13 命題:『我々の国が社会主義ではないことを証明せよ』。我々の国じゃなくても、日本とかアメリカ合衆国でも、可
そうして――
ふたたび、ふたりは、テーブルを見渡してみた。
「……」
パク・ソユンが、視線をおくってみる。
こんどは、卓でディーラーをしている女が、
「……」
と、チラリ……と、こちらを見てきた。
目線の合う、数秒の間――
先の男と同じく、韓国人、もしくは北の国の半島の人間なのか――、あるいは、すくなくとも日本人や中国人といった、同じアジア系のようにもみえる。
ただ、その目や表情、佇まいといったものは、どこか――、先ほどの男と同じく、蝋人形にも似たような、異様な雰囲気があったのだが。
「ここの、ディーラーは……、韓国人なの?」
パク・ソユンが、すこし言葉をため、ドン・ヨンファに聞いた。
「ま、あ……? ――っぽくは、見える、けど……」
ドン・ヨンファも、同じように答え、
「ただ……、何というか、“かっちり”している雰囲気というか……、何だろうね?」
と、そこまで言ったところで、
「ふ、ぅん……? ――もしかして? ここは、“北のほうの国”、だったりして」
「お、おいおい? また、唐突な事を、ソユン、」
と、不意打ち的に出された『北のほうの国』との単語――、いわゆる、日本でいうところの、北朝鮮=朝鮮民主主義人民共和国に、ドン・ヨンファは、一瞬あわてた。
ただ、
「――て言っても、確かに……、“あっち”にも、いちおうカジノはあるし、ね。ここが、もし、“何か特区的な場所”だとすれば……、それも、あり得なくもないのか……? まあ、というか……、そもそものそもそも、ここが、どこにある島か分からないにもかかわらず、僕らは、そのカジノで遊んでいるという状況が、まあまあ謎ではあるんだけどね」
「そう、ね……」
と、改めて今さらの状況確認をするドン・ヨンファに、パク・ソユンが相づちする。
また、ドン・ヨンファが話す。
「しかし、もし、ここが北の特区だとすると……、こんな、セクシーポーズのヒトガタ建築とは、なかなか、攻めたものになるね……!」
「社会主義の国にしては、ってこと?」
「まあ、一般的にいわれている、“北に対する認識”にすると、」
「……」
と、パク・ソユンが、沈黙を挟む。
また、ドン・ヨンファが、
「――とはいえ、“あそこ”は、最も近くて、“最も謎の多い国”では、あるけどね」
と、言ったところ、パク・ソユンが、
「それに、そもそも、なんだけど? “あそこ”って、さ? 社会主義な、わけ?」
「ろっ、とぉ……? そう、来るかい? ソユン?」
「ついでに、命題:『我々の国が社会主義ではないことを証明せよ』。我々の国じゃなくても、日本とかアメリカ合衆国でも、可」
と、“謎の出題”をしてきた。
「は、ぁ……」
ドン・ヨンファは、「何だい、そりゃ?」との顔しながらも、
「う~ん……? まあ、確かに、ねぇ……? 僕のような、中堅財閥程度で実業家やってる人間から見てもね? 確かに、この世の中というのが、だんだんと、『え? これは自由な、資本主義、民主主義なんですか?』って思うような出来事が、増えているようにも、思えるね。まあ、そもそも、“自由な”資本主義、“自由な”民主主義というものが……、“公平かつ健全に為されている”って考えること自体が、僕から見ても、ずいぶんと優等生的で、お人好しな性善説的な味方ではあるんだけどね」
と、回答する。
パク・ソユンが、
「たぶん、“社会主義が最もうまく行く方法”ってさ? 絶対に、『自分たちは社会主義です』――って、言わないことじゃない? “社会主義の看板”は絶対につけず、民主主義とか資本主義とかの看板をつけたまま社会主義をディスりながら、気づかないように段々と、いつの間にか、社会主義にしていくの。そうすると、“『え? どっからそれ出てきたんすか? それって、もう、社会主義や全体主義っすよね』――っていうようなナニカ”を行なっても、たぶん、つっこまれなくなるんじゃないかな? むしろ、つっこむ人が、陰謀論者あつかいされちゃうっていう」
「そうだ、なぁ……? まあ、それに、考えてみるに、ソウルにしろピョンヤンにしろ、“主義”の違いっていうのはあるものの……、両者ともに、近代社会の、持てるリソースをフルにつぎ込んで、さ? 鉄とガラス、コンクリートの“殻”でできた、“何かそれっぽい感じの高層建築や、巨大建築”をつくる――。そして、郊外には集合住宅とかいう、コンクリートの殻でできた寝床を築く――」
「ああ? ついでに、汚いものを流すための、“管”ってのも忘れずに」
「うん。“これ”こそ、“人間という管”の集まった都市にも、同様に、“管という構造物”が不可欠なところだね」
と、たぶん下水道と思しき、抽象的な内容に話が逸れる。
続けて、ドン・ヨンファが、
「まあ、話を戻すと……、方法論の違いやセンスの違い、エロ・グロとかのアンモラルが許容されているかどうかの違いこそあれど……、文明として、やっていることは、だいたい、一緒じゃないかな? 資本主義も、社会主義も」
「ああっ? エロ・グロと、堕落は重要よッ――!!」
「ぬッ――!?」
とここで、指をピンッ!! とさせたパク・ソユンの強調に、ドン・ヨンファがビクンッ!! となる。
また、パク・ソユン曰く、
「冷戦で、ソ連側が負けたのは、たぶん……、エログロとかいったアンモラルが、あまり、許容されなかったせいよ。わりといい加減に計画経済してたくせに、禁欲的な建前だけは、融通が利かないという」
「う、うん……、そうだね」
と、ドン・ヨンファが、困惑ぎみに相づちしながらも、ふたたび話を戻して、
「まあ、そんなふうにして……、我々は利己的に、かつ全体的に、“殻”なるものを、築くわけさ――? まるで、収斂進化のように――」
「ああ……、それで、人類は進歩して、ついには電脳という“殻”を手に入れ、“人体という制約”から解放される。ゴースト・イン・ザ・シェル――、“甲殻”機動隊の夢ね」
「何だい? その、ロブスターとか、蟹とか出てきそうな?」
「甲殻アレルギーには、気をつけてッ――!!」
と、パク・ソユンが言い終え、ピシィッ――!! と指をキメる。
謎トークは終わり、
「まあ、とりあえず……、何だい? バカラ――? するなら、しようぜ!」
「ええ。確率仕掛けの世界を創造した神に、人間の力を見せるわよ」
と、ふたりは意気込んで、バカラへと向かう。
その後、めちゃめちゃに負けた――




