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家召喚で快適な異世界旅行を満喫します。  作者: 白田 まろん
第一章 ジャックの秘密
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第九話 アリスのお願い

「なあジャック、お前どうやってアリスさんを落としたんだ?」


 アリスさん、今はお互いに呼び捨てだが、初めて二人でアルタヘーブ教会に行った数日後、俺は彼女の真意を確かめた。すると結婚したいというのは本気で、しばらく恋人として付き合おうということになったのである。


 俺の方もあんなに可愛い彼女から好かれたのは嬉しかったし、付き合うことに異議などなかった。しかしどうして好かれたのかは未だによく分かっていない。


 そしてあれから半年が過ぎた今、俺に質問をしているのはミケロ先輩。二つ年上だがユゴニオに入ったのは一年半前だから、アリスの同僚ということになる。


「ミケロ先輩、それが分からないんですよ」

「チクショー、俺もアリスを狙ってたのに」

「そ、そうでしたか」


「おいジャック、アリスと別れろ」

「突然何を言い出すんですか!?」


「お前にアリスはもったいない……と言いたいところなんだけど、イイオトコなんだよな、お前」

「あはは、男性の先輩に言われても嬉しくないですけどね」


「付き合いだしたって聞いた時には殺してやろうとも思ったが、そうすると俺も死罪になるし、どうせすぐに別れると思い直したんだけどな」


「かなり酷いこと言ってますよ、先輩」

「うるせー、爆ぜちまえ」


 ミケロ先輩は決して悪い人ではない。俺に限らず後輩の面倒見もいいし、本人に自覚があるかどうかは分からないがそれなりにイケメンだ。


「ところでよぉ、お前ら二人、毎月一回は休みを合わせてどっか行ってるだろ」

「ああ、アルタヘーブ教会ですよ」


「教会? 祈りに行ってるのか?」

「あまり他人ひとに話すようなことじゃないんですが、寄付をしに行ってるんです」

「寄付?」


「後は教会にいる子供たちと遊んだりしてますね」

「へえ。それはご利益ありそうだな」


「先輩、そういうことはアリスの前では言わない方がいいですよ。嫌われますから」

「な、なに!?」


「俺もアリスも子供たちがちょっとだけいいものを食べて、ちょっとだけいい服を着られればって思いで寄付してるんです。ご利益なんて求めてませんから」


「な、なるほど……なあ、次はいつだ?」

「来週の火曜日ですね」


「お! その日は俺も休みだ。連れてけ」

「先輩も寄付するんですか?」


「するする。ちなみにお前たちはどれくらい寄付してるんだ?」

「聞くことじゃないですよ。まあ、答えますけど」


 俺が三万カンブル(基本は一万だが半年間三万の寄付を続けている)、アリスは金貨一枚と聞いてミケロ先輩が青くなる。


「あ、あのよ、三千カンブルとかじゃだめかな」


「寄付は気持ちですから金額は関係ありません。無理して寄付したことを後悔するようでは、それこそご利益なんてありませんから」

「ご利益は求めないって言ったじゃないか」


「だから求めなくて済む、このくらいだったら惜しくないって額を寄付すればいいんです。あの三千カンブルがあったら今頃楽だったのに、なんて考えるのはよくないと言っているんです」


「そ、そうか。うん、三千カンブルなら惜しくないし忘れられるぞ」

「そうそれ、忘れられるってのが意外に大事だったりするんですよ」


「お前、宗教家みたいなこと言いやがるんだな」

「よして下さい。俺はただの凡夫です」


 ミケロ先輩の同行はアリスも了承したので、彼にも伝えると顔を赤くして喜んでいた。でも先輩、アリスは俺の彼女ですからね。


 そして迎えた火曜日、実は俺には寄付とは別の目的があった。そう、ロジェがやり切ったのだ。半年間、雨の日以外は休まずランニングを続け、今では毎日教会の周りを二百周しているそうだ。


 もちろん筋トレも欠かしていないとのことで、先月十歳になったばかりの彼の体はかなり逞しくなっていた。ただ、やはり相当食べるらしい。俺とアリスの寄付がなかったらヤバかったと、シスター・エリアーヌが苦笑いしていた。


 別の目的とは、ロジェに木剣を買い与えることだったのである。


「どれがいいかな」

「ロジェ君、けっこう力も強くなったんだよね」


「腕相撲で負けたよ、アリス」

「もう、情けないなあ」


「あっはっは! ジャックは十歳の子供に負けたのか」


「いや、本当に強くなってるんですって。ミケロ先輩もやってみたらいいですよ」

「俺は倉庫で鍛えてるからな。子供なんかに負けるものか」


 フラグは回収して下さいね、先輩。


「それなら木剣も本人を連れてきて選ばせてやった方がいいんじゃないか?」


「いえ、俺もそう言ったんですが、師匠に選んでほしいって言われたんですよ」

「師匠?」


「ジャックはロジェ君からそう呼ばれてるのよ」

「へえ、師匠ねえ。お前、剣術なんかやったことあるのか?」

「ありません」


 実家にいた頃に嗜み程度の経験はあったが、言わない方がいいだろう。


「何だよ、それで師匠たぁ情けねえ」

「ミケロ先輩はありそうなこと言ってますね」


「おうよ。期間は一年くらいだが傭兵目指してたからな」

「「えっ!?」」


「な、何だよ二人して」

「ミケロさん、お願いがあるんだけど」


 俺とアリスは互いに顔を見合わせた後、頷いてから彼女が上目遣いのお願いポーズでミケロ先輩を見つめた。惚れた彼女にそんなことをされては、鼻の下が顎まで伸びたのも無理はないだろう。


 先輩は内容も聞かずに何度も首を縦に振って、任せろと連呼していた。

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