4 すっごい、マグロ
そのように、【陰謀論】に対する話題に、話がそれながらも、
「しかし、ね……? 話を戻すとね、ヨンファ? この、【トランスヒューマニズム】的な思想というのが、今後の世界にかけて、力を持ちつつあるのは……、確かかも、しれないよ」
「ほう」
ふたりは、ふたたびコーヒーカップを手にして、
「その手法の中には、【外部から】――、例えば、ハリウッド映画にでもでてくるような、ハイパーメカニックな義手のような【ガジェット】を装着するんだけじゃなくてね……、それこそ、身体の【内部】に働きかけることで、【変化】、【変身】させるような発想の技術というのも、研究されていてね」
「身体の、内部に働きかけて、変化させる――、だって?」
「ああ……」
と、ドン・ヨンファが確認するように聞き、それに友人が答えようとした。
その時、
――カランコロン♪ カランコロン……♪
と、まるで不意打ちするかのように、電話の着信音が鳴った。
「うん……? ――えっ? ソユンから、か」
ドン・ヨンファは、着信の主を確認すると、パク・ソユンからだった。
「おっ? 恋人からか?」
「おいおい、」
と、茶化す友人に、ドン・ヨンファが「勘弁してくれよ」の顔をする。
「ソユンって、パク・ソユンだろ? あの、DJとモデルをやっている」
「そうだよ。まったく、何の用なんだい? いきなり」
ドン・ヨンファは友人に答えつつ、『やれやれ』と電話に出てやる。
「――ん? どしたんだい? ソユン?」
まず、そう聞くと、
『ねえ? 明後日、暇でしょ』
と、電話の向こうのパク・ソユンから、そう返って来た。
こちらの都合を聞くことなく、また、“はてなマーク”をつけた疑問形の心すらない。黙って、『うん』と答える以外の選択肢のない、無言の圧が込められた質問だ。
その返答の言葉を考えるより前に、パク・ソユンが続けて、
『もし、暇じゃなかったら、さ? 草刈り機で、アンタの首、狩るから』
「い、いやっ、ま、まだ、何も答えてないじゃないか……! ま、まあ、暇を作れるといえば作れるけど……」
物騒なことを言うパク・ソユンに、ドン・ヨンファが物怖じした様子で答え、
「それで? どんな要件、なんだい?」
『うん、何かさ? リゾートっぽい島の招待状、貰ってさ? たぶん、カジノとかがあるやつ』
「へぇー……。それで? 何て、ところなの?」
『さあ? 【Xパラダイス】って、いうらしいんだけど……、ヨンファ? 知ってる?』
「Ⅹパラダイス……?」
と、ドン・ヨンファが、首をかしげた。
見たことも、聞いたこともないリゾートの名だ。
『とりま、まあ、確定でいいわよね。予定変えたら、ほんとに草刈り機で四肢を落とすから――』
と、そこで、ガチャンッ――!! といわんかのように電話は切れた。
まあ、スマホだから、ガチャンと鳴るわけないのだが。
そうして、電話の切れたあと、
「……」
と、ドン・ヨンファは、突然の嵐に呆気にとられたように、ポカンとしていた。
そこへ、
「おっ? リゾートで、デートかい? いいねぇ」
「おいおい、良くは、ないよ」
と、茶化してくるカジに、ふたたびドン・ヨンファが『勘弁してくれよ』の顔をするも、
「またまた、そんなこと言っちゃって。ぶっちゃけ? “あっちの方”は、どうなんだ? ヨンファ」
と、追求の手を緩めてくることはなく、ふたりの、エッチのほうの事情を詮索してきた。
「どう――? って……」
ドン・ヨンファが、困惑気味の顔をしつつ、
「すっごい、マグロなんだよね、ソユン」
「マグ、ロ……?」
「ああ。むしろ、冷凍マグロっていってもいいくらいさ。あの、解体される前の、冷凍庫でキンキンに凍ったくらいの……」
「……」
と、強張った様子で語るドン・ヨンファに、先ほどまでチャラけてたカジの表情も、硬くなってくる。
そうして、ドン・ヨンファが思い出して話すところは、こうである――
******
――これは、すこし前のことになる。
高級マンションにある、パク・ソユンの部屋のこと。
ラグジュアリーな部屋には、某デザイナーのバッグを彷彿させる、【菱形タイル状のパターンで彩られた白いアート壁】。
“それ”を背景にして、【錆びついたチェーンソーと蔓バラ】という、およそ趣味は良くないオブジェが佇んでいた。
そんな、パク・ソユンの部屋のベッドにて、
「……」
と、裸のパク・ソユンが、ジトッ……とした目を――、まるで、冷凍庫の死んだ魚のような目をして、仰向けに横たわっていた。
いっぽう、
「……」
と、ドン・ヨンファのほうも、無言だった。
ただ、こちらの表情はというと、どこか引きつるように、強張ったものがあった。
そうして、“コト”を始める。
――ギコ、ギコ……
と、揺れるベッド。
だが、
「……」
「……」
と、まさに冷凍マグロというべきか――? まったく動かないし、反応もしないパク・ソユンであり、
…………、…………
と、沈黙する空気が漂った。
「ね、ねぇ……? 何か、反応してくれよ? ソユン」
ドン・ヨンファが、恐る恐る頼んでみる。
もしかすると、電動マッサージつきベッドが必要なくらい、マグロで何も反応がないパク・ソユンである。
それに対して、ドン・ヨンファが、コトを再開する。
すると、
――コト、コト……
と、動きに合わせて、
「あ、ふ……、あふ……、」
パク・ソユンが、死んだ魚の目のまま、声だけ出した。
「……」
ドン・ヨンファが、唖然として、ふたたび沈黙する。
こんどは、驚愕と虚無とが混じった表情で。
「き、気持ち、いいのかい?」
恐る恐る、ドン・ヨンファが聞くも、
「さ、あ……?」
と、答えるパク・ソユンだが、マグロ・モードはそのままに、挙句にはタブレット開き、いつものグロ動画を見ていた。
そんな、シュールなエッチは続きながら、
「あ、ふ……、あふ……」
「も、もっと、楽しそうにしようよ? ソユン?」
「う、ん……」
と、パク・ソユンは答えつつも、
「あ、ふ……、あ”、ふラ”〇ク……!」
「ちょっ――!? タンマ!!」
と、急に発せられた、某米国産の白鳥のように、ふざけたパク・ソユンに、ドン・ヨンファがガバッ――!! とたまげた。
「ん……? 何で? 笑かそうと思ったのに」
「いや、『楽しそうに』の、種類が違うって……、ソユン」
と、ナチュラルな顔で言ってくるパク・ソユンに、ドン・ヨンファは、どうしようもない顔でつっこむより他なかった。




