第13話 ついてない日
爆発には巻き込まれなかったけど、爆風で服はボロボロの砂まみれ。
飛んできた石で、そこら中から血が滲んでいる。
もう散々だよ。
ずっと気絶していたから、突撃の後どうなったのかも分からない。
僕達は死んだと思われていそうだけど。
そういえば、偶然だけど敵軍の人を助けちゃった……
とりあえず、おしっこでビショビショは嫌だと思うから、水浴びの出来る川に連れて行ってあげた。
僕も隣に居て引っ掛けられたから気持ちは分かる。
敵軍の人なのに素直について来てくれる。
関羽と深刻そうに話しているけど、大丈夫かな?
会話内容は分からないけど、名前はハンベイみたい。
女性みたいで、味方に小便を引っ掛けられて、ハンベイって……
竹中半兵衛みたい。
関羽、張飛と来たから、諸葛亮孔明みたいな人が現れないかなと期待したんだけど。
どう見ても孔明っぽくはないかな。
――― そういえば、着替え用の服が必要だよね。
ちらりと戦場跡の方を振り返ると死体がいっぱい横たわっている。
戦争って怖い。
学校の道徳の時間で人の命が何よりも重いと聞いていたのが嘘みたいだ。
助けた人と同じぐらいの背丈で綺麗な服を探した。
複雑だけど、いっぱい転がっているので苦労はしない。
関羽と張飛に合う服も見つかったけど、僕が着れそうなのはない……
良く考えたら、ずっとこの服着てるけど臭くないかな?
服を引っ張って匂いを嗅いでみたけど、よく分からない。きっと鼻が麻痺してるんだろうな。
もう少し探したかったけど、僕と同じように死体漁りをしている怖い集団がいたので慌てて戻った。
なんだか今日はついてない…… 今日もかな?
そういえば僕もドロドロだから一緒に水浴びしてしまおう。
拾って来た綺麗な服と自分の服を木に引っかけて川に入る。
「きゃっ!」
悲鳴にビックリして声の方を見たら半兵衛さんだった。
そんなに驚かなくても良いと思うけど……
胸元を隠して、じりじりと後ろに後退して行く。
本当に女性みたいな人だな……
「あ、その辺は深いから気を付けて!」
止めようとしたら、ドボンっと深みに嵌った。
やばい、溺れてる。
ちょ、ちょっと!
助けに向かったら抱き着かれて一緒に溺れそうになった。
鍛えられていないのか、体が柔らかい。
これなら抱き着かれた腕を外せるか?
そういえば、溺れた人に正面から近付くとダメだと聞いたことがあったような。
今更だよね。僕のバカ!
なんとか腕を振り払って、後ろに回り込む。
後ろから両脇に腕を回して浅瀬に引き上げた。
奴隷生活で腕力が付いてて良かった……
「ゴホッ、ゴホッ」
半兵衛さんはすぐに咳き込んで水を吐いた。少しだったから大丈夫そうだ。
緊急事態だったから、つい見ちゃったんだけど―――
――― 半兵衛さん、ついてない……
半兵衛さんを連れて、砦に戻った。
戻りたくないけど、関羽と張飛の身振りから帰らないとダメらしい。
たぶん、奴隷の魔法を掛けられているからだとは思う。
戻ると兵士と奴隷達からどよめきが起こった。
ジロジロと皆から見られるから落ち着かない。
何かあったのかな?
すぐに神経質そうなおじさんの所に連れて行かれる。
またお前か! みたいな顔をされた。
僕も来たくて来た訳ではないんだけど……
黒フードを被った男と奴隷管理人が入って来たと思ったら、何やら唱え始めた。
また、奴隷紋? と身構えていたら、今度は青白いモヤが僕を覆う。
「non dzff hthis tegela 」
特に痛くはないな…… 何か変なことをされた訳ではないみたい。
油断していたら、奴隷管理人が熱せられた匙を持ってきていた。
ジュッ! ジュッ! ジュッ!
熱い! この人絶対、それを押し付けるのを楽しんでるでしょう!
奴隷紋に10箇所あった魔法陣のような丸が3つ消された。
前回の巨大狼のときと合わせて5つ消されたから、あと5つだ。
関羽と張飛も同じように消されていた。
もしかすると10箇所全部が消えると奴隷じゃなくなるのかもしれない。
僕達が奴隷紋に焼き印をされているときに、半兵衛さんは黒フードの男から黒いモヤを受けていた。
きっと、奴隷紋の魔法だと思う。
あれ? 僕と違ってモヤがすぐに霧散してるように見えたけど…… 半兵衛さんが何かしたのかな?
◇◆◇◆◇◆
私はガンズ…… いや関羽と言う。
アロから関羽と名付けてもらってから調子が良い。
今ならば、あの野獣まがいの男も倒せそうだ。
早く奴隷から抜け出して、同族を助けなければ!
