32 ピザの単語を聞いてテンションあがる女
また、キム・テヤンが、
「――で? 話を戻すと、だ……、Xパラダイスに関するあらゆる情報ってのが、ドラえもんの道具でも使ったみてぇに、“無い”わけなんだな」
「ええ……。ドラえもんの例えは置いても、“何者か”が――、少なくとも、自分たちや米国の情報機関……、もっと言えば、“国家の力を超えたようなナニカ”が働いて、あらゆる情報を消し去ったように思えるわ」
「国家の力を超えたナニカ、か……」
と、グラスを手にして呟きつつ、薄暗い天井を仰いだ。
なお、呟くついでに、タバコの煙でも添えたかったのだが、あいにくタバコは切らしているのか、手にしていなかったが。
また、天井のほうを向いていたキム・テヤンが、顔を降ろして、
「ちなみに、だが……、ワンチャン、お前たち情報部が、“それ”に加担している可能性も、無きにしも非ずか?」
「何それ? 陰謀論――、みたいな話?」
と、ドクターペッパーを口につけてた女が反応して、
「ああ……。半分、冗談だ。映画とかマンガでもあるだろ? 実は、黒幕は、“陰謀者”は身近に――、ってのが」
「半分も、かよ? もっと、四分の一とか、八分の一とか程度の冗談にしとけよ」
「けっ……、何だ? 八分の一って? ピザじゃあるめぇしよ」
「あっ? ピザ、いいわね。ドクターペッパーとも合いそうじゃない。今から、注文してよ、テヤン」
「ああ”? こんな時間こんなとこに、デリバリーしてくれるピザ屋があんのかよ?」
と、ピザの単語を聞いてテンションあがる女に、キム・テヤンがつっこみつつ、
「――というより、何よ? 私たちのことを、悪の組織みたいな冗談を言って」
「フン。そっちのほうが、敵と味方が分かりやす過ぎるよりも、エンターテインメントとしても面白れぇだろ? 実は、黒幕や陰謀者ってのは、もっと身近にいるって感じのが――」
「陰謀者、ねぇ……」
と、キム・テヤンの言葉に、男が呟いた。
情報部という、それなりに世界の裏筋が見える世界にいればこそ、陰謀論だったり、陰謀者といった言葉は、まったくの馬鹿げたものとして切り捨てることはできなかった。
男が、黒い液体が空になったカップを置きつつ、
「ちなみに、だが……、お前は、心配してやってるのか? あの、パク・ソユンと……、その、黄色いスーツの青二才、だったか……? そのふたりに、万が一のことが無いか、を?」
「けっ……、別に、あいつらの心配なんかしてねぇよ」
キム・テヤンは舌打ちしつつ、顔をしかめる。
一呼吸、間を置いて
「まあ、“ない”とは思うが……、もし、万が一のことがあれば――」
と、キム・テヤンの言葉に、
「……」
「……」
と、ふたりの視線が集まる中、
「“あいつら”自身の手で……、何とか、してもらうしかねぇな――」
と、ふたたび一呼吸おいて、タバコの煙を吐き出すように言った。
また同じく、少し間をあけて、
「何? そのふたりに対して“何か”してやるから、私たちのところに、来たんじゃないの?」
と、女が聞いた。
「ああ”? 最初は、な? まあ、あの、ふざけたヤツらでもよぅ、可哀そうだから何かしてやろうと思ったが、めんどくさくなっちまってな」
「めんどくさくなった、ってな……」
と、男が呆れる。
「まあ、別にいいじゃねぇか? あいつらには、それくらいで上等よ。それに、ヤツらも、そこそこの異能力者だからな? 万が一のことがあっても、てめぇらで何とかするだろ」
「まあ、あのふたりが異能力者なのは、分かるが……」
「――っていうことは、何? 私たちにした相談は、意味が無かったってこと? ほんとに、バーのかわりに、お酒を飲みに来ただけってことなの?」
「おうよ! お前らにも、そんで上等だろ? どうせ、暇してたんだろ」
(2)
場面は、変わって――
時間は、前後してのこと。
その、ふざけたヤツらこと、パク・ソユンとドン・ヨンファのふたりであるが、X財団理事長のユスリ・タカリと対決していた。
――グワ、シッ――!!
と、ユスリ・タカリから、“何か握らんとするかのような手”を向けられたパク・ソユンであるが、
「――!!」
と、咄嗟に反応する!!
それは、
――グワンッ――!!
と、“何か見えない超能力か念力のたぐいのような力”でも伝わっているのか――!!
「ぐっ――!?」
と、腕が捩じられるような力を感じつつも、その同時!!
「そッ!? ソユンッ――!!」
と、驚くドン・ヨンファを
――ガバァッ!!
と、電光石火の動作で抱えるつつ、
――スタァッ――!!
と、横に大きく跳躍するような形で回避する!!
それは、咄嗟の回避であったため、
――ズザザァッ……!!
と、ドン・ヨンファを抱えたパク・ソユンであるが、やや無様な形で転がってしまう。
「う、ぐぅっ……!!」
ドン・ヨンファが、情けなく呻くような声を出す。
それを、
――グィッ!!
と、つかんで直ちに起き上がらせる。
「うぉッ!?」
いちいち声を出すドン・ヨンファの横で、
「……」
と、パク・ソユンは、“眼前の空間”を見た――
赤いリボンを胸につけたスーツ姿で、怪しくも、宙に浮いているユスリ・タカリの姿。
そのユスリ・タカリも、
「……」
と、まるで、肖像画を3Ⅾにでもしたような目で、こちらをジッ……と見ていた。




