第41話 お酒は20歳になってから
20人くらいでぞろぞろと山道を登る。
買った酒樽は街中で雇った剛力と呼ばれる人達に運んでもらっている。
奴隷達と違って力持ちだ。
酒樽を1人1つずつ背負って黙々と登って行く。
奴隷達は黒塗りで立派な衣装箱を2人1組で運ぶ。
運び易いように箱の下に棒を2本通したけど、こちらは辛そうだ。
僕と半兵衛さん、あと秘書官は何も持っていない。
ちょっと手持ち無沙汰というか、関羽と張飛も運んでいるのに1人だけ何もしないのは落ち着かない。
持ってあげようとしたけど、半兵衛さんに絶対にダメだと止められた。
しぶしぶ何も持たずに歩く。
もうすぐで山の上にあるサターキ伯爵の城に到着する。
別に20人で城を攻めるわけじゃない。
これらはサターキ伯爵へのお土産と、半兵衛さんの義弟へのお見舞いの品だ。
半兵衛さんの義弟であるカーヴェイは体調不良になり、サターキ伯爵領で療養しているのだそうだ。
何でこんなところで療養しているんだろう。
家で寝てるほうが治りが早いと思うけど……
とりあえず、お城の状況把握にも丁度良いので、堂々と家族として会いに行くことになった。
敵の部隊がぞろぞろとお城に行くわけにはいかないので、この隊列はオーブリー伯爵とその部下、加えて荷物運びの剛力さんということになっている。
あ、オーブリー伯爵は半兵衛さんのことね。
貴族だとは聞いていたけど、半兵衛さんってすごく偉い人だったんだ。
僕は部下には見えないので豪商の息子でカーヴェイの友達ということになった。
貴族の家族構成はだいたい知られているし、伯爵の友達が普通の平民だと変なので豪商の息子ということにしている。
商会の名前も扱っている商品も架空だけど叩き込まれた。
小学校の頃に演劇をやったことがあるけど、ちゃんと豪商の息子になれるかな……
弱気じゃだめだな。
僕は豪商の息子。カーヴェイとは昔からの友達だから敬称も付けずに付き合う仲。
よし、大丈夫!
「ようこそいらっしゃいました」
家令と名乗る老人に丁寧に迎えてもらった。
「よくご無事でいらっしゃいましたね。辺境伯様はガレトン王国軍に討ち取られたというのに」
…… 丁寧だけど、言葉に棘がある。
政敵だから最大限警戒されるでしょうと言われていたけど……
「侯爵と伯爵からの援軍を待っていたのですが、どうやら思いが通じなかったご様子。辺境伯もご不運で討たれてさぞかし悔しがっておられるでしょう」
半兵衛さんが気にせずに言い返した。
何かこの2人の話を聞いているとハラハラするよ。
それに、家令の周りに完全武装の兵士がたくさんいて、ちょっと怖い。
「これは申し訳ありません。ガレトン王国軍が迫っているので殺気立っておりまして」
そっか、戦争中だもんね。
「ガレトン王国軍は侯爵領に向かったと聞きました。まさか把握しておられない、なんてことはないですよね?」
半兵衛さん挑発し過ぎじゃないかな?
「把握しておりますが、用心は必要ですので…… それより、ずいぶんと重そうな荷物を持ってこられたのですね」
「サターキ伯爵への贈り物と兵士のみなさまへの陣中見舞いです。お受け取りを」
陣中見舞いで兵士達がざわめき立った。
そういえば、ガレトン王国軍でもお酒は貴重だったよね。
「お酒が気になっておられるご様子。中身をお見せしてあげなさい」
関羽と張飛が酒樽を兵士の前に持って行って栓を開けた。
良い匂いが漂ってくる。
こっそり、レモンもどきを入れてあげたんだよね。
きっと柑橘系の爽やかな匂いも混ざってるよ。
「うっ!」
秘書官が鼻を押さえて変な声を上げた。
やっぱり、治療士に見てもらわないと……
兵士達は飲みたそうだけど、警戒しているのかな?
「気に入って頂けましたか? 毒をお疑いでしたら、私が試飲しましょうか?」
「いえいえ、オーブリー伯爵からの贈り物を怪しんではおりませんよ。ただ、戦時中です、何事も用心は必要でしょう」
結局、疑ってるよね?
家令は顎の髭をなでると、なぜか僕と目が合った。
「――― そこの子に、この酒樽の試飲をお願い致します」
えっ!? 僕?
未成年の飲酒はダメだってば!
