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仙台

作者: 椋木アル

僕が仙台に初めて来たのは去年の丁度この時期で、仙台なんぞ何も無い、何も無い、と思ったまま当時は東京に戻った。しかし今僕は仙台から東京に戻る新幹線の中で全く別の想いを抱いている。仙台に戻る動機を幾つか残してこの地を去ってしまったのだ。それは全て愛おしいもので、光の矢のようだと実感する。


この2日間僕はありとあらゆる事によって心を揺さぶり続けられ、動揺しており、一体どうすればいいのか分からない。2日前から絶え間なく夜桜がひらひらと散り続けており、まともな文字なんか書けやしないし、文章が見えてこなくて、やはり僕の心は確かに波動しているのだと分かる。


月の面影がある仙台を恋しく想えるが、しかし、やはり、僕は福岡だけにはもう行けないと思う。僕があの頃にしか持っていなかった情熱や暖かさや呼吸の全てを練り消しみたいに一つのボールにまとめ、あの地にぽいと放り落としてしまったからだ。かつての愛の渦中に足を踏み入れることはきっと想像以上に苦しいだろう。あの地は決して色褪せないだろうし、正しくて、許せない。大切なものを思い出す覚悟が僕にはないのだ。もし再び僕があちらに戻り、渦中に呑み込まれてしまった時、今度は誰が僕のことを救ってくれるのだろう。


大切な曲が増えてしまった。耳は呼吸をしろというのだが、どうにもだめで、聞けば途端に呼吸を忘れて溺れゆく。

大切な場所が増えてしまった。しかしあの街の魅力は突然消えた。実像のないあの地は既に空っぽになり思い出だけが取り残された。

大切な季節ができてしまった。夏が終わりを告げる季節に僕はきっと一年で最も醜くなる。

大切な人との思い出を忘れてしまった。荒野の中で一箇所だけが無造作にむしり千切られた場所がある。いくら水を与えたっていつまでもそこだけが殺風景で不格好のままなんだ。

失った、喪った、行ってしまった、去ってしまった。粉々になって崩壊した。

霞んだ楼閣が今日も私を夜に縛り付ける。

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