37 神そうなヤツらはだいたい友達
なお、電話の向こうの光景はというと、こうである。
まるで、日本の北陸は加賀百万石の、金沢の誇る兼六園のようでありながら、かつ、雅で絢爛な夜の庭園。
その中に、某スパイ家族の嫁のような暗殺者風のドレス姿で、長く麗しい黒髪に狐耳の女の形をした者こそ、妖狐の神楽坂文であった。
鉄火巻きのようにドラ焼きを手にしながら、他の、“神そうなヤツらはだいたい友だち”の風貌をした者たちと、恐らく花札“賭博と思しきもの”に興じているところだった。
それはさておき、電話の向こうからこちら側へと場面は戻る。
妖狐の「殺す」と云うのが聞こえたのか、パク・ソユンがドン・ヨンファの電話のほうへと寄って、
「は? 殺すって、いきなり何なわけ? このタヌキ」
「ちょっ!? ソユン!」
と、ドン・ヨンファが慌てながらも、
「そ、その、タヌキさん……、ちょっと、僕たち相談があって、連絡したんだけど……、もし、何か、タヌキさんの気に障ることしてたら、謝るけど……」
『ふむ。そもそも、タヌキじゃなくて、キツネなのだがな』
「あ、ごめん、」
「いや、いいじゃん、別に、タヌキで。タヌキもキツネも、大差ないって」
「ちょっと、ソユンは、黙っててくれって」
と、本題を話そうとするのを邪魔するパク・ソユンを、言って遮る。
「はぁ?」
パク・ソユンが、また不機嫌な顔で眉を上げる。
まあ、これも、お前が悪いのだがという話なのだが。
そんなふたりに、こんどは、妖狐のほうから、
『――で? その、貴様たちが何のようなのだ? こちとら、賭博に負けている途中なのだぞ? 殺すぞ、コラ』
と、聞いてきた。
やはり、神そうなヤツらはだいたい友だちな面々とは、賭博に興じているところであった。
そして、なおかつ、負けているとのこと。
「は? だから、機嫌悪いわけなん? タヌキ? バカじゃん?」
「もう、やめっ、やめなって! ソユン!」
「はぁ、もういいわ。何かムカついたから、切るわよ? ヨンファ」
「ちょッ!? ちょっと待てって! ソユン!」
と、ドン・ヨンファは、無理やり電話を切ろうとするパク・ソユンを止めつつ、
「ご、ごめんよっ、タヌ――、キツネさん」
『貴様? さっきから、わざとやってないか?』
「い、いやっ! そ、そんなつもりは、ないって……! と、とりあえず、謝るから!」
『ふむ、まったくだ。それで? 要件は、何なのだ?』
「あ、ああ……、その……、話すと……、変な話、なんだけ、ど――」
『変な話、とな――?』
(2)
そうしてのこと――
パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりだが、ひととおりのことを、妖狐の神楽坂文に説明した。
『――それで、今の、この状況なんだな? カスども』
「ああ、そういうわけだ」
妖狐の言葉に、ドン・ヨンファが頷いた。
その傍ら、
「は? 誰がカスなわけ? タヌキ」
と、パク・ソユンが、カス呼ばわりに苛つく。
いまは、それをスルーして、
『まあ、状況をどうにかするためには、貴様たちの云うとおり――、その、ユスリ・タカリとやらを倒すより他には、無いだろうな』
「やっぱ、そうなのか……」
ドン・ヨンファが、まいった様子で言う。
そのまま、
「う、う~ん……」
と、少し考えつつ、
「じゃあ? キツネさん、来てくれないかい?」
と、妖狐に聞いてみた。
すると、
「は? こっちに呼ぶわけ? このタヌキ」
「だって、僕たちだけで、さすがに厳しくないかい? あの、ユスリ・タカリたちと、戦うの?」
「いや、ドラえもんみたいに、さ? 妖具、だっけ――? それ、借りるだけでいいじゃん?」
と、ドン・ヨンファの提案に、パク・ソユンが露骨に嫌そうな顔する。
なお、妖狐をちゃっかりドラえもん呼ばわりするなど、ほぼ“ドラえもんみたいなナニカ”扱いで確定であった。
そうしていると、
『そうだ、な……?』
と、電話越しの、妖狐が口をひらいた。
「え? 来てくれるのかい?」
「は? いいって、来なくて」
嫌そうな顔のパク・ソユンの横、ドン・ヨンファが一瞬、期待する。
そんな、締まりの無い間を置きながら、
『……だが、断る』
「へっ――?」
と、妖狐から返された使い古されたマンガの文言に、ドン・ヨンファが、間の抜けた様子でポカンとする。
その横から、
「は? ちょっと? もう、切るわよ。こんなタヌキ」
「ちょっ!? 待って! 待って、って! ソユン!」
と、イラついて無理くり電話を切ろうとしてくるパク・ソユンに、ドン・ヨンファが慌てると、
『――まあ、行こうにも、行けないというのが、本当のところだ……。締まりの無いカスども』
「へ? 行こうにも、行けない――、って?」
『ふむ。貴様たちも、まあ、知っているとは思うが……、我が妖力、貴様たちの世界のほうでは、リボ払い式に減耗する設定でな』
「ああ。何か、そういうの、あったよね」
妖狐の言葉に、ドン・ヨンファがピンとくる。
まあ、そのとおりである。
この、妖狐の神楽坂文であるが、潜在的にはけっこうチートクラスの妖力を持っている。
しかし、こちらの世界側では、その妖力というのが大きく減少したり、あるいは、著しく速いスピードで消耗したりするのである。
まあ、そんな設定の、“ドラえもんみたいなナニカ”のような存在と思っていただければよろしいか、と。
それはさておき、妖狐は続ける。
『だから、いま、こうして妖力を回復させているのだが……、さっき、賭博で負けたぶんで、さらに減ってしまってな』
「「いや、それ、やめればいいんじゃない」」
と、ドン・ヨンファとパク・ソユンのふたりが、ここだけは、息が合ってつっこんだ。




