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ⅩⅧ 話したくない

--「◇」--


なでしこの手元に一枚の紙が急に出てきた。

「ありがとう、なでしこ」

 ジャスミンがなでしこの頭を撫でて口を開いた。


「……魔女だと言うことを施設の人に話す。フリージア、ひなげし。魔女だということを隠し、出ることを積極的に主張する。ガーベラ、すみれ。魔女だということを隠し、静観。のばら、しおん、ジャスミン、なでしこ、多数に応じる。かきつばた。以上かの」

短い簡潔な文だ。紙の処分に困るから、あまり長文は書けなかったんだろう。

 魔女になってすぐに、筆談も使った紙を跡形もなく処分できないならやめた方がいいと言われた。部屋もロッカーも調べられている可能性があるから。


 そんなこと、注意しすぎだと最初は思っていた。今も思っていたいと思ってる。

「フリージアとひなげしは大人にまだ話したいかえ?」

 ジャスミンが話しかけてきた。

 わたしはうなずきもせずにうつむいた。


「わかんない」

横のフリージアが返事をする。

「わからんか」

ジャスミンは昔から何を考えてるかわからないところがあって、今もわたしたちの意見をどう思ってるのかよくわからない。

「わかんない。でも、みんなを裏切ることはしない」

 フリージアは普段の活発さを抑えてそう言った。


 そうだ、その気持ちはわたしにもある。だけど、そしたら、わたしたちは、ここを裏切るのことになる。ずっと生まれたときからいたこの場所。ほかの人たちは知らないけど、わたしとフリージアとアネモネは生まれたときからここにいた。食堂、多目的室、教室、小さい頃は、他にたくさんの玩具がある部屋があった。数年前まで、教育員さんを筆頭にこの施設の大人はわたしたちを守ってくれた。


 みんなは、ここを裏切るの?


「わたしだって、あの事故がただの事故だって、思ってるわけじゃないよ」

フリージアが、強く言う。


 わたしとフリージアは短い文では同じ意見になったけど、細かい気持ちは全然違う。

 フリージアが黙ってしまった。二人の目がこちらを向く。

「あした、話す」

わたしは小さくそう言った。




「ねぇ、わたし、はないちもんめしたい」


 体育の自由時間になってすぐに、フリージアが言った。

「なつかしいねー」

すみれはそれにあいづちをうつ。


二人とも自然だ。女の子は演技が上手い。観察員は入り口に一人で、先生はいつものようにベンチに座ってる。二人ともこちらを怪しがる様子はない。


 一時期はやったはないちもんめは、二チームに分かれて指名された子がじゃんけんする。勝った子のチームに負けたチームの子が移動していき、どちらかのチームがゼロ人になったら終了だ。誰をじゃんけんで指名するか、ゲーム中に円陣になって話す部分があるから、その時に、話し合いをする。ガーベラのチームで話し合いを行い、それをもう一つのチームにいるしおんが中継することになっている。あとはのばらが指揮するので、ガーベラの方に人を調整しながら移動しようっていう話だった。


「昔、はやったけど、どんなんだったっけ? 一列に並ぶやつだよね?」

しおんが輪に入る。

 かきつばたは、すっとみんなからさけて、柵にもたれて、こちらを見てる。

「なでしこもするー」

 なでしこが声をあげた。ジャスミンはなでしこになにか声をかけて、かきつばたの横に行く。二人はサボるらしい。あのふたりは参加しない方が自然だ。かきつばたは、自分の意見を言う気がないみたいだし、ジャスミンはなでしこと同意見ということだろう。


「ねえ、みんなでしよ? みんなで、あそぼーよ」

 フリージアは、参加しようかしないかとうろうろするメンバーに声をかける。


「いやよめんどくさい」

ガーベラのこれは、多分、演技のはずだ。


「私、ルール知らないけど入れて貰えるかしら」

のばらが答えた。のばらはガーベラの背中をたたく。

「やりましょうよ。かわいい子の言うことはきいてあげる方が大人よ?」


 みんな、上手い。こういうとき自然に自分を演じで誰かをフォローすることができる。これまでそういう場面が何度もあった。何年もここに住んでみんなを見てきた。わたしたちは、同じ環境で同じ立場でこういうときに仲間だと感じる。


「最初は、どうやって別れるの?」

「どう別れてたっけ? 適当に今の場所で良いんじゃない?」


 みんなが、それぞれ会話しながら、決まっていることを、自然を装って動く。わたしはガーベラのチームに行かなきゃいけなくて、それなのに、足がすくんで動けない。


「ひなげし、どうしたの?」

「しおん」

 しおんが横でわたしの肩を叩いた。顔を上げると紛れなく笑顔でわたしはそこまで笑えない。ただ、少しだけやわらいだ。この子はこんな状況でも少しのほほんとしている。しっかりしてるけどのんびりしてるから、みんなの長女みたいな子。


「しんどいなら、休む?」

そんなことはできない。話さなきゃいけない。でもどうしても動けないのだ。

 しおんが手を伸ばしてわたしの手をつかんた。

「準備オッケー」

 しおんがそう声を上げた。

 みんなで二列に並んで手をつなぐ。懐かしい。まだ、魔女なんて信じてない、楽しかった子供の頃。

 おっけー! とみんなで声をそろえた。


 みんなわたしのことは何も言わずにいてくれている。臆病なわたしはこうやっていつも逃げてる。誰かの優しさに甘えてる。

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