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【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第四章 調べにかかる

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27 なおかつ、可変翼というスタイリッシュな戦闘機


 そのようにしながらも、ふたりは進んでいく。

 すると、“とあるもの”――が、目に入ってきた。


「――う、ん?」


 まず、ドン・ヨンファが、“それ”に反応をした。

 続けて、

「……」

 と、パク・ソユンも、無言で目を向ける。

 そこには、

 ――ゴゴ、ゴ……

 と、薄暗い中に佇む、全長が20メートルほどありそうな、“それなりの存在感”のある物。

 それを見て、

「これは……、戦、闘機――?」

 ドン・ヨンファが、確認するように聞いた。

「そう、なんじゃ、ない?」

 パク・ソユンが、ゆるりと答えた。


 ふたりが、姿を確認した先――

 そこにあったのは、確かに、“戦闘機”であった。

 少し古い世代と思しき、無骨さを感じさせる筒状のボディー。

 ただ、その先端はミサイルのように、シュ、ピィンッ――! と尖ったフォルム。

 そして、なおかつ、可変翼というスタイリッシュな戦闘機。

 すなわち、旧ソビエト連邦の、ミグ23戦闘機であった。

 そこそこの性能の機体であるとされ、未だに北朝鮮では使用されているとかいないとかの話がある。

 なお、過去に、この機体が関わった“忌まわしい事件”も、あったがのであるが……


 その事件のことはさておき、ここに展示(?)されている、ミグ23について再び注目する。

 本来は、軍用機であるものの、ここに置かれている機体はというと、赤と白のチェック柄と――、まるで、美術的な装いでカラーリングされていた。

 そして、さらには、色とりどりの豪奢なフラワーアレンジメントを施され、美しく展示されていた。

「戦闘機、だよね……? しかも、北のほうの……、昔の、冷戦時代の、東側の―

―」

 ドン・ヨンファが聞き、

「さ、あ……? でも、何か、それっぽいね。ゲームの解説動画とかで、チラッとみたことあるような気がするし」

 と、パク・ソユンが答える。

 ゲームもする、DJ兼モデルのパク・ソユンである。

 ゆえに、軍事系のゲームもプレイすることから、戦闘機などに関しても、“何か見たことある程度”の知見は持っているのだろう。


 それで、また、ドン・ヨンファが、

「と、いうか……? 何で? こんな戦闘機が、あるんだろ?」

 と、当然の疑問を言葉にした。

「さあ? ここの、オーナー? 主催者だっけ――? が、ミリタリーものとか、好きなんじゃない? 戦闘機、とかの」

「まあ、そうかもしれないけど……。北のほうが、所有している機体だから、ね。やはり、主催者たちは、北のほうの人間、組織なの、か――? もしくは、北とつながりがある、のか……?」

「何? 北のほうの機体が、あるからって、こと?」

「まあ、単純に考えると、だけど……。まあ、北以外の東側の国でも使用していただろうし……、こういった古い機体を入手することも、そんなに難しくないだろうから、さ? 単に、東側の機体が、好きなだけかもしれないけどね……」

 と、ドン・ヨンファは言葉にしながら、あれこれ考えを巡らす。

 まあ確かに、旧東側の機体が好きな人たちというのは世に少なからず存在する。

 その財力や熱意などを以って、どこかしらからか、このミグ23やミグ21などの機体を入手し、プライベートで飛ばす者さえいるくらいである。

 それはさておき、


「それにしても……、何か、美しく感じるな」


 ふと、ドン・ヨンファが、何かに魅了されるような様子で言った。

「は、ぁ、」

 パク・ソユンが、遅ればせに相槌した。

 まあ、自国とは敵対している側に該当する、どちらかというと、忌まわしくもある機体である。

 だが、そういった事情はあっても、機体そのものに、“そういった美的なナニカ”を感じたのかもしれない。

 また、あるいは、装飾を含めた展示全体の雰囲気に、そのように感じたのかもしれない。 


「昔の、無骨そうな機体なんだけど、さ――? その当時の、持てる技術をつめこんだ、その……、機能的な美しさ、って言うのかな? 何か、そんなものを、感じる気がするな」

 ドン・ヨンファが、感想を述べる。

 それを受けて、

「筒の中に、ジェットエンジンを入れて、翼をつけて……、それで、限られたスペースに可変翼機構や、車輪の格納、できるだけ高性能のレーダーと――、“設計思想”こそ違うけど、“人体と同じく精巧に創られたもの”だからこそ、何か神秘的な、美的なものを感じる――、ってわけ?」

「そっ、そうだよ! よく、分かってるじゃん、ソユン」 

「うん。だから、解説動画見たっていったじゃん」

 と、感心して少しテンションあがるドン・ヨンファに、パク・ソユンがドヤるように言った。


 また、そのドン・ヨンファは、

「しかし、筒、か……」

 と、改めて機体を、円錐状の先端から眺めた。

 筒、および、管――

 その“形”に、何かを得たようにして、ドン・ヨンファが、

「最初、おおよそ生物というのは、筒というか管といった、単純な形から始まった――」

「……」

 と、パク・ソユンが、無言で聞いてやりつつ、

「そこから、複雑な形を得るとともに、管には臓器といったものが付属していき……、また、その“管”は、肉体という“筒”で包まれたわけだ……」

「……」

「そうして……、進化が進んだ先に、この、“ヒトという形”が与えられた。それは、確かに、精緻かつ奇跡的な確率の“設計劇”――と、いうべきだろう」


「ああ? 何か、バラバラになった時計の部品を入れたプールをかき混ぜて、元の時計が出来上がる確率とか、あったね? これって、どんな確率なん?」

「さあ? けっこうな確率、なんじゃないか?」

「ポーカーで、ロイヤルを何回か連続で出したり……、バカラで、アメリカの国家予算並みに増やすとか、そんな感じ?」

「何だよ? その、バカラの例え……。国家予算か、無一文になるかを、あのプレイヤーとバンカーの二択に賭けるの、ヤバくないかい? てか、そもそも、どんな胴元だよ?」

 と、ドン・ヨンファはつっこみながら、

「まあ、それは、置いておき……、そうであるから、ヒトの形をして、『神の形を模して造られた』なんて、古来の宗教とかで言われるのも……、納得のいく話なのかもしれないね」

「うん、そうね」

 と、パク・ソユンが適当な相槌をして、締まりのない話をいったん締める。

 そうして、ふたりが進んでいった。

 その時、


「――さすがで、ございます。ドン・ヨンファ様、パク・ソユン様」


 と、突然に――、どこからか声がした。

 その声に、

「ん、ん――?」

 まず、パク・ソユンが気配を感じ、

「……へ?」

 と、ドン・ヨンファも続いて、その“声の主”に気がついた。

 そこには、

 ――ス、ラッ――

 と、例の半分ドレッド風の、風変わりな髪型の秘書の女がスタイリッシュに立って佇んでいた、

「――“筒”という“ヒント”から、“形”に関して、そのような考察を為さってくださるとは……、さすがで、ございます」

 秘書の女が言った。

 その横には、

 ――ゆ、らっ……

 と、こちらはソフトな坊主頭の、共産エリートのような赤い飾りをしたスーツ姿の男―― 

「……」

 と、無言で、ジッ……と、肖像画のような目でこちらを見る、Ⅹ財団理事長こと、ユスリ・タカリの姿があった。

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