表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
家召喚で快適な異世界旅行を満喫します。  作者: 白田 まろん
第一章 ジャックの秘密
3/54

第三話 遠足の付き添い

「あら、今日はどうされました? まだユゴニオから返事はきてませんよ」


 コリンヌさんが笑顔の中にも不思議そうな表情を浮かべている。彼女を訪ねた理由は会いたかったから、というわけではない。まあ、この笑顔は見てるだけで幸せになれるんだけど。


「えっと、返事を待ってる間って他の仕事をしてはいけないんですか?」


「いえ、そんなことはありませんけど……なるほど、何でも屋(フリーランス)の仕事をしたいということですね?」

「はい。報酬は安くても構いませんので、初心者でも出来そうな仕事ってありますか?」


「そうですねぇ、ジャックさんは読み書き計算が出来るとのことですので、それが生かせる仕事なら報酬もそれなりに高いんですけど」


 王都モードビークは地方に比べて識字率は高いものの、商家の者や商人を除いた平民では三十パーセントに満たない。ただしこれは読めるというだけで、書くとなるともっと低くなる。さらに計算が出来る人に至っては五パーセントほどしかいない。


「今はありませんか」

「いえ、あるにはありますが、短期の仕事がないんです」


「そういう人材はどこも手放したくないってことですね?」

「さすがはジャックさん。よく分かりましたね」


「まあ、その辺は……」

「ジャックさん!」

「な、何です?」


 いきなりコリンヌさんが身を乗り出してきた。


「私、不思議で仕方がないんですけど」

「はい?」


「ジャックさんってどこか大人びてますし、教養も高そうです。ひょっとして貴族様のお忍びだったりしませんか?」

「えっと……」


 惜しいから苦笑いするしかない。お忍びではなく元伯爵家の四男、それなりに教育は受けている。そしてそんな俺が平民としてやっていけるのも、四男という立場からだった。


 家を継げない、いずれ領地を出なければならない運命だったから、平民の使用人たちと特に仲良くしていたのだ。彼らは俺が貴族の立場を捨てて生きていくための最良の師であった。


 むろんどこかの家に婿入りする道はあったし、父上もそう考えていた。だが、そこには十中八九政治的な思惑が存在する。


 王国から評価の高いベルナール伯爵家と縁を結びたい下級貴族家は多かった。そんな野心見え見えの家に婿入りするなんて、考えただけでもゾッとする。だから俺は身分を捨てて自由に生きる道を選んだというわけだ。


「あまり詮索しないでもらえると助かります」

「やっぱり!!」


 あ、何か勘違いさせてしまったみたい。


「分かりました。ジャックさんの秘密は誰にも話しません!」

「いえ、秘密ってのは……」


「それで本当はどうなんですか? 男爵家ですか? 子爵家ですか?」

「えっと、あの……」


「まさかジャックさんご本人が爵位をお持ちで!?」

「あ、あははは……」


「ジャック様とお呼びした方が……?」

「いえいえ、俺は本当に平民ですから」


 伯爵家の四男だったとしても、身分を捨てて家を出たのだから正真正銘の平民である。


「それより何か仕事はありませんか?」


「あ、本当に報酬は少ないんですが一つありました」

「どんな仕事ですか?」


「アルタヘーブ教会で保護している子供たちの遠足の付き添いですね。シスター二人と子供が十人です」

「へえ、面白そうですね」


「ただ、午前中から夕方までで報酬は二千カンブルなんです」

「あそこって確か身寄りのない子供たちを引き取って育ててるんですよね?」


「はい。以前はジーリック正教から補助金も出ていたんですけど、今回依頼を出されたアルタヘーブ教会は司祭様が亡くなられた後の後任者がいないとかで、補助金が打ち切られてしまったんです」


 司祭以上の役職者がいなければ祭儀を執り行うことが出来ない。むろん正教側はシスターと子供たちを見捨てたわけではなく、別の教会に移す準備をしていたというのだが。


「一つの場所でシスター二人と十人の子供たちを引き受けるのはさすがに無理だったらしく……」

「ああ、そうか。散り散りになるのが嫌だったってわけですね」

「はい」


「でも補助金が打ち切られた今はどうやって運営してるんですか?」


「シスターには給金は支払われませんが、正教は修道者の生活を保証しなければなりません。なのであくまでアルタヘーブ教会の資金としてわずかですが収入はあります」


「なるほど。ただし祭儀が出来ないのであまり寄付が集まらないと」

「そういうことです」


 収入の額を聞いてみたところ、二人分で一カ月当たり十万カンブルとのこと。これで子供たちまで育てるのは無理があるように見えるが、教会は自給自足が原則なので食べるだけならそうそう困ることはない。


 衣類を新調したり菓子を買ったりといった、ちょっとした贅沢が難しいだけである。ただ、そのちょっとした贅沢は子供たちにとって重要であることも事実。そういうわけでなるべく金のかからない遠足を計画したとのことだ。


 俺はこの仕事を請けることにした。何なら報酬も辞退して構わないとさえ思ったが、それは今後のことを考えて避けてほしいと言われた。確かにシスターの人となりは分からないが、タダが当然になってしまっては本末転倒だからな。


 フリーギルド・ビークはボランティアの斡旋所ではないのだ。


 俺はコリンヌさんから紹介状を受け取ると、そのままアルタヘーブ教会に向かうことにした。


ヒロインの登場は第六話です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