27 なおかつ、可変翼というスタイリッシュな戦闘機
そのようにしながらも、ふたりは進んでいく。
すると、“とあるもの”――が、目に入ってきた。
「――う、ん?」
まず、ドン・ヨンファが、“それ”に反応をした。
続けて、
「……」
と、パク・ソユンも、無言で目を向ける。
そこには、
――ゴゴ、ゴ……
と、薄暗い中に佇む、全長が20メートルほどありそうな、“それなりの存在感”のある物。
それを見て、
「これは……、戦、闘機――?」
ドン・ヨンファが、確認するように聞いた。
「そう、なんじゃ、ない?」
パク・ソユンが、ゆるりと答えた。
ふたりが、姿を確認した先――
そこにあったのは、確かに、“戦闘機”であった。
少し古い世代と思しき、無骨さを感じさせる筒状のボディー。
ただ、その先端はミサイルのように、シュ、ピィンッ――! と尖ったフォルム。
そして、なおかつ、可変翼というスタイリッシュな戦闘機。
すなわち、旧ソビエト連邦の、ミグ23戦闘機であった。
そこそこの性能の機体であるとされ、未だに北朝鮮では使用されているとかいないとかの話がある。
なお、過去に、この機体が関わった“忌まわしい事件”も、あったがのであるが……
その事件のことはさておき、ここに展示(?)されている、ミグ23について再び注目する。
本来は、軍用機であるものの、ここに置かれている機体はというと、赤と白のチェック柄と――、まるで、美術的な装いでカラーリングされていた。
そして、さらには、色とりどりの豪奢なフラワーアレンジメントを施され、美しく展示されていた。
「戦闘機、だよね……? しかも、北のほうの……、昔の、冷戦時代の、東側の―
―」
ドン・ヨンファが聞き、
「さ、あ……? でも、何か、それっぽいね。ゲームの解説動画とかで、チラッとみたことあるような気がするし」
と、パク・ソユンが答える。
ゲームもする、DJ兼モデルのパク・ソユンである。
ゆえに、軍事系のゲームもプレイすることから、戦闘機などに関しても、“何か見たことある程度”の知見は持っているのだろう。
それで、また、ドン・ヨンファが、
「と、いうか……? 何で? こんな戦闘機が、あるんだろ?」
と、当然の疑問を言葉にした。
「さあ? ここの、オーナー? 主催者だっけ――? が、ミリタリーものとか、好きなんじゃない? 戦闘機、とかの」
「まあ、そうかもしれないけど……。北のほうが、所有している機体だから、ね。やはり、主催者たちは、北のほうの人間、組織なの、か――? もしくは、北とつながりがある、のか……?」
「何? 北のほうの機体が、あるからって、こと?」
「まあ、単純に考えると、だけど……。まあ、北以外の東側の国でも使用していただろうし……、こういった古い機体を入手することも、そんなに難しくないだろうから、さ? 単に、東側の機体が、好きなだけかもしれないけどね……」
と、ドン・ヨンファは言葉にしながら、あれこれ考えを巡らす。
まあ確かに、旧東側の機体が好きな人たちというのは世に少なからず存在する。
その財力や熱意などを以って、どこかしらからか、このミグ23やミグ21などの機体を入手し、プライベートで飛ばす者さえいるくらいである。
それはさておき、
「それにしても……、何か、美しく感じるな」
ふと、ドン・ヨンファが、何かに魅了されるような様子で言った。
「は、ぁ、」
パク・ソユンが、遅ればせに相槌した。
まあ、自国とは敵対している側に該当する、どちらかというと、忌まわしくもある機体である。
だが、そういった事情はあっても、機体そのものに、“そういった美的なナニカ”を感じたのかもしれない。
また、あるいは、装飾を含めた展示全体の雰囲気に、そのように感じたのかもしれない。
「昔の、無骨そうな機体なんだけど、さ――? その当時の、持てる技術をつめこんだ、その……、機能的な美しさ、って言うのかな? 何か、そんなものを、感じる気がするな」
ドン・ヨンファが、感想を述べる。
それを受けて、
「筒の中に、ジェットエンジンを入れて、翼をつけて……、それで、限られたスペースに可変翼機構や、車輪の格納、できるだけ高性能のレーダーと――、“設計思想”こそ違うけど、“人体と同じく精巧に創られたもの”だからこそ、何か神秘的な、美的なものを感じる――、ってわけ?」
「そっ、そうだよ! よく、分かってるじゃん、ソユン」
「うん。だから、解説動画見たっていったじゃん」
と、感心して少しテンションあがるドン・ヨンファに、パク・ソユンがドヤるように言った。
また、そのドン・ヨンファは、
「しかし、筒、か……」
と、改めて機体を、円錐状の先端から眺めた。
筒、および、管――
その“形”に、何かを得たようにして、ドン・ヨンファが、
「最初、おおよそ生物というのは、筒というか管といった、単純な形から始まった――」
「……」
と、パク・ソユンが、無言で聞いてやりつつ、
「そこから、複雑な形を得るとともに、管には臓器といったものが付属していき……、また、その“管”は、肉体という“筒”で包まれたわけだ……」
「……」
「そうして……、進化が進んだ先に、この、“ヒトという形”が与えられた。それは、確かに、精緻かつ奇跡的な確率の“設計劇”――と、いうべきだろう」
「ああ? 何か、バラバラになった時計の部品を入れたプールをかき混ぜて、元の時計が出来上がる確率とか、あったね? これって、どんな確率なん?」
「さあ? けっこうな確率、なんじゃないか?」
「ポーカーで、ロイヤルを何回か連続で出したり……、バカラで、アメリカの国家予算並みに増やすとか、そんな感じ?」
「何だよ? その、バカラの例え……。国家予算か、無一文になるかを、あのプレイヤーとバンカーの二択に賭けるの、ヤバくないかい? てか、そもそも、どんな胴元だよ?」
と、ドン・ヨンファはつっこみながら、
「まあ、それは、置いておき……、そうであるから、ヒトの形をして、『神の形を模して造られた』なんて、古来の宗教とかで言われるのも……、納得のいく話なのかもしれないね」
「うん、そうね」
と、パク・ソユンが適当な相槌をして、締まりのない話をいったん締める。
そうして、ふたりが進んでいった。
その時、
「――さすがで、ございます。ドン・ヨンファ様、パク・ソユン様」
と、突然に――、どこからか声がした。
その声に、
「ん、ん――?」
まず、パク・ソユンが気配を感じ、
「……へ?」
と、ドン・ヨンファも続いて、その“声の主”に気がついた。
そこには、
――ス、ラッ――
と、例の半分ドレッド風の、風変わりな髪型の秘書の女がスタイリッシュに立って佇んでいた、
「――“筒”という“ヒント”から、“形”に関して、そのような考察を為さってくださるとは……、さすがで、ございます」
秘書の女が言った。
その横には、
――ゆ、らっ……
と、こちらはソフトな坊主頭の、共産エリートのような赤い飾りをしたスーツ姿の男――
「……」
と、無言で、ジッ……と、肖像画のような目でこちらを見る、Ⅹ財団理事長こと、ユスリ・タカリの姿があった。




