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入口らしきところを通り、俺たちは迷宮に入った。今回の迷宮は洞窟っぽいヤツのようですが、壁がしっかりしているので、まるで地下道です。結構な広さのホールみたいなところもあれば、隠し通路みたいな狭いところもあり、実に迷宮っぽいですね。
斥候役が慎重に探りつつも、俺は『弾除け』として先頭を歩きます。恐らくは過去の転移者だか転生者だかが名付けたのでしょうか。まともな銃火器も無いのに、弾除けとは是如何に、とは思うのですが、まあ細かいことは気にしないということで。この仕組みのおかげで、俺は飯にありつけているのですからね。することも無いので、そんな取り留めもないことを考えながら歩いておりますと。
チャラララララ~
エンカウントの音が鳴り響き、BGMが切り替わる。
「来るぞ!」
今回の敵はまだ見えていない。ということは、先制攻撃のパターンか?と思った次の瞬間、目の前の空間が揺らいだ。風切音と共に高速で何かが俺目掛けて振り降ろされるような感じ。が、俺は動かない。と言うよりは、動けない。俺はあくまで弾除けであって、戦闘職ではないのですよ。今回は逝ったかな、などと若干他人事のように考えてしまった俺だったが、刹那、それは剣士によって弾き飛ばされた。そして、目の前に現れたのは、鋭い鎌を構えた巨大カマキリ。
「げぇ、この階層で迷彩マンティコアってマジかよ」
探索メンバーの誰かが呟いた。光学迷彩を纏った敵を相手にすると、実力はともかく、不意打ちを受けやすい。今回は通常ならそんな厄介な敵が出てこない浅い階層であったことと、通路のど真ん中で堂々と待ち構えていたことで、相手が攻撃態勢に入るまで全然分からなかったのだ。ちなみに斥候は、俺の合図と同時に飛び退いている。うん、やっぱり戦闘職ですね。
出てきた一匹が倒されると、BGMは探索時の曲に戻った。俺は合図をすると、また先に進みだした。
少し開けた場所に到着すると、警戒しつつも一時休憩することになった。
「全く、パーライトさんが居なけりゃ全滅してたかもしれんな」
俺のことを気遣いに来てくれた年若い剣士が、思わずという感じで漏らした。
「まあ、皆さんに怪我が無くて何よりです」
皆さんは俺が居なくても撤退できるでしょうが、皆さんが居ないと俺は餌食になるだけなのですよ。なんせ弾除けですからね。
「だから言ったでしょう、彼は特別だって」
声の方に振り向くと、けしからんエリーさんだった。おや、何故そんなに得意気なんですかね。
「ああ、本当に良く分かったよ、エリー」
イケメンガイアもやってきた。
「改めて、侮って済まなかった。君のおかげで命拾いしたよ、パーライト」
本当の爽やかイケメンは、ちゃんと自分の非を認められるのです。本物ですな、ガイアさん。
「それが弾除けの仕事ですから。感謝は現物で頼みますね」
「そうだな、報酬には個人的に色を付けることにしよう」
「はは、助かります」
そう言うと、俺とガイアは握手を交わしたのでした。