「僕はお酒は飲めません!」
必死で断ったら、家令と兵士達から笑われた。
そんなに笑わなくっても……
お酒を主に扱っている豪商の息子が飲めないって、何を言っているんだと言われても。
「飲んで差し上げて、きっと大丈夫ですから」
半兵衛さんから言われて渋渋飲むことにする。
飲むのは家令が選んだ酒樽からだ。
あれ? これってジュース? 昨日みたいに苦味がないけど。
「あっ! 美味しい」
爽やかな蜂蜜レモン味だった。
「発酵前の物を1つ買っておいたのだ」
関羽がこっそり教えてくれた。
美味しかったので、もっと飲もうとしたら家令と兵士に止められた。
でも、よく家令が選ぶ樽が分かったね。
不思議に思っていると張飛が半兵衛さんを見る。
半兵衛さんが考えたの? メンタリストにもなれるんじゃないかな……
お城の中に入るよう促される。
酒樽と食べ物はここに置いて行く。
兵士達がソワソワしていた。
僕達がいたら飲み食いできないから、早く行って欲しいよね。
置いていく荷物以外は見られることもなく中に入った。
――― 家令とメイドさんに連れられて、お城の中を歩く。
見た感じは西洋のお城そっくり、カーヴェイは北塔の最上階に居るみたいだ。
メイドさんが世間話のように僕や他の奴隷に話し掛けてくる。
奴隷のみんなはデレデレだ。
美人だからね。でも、油断して変なこと言わないでよ。
僕は扱っている商品や今まで行ったことのある場所、カーヴェイの特徴を聞かれた。
うん、これは疑われているね。
半兵衛さんに叩き込まれたから危なげなく答えられるけど、ヒヤヒヤする。
「お酒が飲めないというわりには、良い飲みっぷりでしたね。カーヴェイ様と飲まれたりするのですか?」
うっ、カーヴェイが飲むかどうかなんて知らない。何て答えるのが正解なの?
「ぼ、僕は飲みません。お酒は20歳になってからです」
「20歳ですか…… 」
「彼は酒豪ですから、際限なく飲まれないように父親から20歳まで飲むなと止められているのですよ。カーヴェイには蜂蜜酒を下ろしてもらっていますけどね」
メイドさんがポカンとしていたけど、半兵衛さんの機転でなんとか納得してもらえた。
ふう、危なかった。平気で嘘を付ける人っているけど僕には無理だよ。
◇◆◇◆◇◆
われはスレイン王国のサターキ。
呼び捨ては許さん。サターキ伯爵様と呼ぶように。
われに目を付けられると酷い目にあうぞ。
頭の弱い王に少し甘い言葉をかけて、ライバルは全て追い落としてやった。
特に若く優秀なオーブリー伯爵を災害のあった北に行っている間に潰せたのは大きい。
前王に気に入られて宰相を気取っていたが、お前は正し過ぎるのだよ。
それでは我儘な現王に嫌われるのは当然というものだ。
しかし、頭の切れるオーブリー伯爵は危険だ。
どんな反撃をされるか分からない。
だから逆らえないように、オーブリー伯爵の義弟を人質に取る。
表向きは病気の療養だ。城の北塔に幽閉してやった。
オーブリー伯爵領にはわれの派閥から人を出して乗っ取を計画している。
取り潰しの交代として息のかかった者を領に入れたが…… オーブリー伯爵家は領民に人気がある。
だから新領主ではなく、留守の代理人という形になった。
忌忌しいが、焦ってもしょうがない。
ガレトン王国が攻めて来た。
オーブリー伯爵が散々警告していた事態だ。
わしが言うのも何だが、スレイン王国は内部崩壊している。
頭の弱い王に気に入られた者が次々と国の重要な位置についているので、まともな反撃が出来ていない。
辺境伯領が落とされた? あの無能め早過ぎる。
王都へ直接行ってくれれば良いが、わしの領地にも来るかもしれん……
…… いや、心配するな。
この城は天然の要塞で過去に破られたことはないほど堅牢だ。
守りに徹していれば負けはない。
われの家に長年勤めている家令が慌てて入って来た。
なに? ガレトン王国軍がわれの領地を通って、侯爵領に向かっている。
そうか、それがどうした? われの城に来ないのであれば良いではないか。
侯爵への援軍? 後ろから挟み撃ち?
バカバカしい! 侯爵に死んでもらったらその席が空くのだぞ。
同じ派閥だが、利害関係だけのつながりだ。助ける道理はない。
王都に入ったら、恩を売るために出撃すれば良いのだよ。
分かったか? 家令よお前ももう少し賢くなれ。
その手紙は何だ? オーブリー伯爵からの手紙?
や、やつは辺境伯領で死んだのではないのか!?
こ、この封蝋は確かにオーブリー伯爵家の物……
…… 義弟のお見舞いに参りますだと……
丁寧な貴族言葉で書かれた手紙を見て体が震えた。
オーブリー伯爵の義弟はいたって健康だ。人質のため幽閉しているに過ぎない。
それをオーブリー伯爵が分からないはずはない。
病気の療養のためと世間に言っている手前、この申し出は断れない……
オーブリー伯爵め! 何を企んでいる……




