29 なんてことを……
そうして――
制止された状態で、また、パク・ソユンが聞く。
「まあ、それは置いといて、さ? ――で? その、“トランス何とか”って、ので? 招待客たちを、あの、“変なの”に変えたってわけ?」
「ええ……。そのとおりで、ございます……」
秘書の女が、ゆるりと答える。
そのまま、続けるに、
「我々、人類が……、“設計者たち”によって課せられた制約から、解放されるために、ですね……、その、“形を変えるということ”も……、ときに必要なことだ、と――」
「……」
「……」
いったん、少しの沈黙を挟んで、
「……私どもの財団は、そう、考えております」
と、女が結んだ。
ここで、ドン・ヨンファが間にはいって、
「そ、そうすると……? 招待客たちが、あんな姿に変えられたのは……、その、実験のためだった――、ってことかい?」
「はい。仰るとおりで、ございます。ドン・ヨンファ、様――」
「な、なんてことを……」
と、単刀直入な質問に対しての簡潔すぎる回答に、思わず絶句した。
また、そこへ、
「はぁ、それで――? その実験ってのが、トランス何とかってのの、何に役に立つわけ?」
と、パク・ソユンも質問をした。
秘書の女が、それに答える。
「お答えしましょうか、パク・ソユン様――」
「はぁ、」
「この、我が財団の、トランスヒューマニズムに関する技術というのは、まだ未熟な段階でございまして……、今回のような“形”になってしまうのは、残念ではありますが……、いたって、仕方のないことでもあります」
「仕方がないって、さ……? まあ、別に、招待客たちと仲良いわけじゃないんだけど、さ? いちおう、今度、ポーカーに行こうって話してた子たちも、いるんだけど?」
と、パク・ソユンが言う。
表情を変えないながらも、その言葉には、若干ながら、感情が入っているようなトーンにも聞こえる。
そんな、パク・ソユンの問いに、
「あ、あ……? “そちら”に関しては……、心配しなくても、大丈夫ですよ。パク・ソユン様」
と、秘書の女が答える。
そこへ、
「し、心配しなくて良いというのは……? 彼らを、元に戻すことが、できるっていうことかい?」
と、ドン・ヨンファが反応する。
まあ、「大丈夫だ」と聞けば、そのように反応するのは、当然といえば当然のことだろう。
しかし、案の定、
「――いえ。それは、できません」
「――!?」
と、秘書の女の口から出てきたのは“期待を裏切る答え”で、ドン・ヨンファは目を見開いた。
ただ、その隣のパク・ソユンであるが、その回答をすでに予想していたのか、
「……」
と、静かに、無言で見ていた。
また、秘書の女は話す。
「形を、戻すことはできませんが……、変形させる前の、彼らの、脳の状態というか情報――、その人格といったり、意志というべきものでしょうか――? “それらの情報”といいますのは、すべて、“私ども”の中に“トレース”しておりますので……、どうぞ、ご安心くださいませ」
「――!?」
「……」
と、秘書の女の言葉に、ドン・ヨンファとパク・ソユンが先ほどと同じような反応をする。
「ト、トレースだって……?」
ドン・ヨンファが、ポカンとした様子で聞く。
まあ、『トレース』という言葉自体は、様々な分野で用いられており、何となくの言いたいことは想像つくのだが。
なお、今回のパク・ソユンは、
「……」
と、変わらずに無言のままであり、「何それ美味しいの?」などと、余計なことは聞かなかったが……
それはさておき、秘書の女は話を再開する。
「――ですので、招待された皆様は、貴方がたの想像するところの、“殺された”というわけではありませんので……、そこは、ご安心ください」
「いや、でも? その形は、戻らないんだよね?」
再び、ドン・ヨンファが聞く。
「ええ……。先ほど、申しましたとおり……、そちらに関しては、残念ですが……」
秘書の女が、答える。
また、ここで、パク・ソユンが、
「――で? ちなみに、さ? その、招待客たちの形を変えたのって、どんな力で、やったわけ? もしかして、あの、『Ⅹ』とかいうワインで?」
「いえ。ワインでは、ないですね……。あれは、純粋に、私どもからのサービスでございます」
秘書の女は、まず、そう答える。
まあ、ワインだとすると、飲まない人もいるだろう。
ゆえに、飲まなかった人間が、“変形”せずに残っているはずである。
しかし、ここまで来るに、自分たちや財団の者を除いて、恐らく全ての招待客たちが、あの“筒人間”などに姿を変えてしまっているわけである。
そうすると、
「じゃあ? どんな力なわけ?」
と当然、パク・ソユンが、改めて聞く。
ただ、この質問に対しては、
「さ、あ……? そちらに関しては、企業秘密――と、させていただきましょうか? そちらのほうが、面白いかもしれませんし、ね……?」
「はぁ、」
と、秘書の女は答えてくれずに、モヤモヤさせるようなものだった。
もしかすると、秘書の女はパク・ソユンに対して、やや挑発するような意図も込めているのかもしれない。
そのパク・ソユンが、
「それで、さ? さっきから、アンタばっか、喋ってるけど? そっちの、ソフトなМ字ハゲっての――? そのМ字ハゲの男は、何か、喋んないわけ?」
と、こんどは秘書の女のそばの、理事長のユスリ・タカリのほうを指して聞いた。
「ちょっ――!? そ、ソユンッ!?」
ここで、ドン・ヨンファが、完全にたまげた声をあげた。
「いや、だって、そのまんま言っただけじゃん。……だし、このふたりに、別に、気遣うことなんかないじゃん」
「そ、そうだけどッ……、君は、わざわざ喧嘩を売るようなこと言いすぎだって!!」
「だから、さっきから言ってんじゃん? 喧嘩売るようなこと言ってるけど、喧嘩売ってないかもしれないし、売ってるかもしれないって。これは、一種の、ポラライズなのよ」
「もうそれはいいって!! 頼むからッ!! もう少し真面目にッ、緊張感持ってくれって!!」
締まりなくふざけるパク・ソユンに、さすがのドン・ヨンファも、そろそろいい加減にしとけと叫ぶ。




