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Ⅸ それぞれの意見


 まだ学校が始まる前、いつもはそんなに早くないすみれが一人でもう教室にいたのでお手洗いに誘った。いつもガーベラと登校していたのに。どうやら二人は本当に喧嘩しているみたいだ。二人は一緒にいるときも多いけど、喧嘩も多い。普段はままあるそんな諍いも、魔女になっての亀裂ならあまりよくない。わたしたちは魔女で、それはどうしようもない。


「何の用事?」

 すみれはきれいに編んだおさげを鏡でチェックしてる。

「えっと、話し合いをしようって話が出てて、現状できそうにないから、方法模索のために、みんなの魔法を聞きまわっているの。嫌なら別にいいよ」

 すみれは機嫌が悪いようでめずらしくため息をつく。

「別に、言いたくないわけじゃない」すみれは、小さい声で自分の魔法を話す。「かきつばたは、しおんが聞くの?」

「のばらが聞くけど、なんで?」

「同じ部屋なのに、あの子が魔法を使ってるのまだ見てない。ちょっと不自然だとおもわない? もともと何を考えてるかわからないけど、最近、さらによくわからない」

「うーん、のばらも使わないし、なんとも言えないけど」

かきつばたは無口ではないが、自分の話はあまりしない。どんな魔法でも見せびらかすようなことはしないと思うけど、のばらと同じような危ないものなのだろうか。


「みんなはもう、しおんに話してるの」

「まだ。いまから聞きに行く。思うところがあるかもしれないけど、話し合いには参加してほしい」

「いいけど、話し合いなんて上手くいかないよ。みんなの意見なんて知らないし、わたしの思いも伝わらない」

 すみれは目を伏せた。


「それでも、話し合いたいってわたしは思うよ。……ねぇ、すみれはこれからどうしたい?」

「出たいに決まってる。村に戻って生活がしたい」

 すみれは確か、密告でここにいれられている。ここに来る前の外の生活はすみれにとってきっといい生活だったんだろう。魔女になってしまい、いつ戻れるかわからない今のこの状況に鬱々となるのは仕方がない。

「早く出たい。わたしたち、ずっとこのままなの?」

すみれは少し間をおいて、暗い声で話す。


「なでしこが気持ち悪い。ずっとジャスミンは気持ち悪かった。いつも、なんでもわかってるみたいな、薄い微笑みで。なでしこはずっとジャスミンにだまされてるって思ってた。でも、ちがった。なでしこもおかしい。全然変わらないの。魔女の話なんか全然しない。あの本が面白かったとか、次のお小遣いはなに買おうとか、本当になにも変わらない。そんなことってある? あの二人は魔女とかそういう次元じゃないの。二人だけで完全で、おわってる。でも、うらやましい」

泣きそうになりそうな彼女の背をなでる。

「ここで一生過ごすなら、生まれてきた意味ってある? って、あのふたりには、愚問なんだろうね」



 昼休みは体調が悪そうなひなげしを誘って外に出た。中庭では、ジャスミンとなでしこ、それにフリージアが、花壇で話してる。最近その姿をよく見る。


 ひなげしに手短にここに誘った理由を話す。

「他の人にもきいた?」

 ひなげしは小さな声で言った。

「すみれには」

「なんて言ってた? 魔女って絶対に言っちゃ駄目とか? 団結してみんなでここを脱出しようとか?」

 ひなげしは小動物的な見た目からは想像できない険幕さで言った。

「まだ具体的には何も話してないよ」

「でも、みんな施設の人をよくおもってない」

「それは、そうかもしれない。今の施設の人ってつながり薄いし。信用できないし。でも、だからって、誰かの意見を置き去りに強行したりしないよ。だから、話し合おうってみんなが言って、動いてるわけだし」

「でも、正直に施設の大人に話そうって子はいないに決まってる。怖い。ずっとわたしはわたしだったのに。こんなの、絶対バレる。嘘をついてばれたときの方が怖い」

 怖いと呟くたびにひなげしの顔は蒼くなる。

「フリージアがばかみたいにうれしそうなの。それがイライラする」

 フリージアのはしゃぐ声がここまで届く。それをにらみつけるようにひなげしは見た。

「みんな陰で魔法使ってるんでしょう? おおっぴらには無理だけど寝室はバレないし。フリージアとかそのうち寝室を水浸しにするわ」

 そんなことになっているのか。わたしはたいした魔法は使えないし、のばらも使わない。ほかの部屋はもしかしたら、相当面白いことになっているのかもしれない。


 フリージアとひなげしは0歳からこの施設に入っている。同じ意見になることが多い二人は、はたから見ると仲が良いと思っていたのに、亀裂がはいっているのは意外だ。ずっと一緒だけど、自分から作った友たちじゃないから相性のいい悪いがあるのかもしれない。


 苦虫をかみつぶしたような顔は不意に泣きそうになる。

「ひなげし」

「みんな、わかってない。みんなが思ってるよりもっと怖い。秘密のままで出たところで誰かがバレたら、終わり。ねぇ、外の世界には、魔女はいないんだよ。殺されたから」

ひなげしの瞳は恐怖で濡れている。


「ひなげしはどうしたい?」

「正直に魔女だって話して交渉したい。ここからでられなくていいから、監視されていいから、殺されたくない」

いろいろな子がいる。これも、当然の意見だ。

「それを話し合いで、言ってみよう」

「無理。だって、みんな、あの朝すぐに団結して、隠したじゃない」

「それでも、話そう。わたしたちは、どんな結果になってもみんな一緒なんだから。誰かに言わなかった後悔をしてほしくないよ」

「言ったって、意見が通らなければ一緒だよ。みんなに軽蔑されるだけ」

 十人の意見がそろうことはないだろう。誰かの意見はきっとつぶされる。それでも、その意見の存在自体を消し去りたくはない。


「絶対にそんなことはない」

「しおんっていい人だけど、こんな時までいい人って逆に人間ぽくないよ。……魔女だけど」

チャイムがなった。青い顔で、ひなげしは立ち上がりチャイムの音にあわせて、自分の魔法を話した。


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