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家召喚で快適な異世界旅行を満喫します。  作者: 白田 まろん
第一章 ジャックの秘密
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第四話 アルタヘーブ教会

「おにいちゃん、だあれ?」


 教会の敷地に入ると、五歳くらいの女の子がトコトコと寄ってきて首を傾げながら俺に尋ねた。


「フリーギルドのビークの紹介で来たジャックだけどシスターはいるかな?」

「きゅーびーじゃっく?」


「あはは、ジャックだよ。シスター呼んでくれる?」

「わぁったぁ!」


 建物は古めかしく、石造りの壁はことろどころ崩れかけている。女の子も数カ所に継ぎはぎを当てた服を着ていたので、やはり生活は豊かではないようだ。


「しすたー、んとねぇ、きゅーびーきたぁ」


 どうやら俺はきゅーびーになってしまったらしい。理髪店でも経営出来そうだ。それはともかく女の子に手を引かれていくと、二十代後半に見える修道服に身を包んだシスターが出てきた。


「あの、どちらさまでしょうか?」

「ビークの紹介で来た何でも屋(フリーランス)のジャックです。こちら紹介状です」


「えっ!? まさか遠足の付き添いを請けて下さったんですか!?」

「はい」


「あの、報酬はご存じ……」

「大丈夫です。ちゃんと聞いてますよ」


「そうですか。はっ! 申し遅れました。私はジーリック正教のシスター・エリアーヌと申します。こんなところですが中にどうぞ。詳しいお話はそちらで」

「こっちぃ!」


 言うが早いか俺はいきなり女の子に手を引かれた。ニコニコと笑って可愛らしい。


「メルルがすみません」

「いえ、構いません」


 そうして通されたのは応接室だったが、ローテーブルも椅子も古いなりにきれいに磨かれていた。俺が腰かけるとメルルがじっと見つめてきたので抱き上げて膝に座らせる。


「す、すみません! これ、メルル!」

「いえいえ、大丈夫ですから」


「めるる、きゅーびーすきぃ!」

「きゅーびーじゃありません。ジャックさんですよ」

「じゃっくぅ?」


「あはは。メルルちゃんは人見知りしないんですね」


「あ、いえ、この子は人一倍悪意に敏感なので、誰にでも懐くわけではないんです」

「そうなんですか?」


「ええ。お陰で私たちも助かっているくらいなんですけど」

「シスター・エリアーヌ、お茶をお持ちしました」


 そこへもう一人のセシルと名乗るシスターがお茶を三人分運んできた。纏っている修道服が黒いせいかも知れないが、二人ともかなり華奢に見える。


 エリアーヌさんは金髪で、目尻が下がった優しそうな顔立ちだった。一方セシルさんは肩までの黒髪と、長い睫毛の下の大きくて青い瞳が童顔に収まっていて、どことなく儚げで可愛らしい。


「メルル、私たちはジャックさんと大事なお話がありますから」

「やだぁ! ここがいい!」


「珍しいわね。メルルがセシルの言うことを聞かないなんて」

「俺は構いませんよ」


 そう言ってメルルの頭を撫でると、彼女は俺を見上げて嬉しそうに微笑んだ。シスター二人は仕方なさそうに溜め息をつくと、そのまま今後の話を始めた。


「遠足は明後日で、雨なら延期となります」


「あ、延期ですと付き添いは難しいかも知れません」

「何かご予定が?」


「雑貨店のユゴニオでの仕事が決まる可能性があるんです」

「あのユゴニオですか!?」

「はい」


「すごい……ジャックさんってもしかして読み書き計算がお出来になる?」

「まあ、一応」


「でしたら私たちは主神様に明後日は晴れるよう祈りを捧げなければなりませんね」

「えっと、付き添いは俺でいいんですか?」


「それはもう! メルルがこれだけ懐いた方ですから問題ありません」


 当日は朝九時に教会に集合。目的地はここから歩いて三十分ほどのところにあるビュンヘン王立公園とのことだった。メルルのように小さな子供がいるので、距離としては妥当なラインだろう。


 ちなみにこの話し合いの間、俺の手をにぎにぎしたり飲んだお茶を欲しがったので飲ませたりはしたが、メルルはとても大人しくしていた。そんな彼女を膝から降ろして帰ろうとしたところで、少し悲しそうな表情を向けられたのには正直後ろ髪を引かれる思いだったよ。


「おい、お前!」


 ところが今度は応接室を出てすぐ、十歳くらいの少年にいきなり指をさされて叫ばれた。


「俺か?」

「ロジェ! お客様を指さしてお前とは何ですか!」


「お前、傭兵か?」

「こら、ロジェ!」


「あはは、シスター・セシル、いいんですよ。ロジェ君、俺は傭兵じゃなくて何でも屋だよ」


「なーんだ、傭兵じゃないのか。つまんねーの」

「「ロジェ!」」


 二人のシスターが見事にハモった。


「どうして傭兵じゃないとつまらないんだ?」

「だってよー、傭兵だったら戦い方とか教えてもらえんじゃん」


「戦い方? 誰かと戦いたいのか?」


「ちげーよ、大きくなったら傭兵になって稼ぎまくりてえんだ。そんでシスター・エリアーヌやシスター・セシルに少しでも楽してもらいてえんだよ」

「「ロジェ……」」


「ロジェ君、俺は傭兵ではないけど、傭兵になりたいならとにかく体を鍛えることだ」

「体を鍛える?」


「畑仕事はその助けになる。他にも教会の周りを走って体力をつけるとか、成人するまでにやれることはたくさんあるぞ」


 問題はそうして運動したら腹が減ることだろう。だがそれは俺がこれから得る給金で教会に寄付をすればいい。言いだしっぺなのだから責任は取るつもりだ。


「でもよー、それより剣術とか体術を習った方が強くなれるんじゃねーのか?」


「剣術も体術も体力がなければ役に立たない。そうだな、毎日この周りを五十周走れ。雨の日を除いて毎日だ。半年続いたら俺が木剣を買ってやる」

「ほ、ホントか!?」


「ジャックさん、それは……」


「いいんですよ。でだ、木剣を買ってやったら走るのは百周、素振りも百回だ。やれるか?」

「やる! やるよ! 俺絶対やる!」


「よし、約束だ。毎月ここに来ますので、シスター・エリアーヌとシスター・セシルはロジェ君がちゃんと毎日やってたか報告して下さい」

「「わ、分かりました」」


「あとこれ」

「「えっ!?」」


 俺は懐から小金貨を一枚取り出してシスター・エリアーヌに手渡した。小金貨一枚は一万カンブルである。


「これは……?」

「少ないですけど教会への寄付です。子供たちの食費の足しになれば」


「あ、ありがとうございます!」

「では明後日また来ます」


 こうして俺はアルタヘーブ教会を後にするのだった。

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