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【トランス島奇譚】  作者: 石田ヨネ
第一章 Xパラダイス

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2 【ギンピギンピ】――、食べることはできない。ただし、現地のワラビーなどの有袋類や、哺乳類ヒト科、DJ兼モデルのパク・ソユンを除く



          (2)




 ――ジュワ、ワァァッ……!!


 と、鉄板の音とともに、食欲とアルコールを誘う匂いが漂った。

 キンパやチジミ、トッポギはもちろんのこと、エビや貝などの海鮮もの、それからオデンなどと、さまざまに愉しめる。

 そんな、夜の、ソウル市内の屋台街のこと、



「――何? 【島】へ、行ってくるだと?」



 と、チジミを焼く姿が板についた屋台のオッサンこと、キム・テヤンが聞いた先――

 そこあったのは、でっかいパール付きカチューシャを頭にのっけた、パク・ソユンの姿だった。

「うん」

 と、パク・ソユンが、焼酎の入ったグラスに淡々と口をつけ、答える。

 また、

「しかも、この、軟弱野郎とか?」

 と、キム・テヤンが、こんどはドン・ヨンファを指しながら、

「軟弱野郎って、ひどい言い方するなぁ、テヤン」

「けっ、何が、『ひどい言い方するなぁ~』だってんだよ、このタコ!」

 などと、つっついてみせた。

 そんな彼らをよそに、

「それで? その【島】は、何ていう、島なのかい?」

 と、丸サングラスをかけた、スーツに蝶ネクタイ姿の小太りの男、カン・ロウンが聞いてきた。

 ちなみに、このカン・ロウンだが、この四人のリーダー格でもある。

 それで、このグループは何の集まりかというと、【SPY探偵団】などという、それぞれが【サイボーグ的な異能力】を持ったメンバーによる、兼業探偵サークルというか同好会という。

 パク・ソユンは先に述べたように、【SAW】との芸名でモデルやDJ活動をしており、ドン・ヨンファは貴族というか財閥の実業家、キム・テヤンは元諜報関係で働いていたというプロフィールをもつ。

 また、さらに、それぞれコードネーム的なものがある。

 リーダのカン・ロウンが、【スタイル】。

 パク・ソユンが、芸名と某グロ映画に由来して、【ジグソウ・プリンセス】。

 ドン・ヨンファが、【フラワーマン】。

 最後に、キム・テヤンが【チジミ屋のオッサン】と、そのまんまである。

 そして、このコードネームというのは、たぶんあまり意味がない。

 何か、“いちおう、それっぽい雰囲気を出す程度のもの”だろう。

 それはさておき、本題にもどる。

 カン・ロウンの問いに、

「――うん。何か、島の名前は知らないんだけど、さ? 【Ⅹパラダイス】ってとこに、招待されて、」

 と、パク・ソユンが答えると、


「「X、パラダイス――?」」

 

 カン・ロウンとキム・テヤンが、すこし怪訝な顔しながら、声をそろえた。

「何か、新しくできた、カジノとか、エンターテインメント・リゾートみたいなんだけど」

 パク・ソユンが答えながら、スマホ画面を開き、資料を見せる。

 そこにあるのは、QRコードに、その【Xパラダイス】なる複合リゾートとイベントの内容。

 ただ、それらのページの背景の画像には、何故にか――? レオナルド・ダビンチの作品や素描、そして、竹でできた、【何か螺旋の形をしたオブジェ】のようなものが、ゆるり……と、回転していた。

 しばらく見ていると、

 ――ぐ、にゃぁぁ……

 と、視界が、幻惑的に歪んできそうな、どこか不気味な感じがあったのだが……

「何だ? こりゃ?」

 キム・テヤンが、顔をしかめた。

 パク・ソユンが、【それ】を“貰った”のは、つい、今日のこと。

 また、すこし時間を戻して、こんどは“そのこと”に関して振りかえる――



          ******



 ――振りかえって、昼のこと。

 DJ・SAWこと、パク・ソユンだが、高層階からのダイナミックなソウル市内の眺めが映えるガラス張りのスタジオにて、DJ動画の撮影、配信を終えていた。

 そこへ、事務所の人間から声がかかる。

「ねえねえ、ソウ? 何か? 君に、こんなものが、届いたんだけど?」

 と言ったのは、まるで、水泳のゴーグルのようなサングラスをかけた短髪のシャツ姿の男――通称、ゴーグル・サングラスが、タブレットの画面を見せてきた。

「へ――? 何? これ?」 

 パク・ソユンが、ジトッとした目は相変わらずに、キョトンとした。


 また、そこへ、ゴーグル・サングラスの仲間の女も加わって、

「何か、前も、【変な招待状】、届いてたよね?」

「そうそう。“君たち”が、解決に一役買ったみたいだけど」

「あ、あ……? 何か? 確か、“そんなこと”も、あったねー」

 と、パク・ソユンは二人の言葉に、すこし時間がかかりながらも、“とあること”を思い出した。

 それは、さしづめ、【毒茶会】といった事件か――?

 狂人的な財閥令嬢の主催者が、招待状を――、いな、その実は、拉致によって客人を強引に“招いた”【茶会】。

 そこでは、毒劇物や【ギンピギンピ】などといった激痛をもたらす凶悪な植物を用い、【茶】と称して振る舞うなどという、狂気的な犯罪行為を行っていたのだ。

 そして、この事件の解決に奔走したのが、このパク・ソユンとSPY探偵団だった。

 なお、その際に、パク・ソユンは友人、仕事仲間を人質を取られてしまったことにより、茶会へと強制的に連行されてしまうことになるのだが、そこで、チェーンソーで手首を切り落とされたり、ギンピギンピやら硫酸やら飲まされるなどの、凄惨な拷問を受けることになる。

 そうして、命の危険すらあったのだが、SPY探偵団と協力関係にあった【妖狐】の力を借りることで助命され、最終的には、事件の解決まで至ったわけである。


「ちなみに? その、茶会事件を解決したときに、ギンピギンピを喰える体質になったんだって? ソウ?」 

「うん。うちに、漬物、あるし」

「「【漬物】――!?」」

 ケロッと答えたパク・ソユンに、ゴーグル・サングラスたちは驚愕した。

 まあ、これは異能力者による部分も大きいのだろうが、事件をとおして、毒劇物や猛毒植物に対する耐性を身につけたのだろう。

「つまり、【ギンピギンピ】――、食べることはできない。ただし、現地のワラビーなどの有袋類や、哺乳類ヒト科、DJ兼モデルのパク・ソユンを除く――、ってワケか」

「何、その『※』印の注意書き」

 と、パク・ソユンが、ゴーグルサングラスにつっこんだ。

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