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【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第六章 立て直しと再対決

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39 気合太郎から、滾(たぎ)りの助へ、



          (3)




 ――そうして、のこと。

 パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりだが、身を隠していた状態をやめ、ふたたび表に出る決断をする。

 そのまま、ロビーのほうへ向かって歩きだす。

 歩きながら、 

「まあ……、ああだこうだ言っても、結局……、その、ユスリ・タカリたちと戦うより他、無いか――」

 と、何か振り返るように、ドン・ヨンファが言った。

 人智を超えたような、摩訶不思議な力を持つ者と戦わなければならないという、キリキリするような緊張。

 そして、それに陰鬱する気持ちが混じりながらも、この状況を打破するには、腹を括るより他にないわけである。


「まあ、ポーカーのトーナメントといっしょね。最終的に、生き残るためにこそ、前に踏み込み、リスクを取らないといけない……。安全にだけチップを取ろうとすると、かえって、チップを失う――、的な」

「そこで、ポーカーに例えるのかよ……。まあ、云わんとすることは、なんとなく分かるけど……」

 唐突に、ポーカーのトーナメントに例えてくるパク・ソユンに、ドン・ヨンファが答える。

「ちなみに、だいたいは、前に踏み込み過ぎて、たぎって飛びますた――、ってのが、“トナメあるある”なんだけど」

「うん。それ、やめてくれよな、ソユン」

 と、『滾って飛ぶ』とは、気持ちが熱くなりすぎて変なプレイをしてチップをすべて失ってしまいトーナメントから敗退する――、といった意味合いでよく使われる表現である。

 気合太郎から、たぎりの助へ、的な――

 そんな、戒めをしながら、


「しかし……、“形”、か――? 何、言ってんのよ? あの、ポンコツダヌキ」 


 ふと、パク・ソユンが、今ここにいない妖狐に対して文句を言った。

 その流れで、

「……」

 と、ジッ……と、自分の腕を見てみた。

 スラッ――と、伸びた前腕。

 同じく、長く、開いた五指。

“それ”は、世界に広がらんとするように開くものの、その大きさ、“形”からは、それ以上は、“変わる”ことはない。

 確かに、これは“与えられた形”であると同時に、我々人間というのは、この“形なるものに縛られている”ともいえる。

 まあ、このパク・ソユンに関していえば、異能力を使うことで、頭に浮かぶ様々な武具や拷問具、拘束具を具現化し……、多少なりとも、その、腕の形を変えたりすることはできるのであるが。


 しかし、

「う~、ん……?」

 と、その思い浮かんでくる形というのは、やはり、チェーンソーのように“何か形を切る系のもの”が多かったり……、あるいは、“何か拘束して締め付ける系のもの”が浮かんでくる。

 ゆえに、いくらグロ動画を見ることによって知見があるとはいえ、浮かんでくる“それらのアイテム”というのは、少しかたよりがあるといえる。

 ここで、振り返ってみよう――

 あの、ユスリ・タカリは攻撃を受ける際には、まず、その形を――、まるで自己的に切断するとでもいうべきか? 

 それどころか、“それら切断した自分の肉体片”というのを、まるで、CGアニメのように、多数のキューブへと、捉えどころもなく分裂する。

 まるで、ハチの群れ散るように、その“形”を霧散し、“無形”となることで、あらゆる攻撃というのが簡単には効かなくなるわけである。

 ゆえに、いま、自分の知見や想像の範囲内にある“形”では、“捕らえる”ことができない。

 いったい? どうやったら――? 

 この厄介な、ユスリ・タカリとやらを捕らえ、ダメージを与えることができるのか?

 そして、その、攻撃の“形”とは――?


「……」

 と、パク・ソユンは無言でジッ……と、もう一度、自分の“手のひら”を見てみた。

 ただの、“平面”――

 そこへ、

「どうしたん、だい……? ソユン?」

 と、様子の変化に気づいたのか? ドン・ヨンファが聞いてきた。

「は、ぁ、」

 パク・ソユンは、気の抜けた相槌をしながら、

「その、“アイツ”の――、ポンコツダヌキのいう“形”ってのを、さ? 考えて、みてみたのよ」

「あ、ああ……」

 と、曖昧に相槌するドン・ヨンファに、

「ねえ? この、“手のひら”ってさ? トポロジー的には、平面といっしょ――、なんだっけ……?」

 と、パク・ソユンが、まるで『お〇さんといっしょ』といっしょの語感で聞きながら、手のひらを見せてみた。

「ま、ま、あ……? そうじゃ、ないのかな?」 

 と、恐る恐る答えてやるドン・ヨンファに、

「――でも、さ? ドラえもんのポケットも、コーヒーカップも……、よくよく伸ばせば、トポロジー的には、いっしょなのよね?」

「いや、コーヒーカップは、取っ手がアウト。湯呑にしないと、いけないだろ? ちな、ドラえもんのポケットは知らない」

「あっ、そっかぁ……。あれ、四次元だもんね」

 などと、ふたりは『形』の話から数学の分野、トポロジーに派生させて話す。

 そのうちに、ラグジュアリーかつ荘厳な、ロビーへとたどり着いた。

 その時、



 ――ゆ、らぁっ……


「「――!?」」 

 と、目の前の空間に生じた気配に、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりは咄嗟に気がついて反応した。

 すなわち……

“そこ”には、ユスリ・タカリと秘書の女の姿が“あった”――

 それを見るなる、

「そっ!? ソユンッ――!」

 驚き慌てるドン・ヨンファと、

「……」

 と、パク・ソユンが相変わらずに無言で、ジトッ……とした目で、ユスリ・タカリたちを見る。


 両者、対峙する中、

「りっ、律儀にも……、ふ、不意打ちは、してこないんだね?」

 と、ドン・ヨンファが言った。

 その声には、動揺を、何とか抑えているのが分かりつつ。

 まあ、確かに、だいたい敵というのは、不意打ち的に攻撃を仕掛けてくるというのがセオリーでもある。

 ゆえに、そんな武士道というか騎士道的に現れたユスリタカリに、何か意図があるのかと、少し疑問にも思うのは無理もない。

 そんなドン・ヨンファの問いに、

 「ええ……。私どもは、あくまで紳士的に、やらせていただいておりますので」

 と、秘書の女が答えた。


 また続けて、

「さて? パク・ソユン様、ドン・ヨンファ様――、貴方がたも、私どもの仲間に、なってみませんか? あるいは、貴方がたも、他の客人たちと同じく……、その“形”を、“変えて”みませんか?」

 と、秘書の女は丁寧な様子で、まるで、『おもてなし』の選択肢でもするかのように尋ねてきた。

 その言葉尻には、

「けっこう、気持ちがいいとは、思いますよ――?」

 と、補足するように添えながら。

 そんな秘書の女の問いに

「はぁ、」

 パク・ソユンが、どこか、アホくさそうな様子で相槌し、

「き、気持ちがいい……、だって?」

 と、ドン・ヨンファがキョトンと、怪訝な顔をした。

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