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ⅩⅡ わたしたちは飛べない

 手には軍手をはめていた。土を掘り起こして紫色の頭を確認する、根をもって引っ張ると思ったよりおおきなサツマイモが抜けた。昨日が大雨だったから、いつもより収穫がしやすい。とったさつまいもの土をおとす。さらさらと落ちる土の一粒一粒が、わたしの手をなでていってくれてる。水も風もそういうことを感じる。くすぐるみたいにからかうみたいに、向こう側が、こちらを認識してくれているって感覚。それをかわいいと思う。いままで土がかわいいなんて思ったことはなかったのに、これも、魔女になってからだ。わたしは自然魔法をつかえないし、自然の精も見えないけど、自然は人間だった時よりも近い。


「おおきいの取れたわね。その調子でどんどう掘ろう」

 先生の声がする。

「はい」

 ふいに話しかけられて、なにも焦るような事はないのにうわづった返事になってしまった。


 家庭科の時間だった。運動場のすみに畑があってみんなで育てている。何人かはボイコットとで、日陰で座わってる子もいるけど、ほとんどの子は参加してる。主教科は全部自習になってしまったけど、副教科は参加する子も多い。みんなサボることにも飽きた。というか、ほんとは主教科だって受けたい子も多いはずだ。


 フリージアは水をホースでまき散らしていた。それをひなげしが睨むように見てる。フリージアは水と相思相愛のようで、水がひときわ輝いて見える。この輝きは大人には見えないはずだけども、ハラハラする。今のわたしたちは物理的じゃないことを起こすことがとても簡単だ。


「今日は、スイートポテトらしいの」

横にジャスミンが来て座った。

「あぁ、いいね。がんばってぬかないと」


 そういえば昔も、ここのさつまいもでスイートポテトを作った。昔はこうしてとった野菜は調理実習として料理してみんなで食べた。サツマイモは昔からずっと取ってるから、いろんな料理を作った。収穫からの調理でみんなそろって食べるのは、ここからでられないわたしたちにとっての一種の行事みたいで本当に楽しみだった。教育員さんがいなくなったころから調理器具は触らせて貰えなくなったから、今日のスイートポテトを作るのは食堂の人だ。


 ジャスミンは農作業をするつもりはないようで、土を撫でている。

「話し合いの件は進んでるのかえ?」

「むずかしいね。のばらの口癖が、みんながテレパシーを使えたらいいのだけど、になりそう」

 この作業は外だし広い畑で、今はそばに先生も観察員もいない。聞こえないだろうけど、心持ち小声で話す。

「ジャスミンは話し合いで話したいことある?」

「特にないの。みんなで好きなように決めたらよい」

 そういいながらジャスミンは自分の足を見る。今は靴をはいて見えないけど彼女の足は足の甲より先がない。健も切られてるそうであまり運動ができない。彼女の領では貴族の娘は結婚の道具であり、逃げないように、男への服従のしるしに、幼いころに足のケンを切られ、場合によっては足も落とされる。


「……もし逃げるになったらわれは逃げられん。ほおって逃げてくれ、なでしこにもそう伝えてくれんか」

 逃げるなんて話は誰も言い出していないけど、みんな最悪の想定として頭の中にはあると思う。ハンデがあるジャスミンが逃げることを考えていてもおかしくないけど。


「なでしこは絶対にジャスミンをおいていかないよ」

「われもそう思う。じゃけぇ、一緒に心中はつまらんじゃろ。われはこの世には大して良いことがあるとは思えん。でも、なでしこはきっとどこでもちゃらんぽらんにたのしむじゃろうて。それにわれはどうにもならんが、あの子の魔法は貴様らにも役たつ」

 ジャスミンはこれを言いに隣にきたのかもしれない。


「役に立つとか立たないとか関係ないよ。みんな仲間なんだから」

 前にのばらに自分が言われたことを口にしてる。のばらも今のわたしみたいに悔しい気持ちだったなら申し訳ない。

「わたしたちは、なにもかわらないのにね」


 魔女になっても、わたしはわたしのままだ。急に自分が世界をおびやかす悪い魔女だといわれてもそんな実感はない。みんなもきっと変わってないはずで、魔女になったこと事態は悪いことじゃない。魔女が悪だっていう世界の価値観の中だから、魔女を隠さなくちゃいけないこと、殺されるかもしれないこと、そして未来が何もわからないこと、この環境で、みんな少しづつ病んでいく。


 遠くでのばらがかごにさつまいもを入れていた。丁寧にサツマイモの土をはらっている顔が、笑ってるようにも見える。勉強でもなんでも真面目だから義務感で行動していると思われやすいけど、のばらはここでの暮らしが真新しくてどれも好きで取り組んでいた。のばらは最後に来た子で、一緒にスイートポテトは食べただろうか?


「ちょっと」


 ひなげしの叫ぶ声が聞こえた。きょとんとしたフリージアがもつホースから水が流れ続けている。

「もう、それ止めて! わからないの? わたしたちが迷惑してること!」

大声で叫ぶことなど普段ないひなげしの声にみんながぎょっとする。

「ごめんなさい」

「まぁまぁ」

フリージアはすぐに謝りなでしこが仲裁に入ってる。


「どうしたんだろ」

 どうももめている。フリージアがとくにおかしな魔法を使っていたようには見えなかったけど。今の感じだとひなげしの方がよっぽど不信だ。

「いつもの喧嘩じゃ。しおんとのばらの部屋はいつも静かじゃろうが、われの部屋はフリージアもなでしこも魔法を使ってあそんどる。ばれんようにとわれも注意してみておるが、ひなげしはそれが気が気でないんじゃろうていつもいらいらしておるの。もともとそんなに相性は良くないからの。平時は仲がよかったんじゃが」


 だんだんとよくない方向に少しづつ傾むいている。みんな積まれてきた情は思い出とともにあるはずで、わたしもここはとても大好きだったけど。


 収穫のめどがついたので先生が号令をかけた。みんなで二列に並んで施設に戻る。畑のある運動場は施設の裏手の山の上にあるので、唯一の施設から離れた場所になる。ただ、通路も運動場も畑もすべてに柵と飛行対策らしいネットが張られている。最後の魔女は飛行の魔女だったはずで、捉えるのに苦労したんだろう。わたしたちの中に飛べる魔女はいないらしいから無駄な対策だ。


 施設の窓から見る限り施設もこの運動場も森に囲まれている。ここは国のどこにあるのかという話をフリージアなんかはのばらによく聞いていたけど、わたしたちがもし逃げるなら、国のどこに行けばいいんだろう。足の不自由な子や病気の子もいる中で逃げることを考えるのはあまりにも非現実だ。


「雨でぬれてるから気を付けて」


 先生が先導して階段をおりる。丸太の階段はよく滑る。一歩一歩気を付けて降りた。

 だらだらと歩くから自然と列は長くなる。施設前の急な坂道はみんな特にゆっくり降りる。自然と静かになり風でゆれる葉の音ぐらいしか聞こえない。そんな風に思っていたら、突然、後ろから聞きなれない大きな音が聞こえた。

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