分化したわけである。

 失敬、非常口は、たぶん無い――

 まあ、それはさておき、話を進める。

 そういうわけで、口と肛門というのは元は同じ場所にあったわけで、“脳へと親密に通ずる神経系”が発達しているのも、無理もない話である。


 それら、話を聞きつつも、

「ふーん。そーなんだー」

 パク・ソユンが言って、わざとらしく鼻糞をほじくる。

 そして、丸めるなり、

 ――ピンッ――!!

 と、飛ばしてみせた。

「ちょっ!? 何してんの!? ソユン!?」

 ドン・ヨンファが、ここは流石さすがに、唐突の鼻ホジに驚愕すると、

「いや、ウンコするときよりも、気持ち良いんだって。ああ……? そう言えば、さ? アンタ? いまは、便意は、大丈夫なわけね? さっき、私がカンチョーした分の」

「本当にこんなところで便意聞きやがったし!? ほんと、頭かち割ってやろうかい!? ソユン!?」

 と、ここでも異次元の緊張感のなさを発揮してくるパク・ソユンに、ついにドン・ヨンファも壊れる!!

 それを聞いて、

「はぁ? やってみなさいよ? その前に、アンタの首ちょんぱするけど?」

 と、パク・ソユンも対抗するように、キレようとした。

 まあ、お前が悪いから、対向してキレるなよというところであるが。

 だが、その時、


 ――ド、ンッ――!!!!!



 と、突然に!! フロア全体に響き渡る、馬鹿デカい音が響いた!!

 音のほうを見るに、秘書の女が――!!

 まるで、恐ろしい怪力教師が私語する生徒たちに注目させるべく黒板を叩くがごとく――!!

 何ゆえかそこにあったポーカーテーブルを叩き割っていたのだ!!

「ひっ――!?」

 ドン・ヨンファが、思わず驚く。

 ただ、その傍らでは、

「……」

 と、パク・ソユンが無言で、「ん? 何か、あった?」と云わんかのように、ポカンとして振り向く姿があったが。

 そんなふたりに、

「人の話を――、聞いてますか……? 貴方たちは」

 と、秘書の女が、まるで、

 ――ゴゴ、ゴゴゴ……!!

 とでも迫るような、静かな怒気を込めて聞いてきた。


 そんな秘書の女に対し、

「うん。全然聞いてなかったー」

 パク・ソユンが、またしても、

 ――ホジ、ホジ……

 と、わざとらしく、鼻クソをほじってみせる。

 それを見て、秘書の女が言う。

「相変わらず、淑女とはほど遠く、はしたないかたですね……。――というより? わざと鼻をほじって、人を、小馬鹿にしているのですか?」

「うん、どうなんだろ? 小馬鹿にしているようで、小馬鹿にしてないかもしれないし、小馬鹿にしているのかもしれない、し……? ――ああ? ごめん。たぶん、若干、小馬鹿にしてる、かも」

 と、パク・ソユンは答えつつ、

 ――ピンッ――!!

 と、ここで本日2発目の、鼻クソを飛ばしてみせた。

 そこで、ついに、


 ――ブッ、ツンッ――!!


 と、秘書の女の、“何か”が音を立てるようにしてキレる。

「……」

 と、無言の秘書の女の顔から、目からは、完全に朗らかさが消える。

 そうして、

「ふぅ……、仕方、ないですね……。いずれにしても、貴方がたは、私どもの仲間になる気は、“無い”ということですか……」

「うん。ないないない。なるわけ、ないでしょ?」

 と、諦めながらの最終通告のように聞いてくる秘書の女に、パク・ソユンが、小馬鹿にするように答える。

「そう、ですか……」

 秘書の女が、その回答を受けとる。

 一呼吸おいて、

「――と、いうことです。理事長」

 と、ユスリ・タカリに伝える。

「ええ……」

 財団理事長のユスリ・タカリが、相変わらずの、肖像画のような目で頷いた。

 その、ユスリ・タカリは、

「それでは……、仕方が、ありませんね……」

 と、こんどは、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりのほうへと振り向く。

「ひッ――!?」

 ドン・ヨンファが、ビクッとし、

「……」

 と、パク・ソユンが無言で、ジッ……としながらも構える。

 前に対峙するのは、まだ肖像画というか蠟人形のような目のユスリタカリ。

 ――ゴゴ、ゴゴゴ……

 と、緊張感の高まる中――

 そして、


「……なら、力づくで、お前たちを変形させてもらう――!!」


 と、ついにここで!!

 ――カッ――!!

 と、目を大きく開いたユスリ・タカリが!!

 再び、ふたりに襲いかかる!!

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