ⅩⅨ はないちもんめ
「じゃあ、こっちから! せーの!」
フリージアが大きな声をあげる。フリージアはわたしとおなじ少数派で、みんなから非難されるとわかっているのに、ガーベラのチームで堂々としてる。わたしは明日話すと言ったのに、しおんのチームにいる。みんな仲間なのに、怖い。すべてが怖くて仕方がない。自分の意見も言えず、怖い怖いと言うしかできない。
「勝ってうれしいはないちもんめ」
「負けて悔しいはないちもんめ」
二列は平行で対面になって寄せては引き換えす。言葉と一緒に、並んでずんずんと。
「タンス長持ちどの子がほしい?」
みんなの顔を見る。みんな、少し表情が固い。これは遊びじゃないから、懐かしかったみんなの笑顔と、今の表情が歪む。あまりにも遠いとこに来てしまった。
「どの子じゃわからん」
「相談しましょ」
「そうしましょ」
ここからが本番だ。
円陣を組む、こっちは向こうの発言を聞くだけだ。しおんが口を開く。
「ガーベラ。一刻も早くここから出たい。この施設は牢獄で、あいつらは、わたしたちを殺す気よ。そのためにできることは何でもする」
しおんが向こうのグループの話を聞き取りながら話す。しおんの口からでよかったかもしれない。ガーベラが話すのを聞いたら、きっと泣いていた。
「のばら、だからといって、なにができるの? 目をつけられて余計な事故を起こされるのは得策じゃないわ」
「ガーベラ、じゃあなにもしないの? なにもしなければ一生ここから出られないこともあるかもしれないのに?」
「のばら、そうは言ってないわ。情報が少なすぎるから、もう少し静観しましょうということよ。のばらとガーベラが話してるみたいね」
ガーベラはここが嫌いで出たがっているのは魔女になる前からのことで、それは事故から助長してる。のばらは慎重だし、彼女の生い立ちでは出て行く当てがないので積極的には出ようとはしない。対立するのは仕方がない。
「のばら、そろそろ切りましょう。こちらの人数を増やすわ。こちらはチョキ」しおんはそこで言葉をくぎってからわたしを見る。「ひなげし行ける?」
こちらに残ってるのはしおんとなでしこで、しおんは役割上うごけないし、なでしこは意見としては静観でのばらと同じなので、わたしがいくのは必然だ。
いやだ。どうしてもいやだ。
円陣から一直線になる。その瞬間、しおんに耳打ちされた。
「ひなげし、みんな、ひなげしが思ってるよりずっとやさしいよ」
しおんがぎゅっとわたしの手を握る。
そんなこと言われたって、わたしの意見は通らない。なのに自分の意見を言ってさらし者にされて、その上、顰蹙をかうなんてつらい。
決まり口上をのべる。
「のばらがほしい」
「ひなげしがほしい」
勝敗が決まっているじゃんけんの通りわたしはガーベラのもとへ行く。
「で、わたしは言いたいことを言ったし、そういう風に動くわ。なにか、言いたいことはある?」
ガーベラがすぐにそう言った。
のばらがすこし抑えてとガーベラに話すけどガーベラの圧は収まらない。
意見が強いガーベラにいつも混ぜ返して対抗するジャスミンが、この一連の魔女の話題についてはずっと静観してるので、ガーベラはどんどん意見を押していく。
「自分の命をまもる最大の行動をする。それが普通のことでしょ? 私たちは、魔女ではない。違うの?」
みんなが黙った。魔女じゃない、そういう風に振る舞うしかない。魔女だって前提で話すことは許さない。ガーベラの強い思いが伝わる。
「みんなの意見をまんべんなくいいましょう」
「そうね。ごめんなさい。じゃあ、二人の意見は?」
ガーベラはフリージアとわたしを見た。
「わたしはみんなが、もう施設の大人は敵だっていうのは、わかるよ」
隣にいたフリージアが、口を開く。フリージアは円陣になってもわたしの手を握ったままだ。
「優しかった教育員さんはいない。観察員さんはみんな、わたしたちを魔女だって思ってる。だから、みんなが大人に話すことをしないっていうのはわかる。前までは、こんな素晴らしいことができるのを、隠して生きていくなんて、もったいないって思ってた」
フリージアの握る手は痛いぐらいになる。
「でも、わたし、たぶん人を、簡単に殺せちゃう。あの時、加減を間違えたら、山崩れもっとすごいことになってた。それを簡単にできるの、わたし」
「だから、魔法は、」
フリージアの言葉が詰まる。
「魔法は……」
みんな黙り込んだ。
「そろそろ時間よ」
重苦しい雰囲気の中、のばらが言った。