そのためには戦場で生き残る必要がある。
開戦では奴隷は盾となるように最前列に配置された。
愚かな人間のよく使う戦術だ。
どんなに魔力の強い者でも無限には使えない。
奴隷を肉の盾として使い、相手に魔力の無駄打ちをさせるケチな戦法だ。
誇り高いドワーフでは絶対に考え付かないだろう。
「突撃!」
奴隷管理人の指示が飛ぶ。
魔力量には自信がある。弓兵にたどり着くまでは持たせてやるわ。
チグン…… いや今は張飛か、張飛と目配せしてアロを守るように前に立つ。
魔力がないアロだと矢の一発でやられてしまう。
アロだけは絶対に守ってやる。
――― 驚いた! なんだその蛇のような進み方は?
アロは矢が来たら前方に倒れ込んで蛇のように体をくねらせて、矢をやり過ごす。
過ぎ去ったら、また立ち上がって走る。
ホフクゼンシン? 確かにそれならば魔力の消費を抑えられる。
魔力で防ぐのが当たり前の我々には考えもつかなかった。
見様見真似でアロのように地面を這う。
戦士としての誇りは失うが、誇りよりも生き残ることが大切だ。
このような方法を考え付くアロの頭の良さに関心する。意外と良い指揮官になるかもしれない。
先日あの野獣まがいの男に一撃を入れたのもすごかった。
会った当初は頼りなかったが、いつの間にか槍捌きも板についている。
魔力がないのが悔やまれるが、鍛えれば一流の戦士になれるのではないだろうか?
何度目かの矢が過ぎ去り、もう少しで弓兵に接触できるというときに、アロに服を掴まれて後ろに倒された。
起き上がりの瞬間でバランスは悪かったが、すごい力だ。
「何をす―――」 ズドン!
目の前で戦術魔法が炸裂した。
アロに助けられた。戦術魔法などまともに食らったらどんな猛者でも死んでしまう。
しかしアロは魔力も持たないのによく魔法の気配が分かったな……
目を覚ますと敵味方の死体がそこら中に横たわっていた。
静かだ…… 戦闘は終わったのか? ずいぶんと気を失っていたのだな。
アロと張飛は無事だろうか?
「き、貴様!」
声の方を見るとアロが指揮官風の男に槍を向けているところだった。
「アロ!」
慌てて自分の槍を持って走る。
アロを傷つけはさせんぞ!
気迫で迫ったら、逃げて行った。なんとも気弱な指揮官だ。
ずいぶんと血を流していたがアロの仕業か? あれでは手当を受ける前に死ぬ可能性が高い。
指揮官、それもトップに近い装いに見えたが…… もしかすると大金星ではないのか?
アロは敵方の貴族を助けていたようだ。
事情を聞いたときは呆れたがな。
それにしてもハーヴェイ・デル・オーブリーとは……
どこかで聞いたことがある名前のような……
あっ、もしかすると魔法王国の学園をトップで卒業したというハーヴェイか?
他国出身でトップを取るという珍しい話だったからドワーフの私でも知っている。
ハーヴェイと情報交換をした。こちらからは奴隷になった経緯を話し、あちらからはアロに助けられた経緯を聞いた。
どちらもため息の出る話だ。
「それでハーヴェイはどうするつもりだ、逃げる当てはあるのか?」
「ありません。良ければ、あなた方に付いて行きたいと思います」
「付いて来るのは良いが、我々は奴隷だ。それに捕らえられた敵兵がどうなるか知らない訳ではあるまい」
捕らえられた敵兵は我々みたいに戦場奴隷として最前線に送られる。
貴族だったら身代金で解決もあり得るが、あの野獣が大将ではなぁ―――
「それは分かっています。それでもお願いします。」
「…… 大切な弟だけは助けたいのです―――」
何か考えがありそうだが、どうも茨の道を行こうとしている気がして心配だ。
まあ、川で汚れを落としてから皆で話そうではないか。
アロとハーヴェイを先に川へ行かせ、張飛と一緒に火を起こす準備を始める。
火を起こして待っているところに、アロとハーヴェイが赤い顔をして戻ってきた。
ろくに拭かずに戻ってきおって、風邪をひいても知らんぞ……
結局、ハーヴェイを連れて砦に戻った。
戻りたくはないが、長時間離れていると奴隷紋の影響が出るから仕方がない。
他の兵士や奴隷達が集まって来た。
奇異な目を向けられるのは仕方がない、ブラッディウルフを倒したことや野獣まがいの男とまともに打ち合えたことで最近アロは目立っている。
生きていたことに驚いているだけではないだろう。
「こいつの手柄で間違いありません」
すぐに男爵のところに連れて行かれて、魔術師に討伐鑑定をされた。
やはりアロに刺された男は助からなかったか。
ハーヴェイから、アロが槍を刺した相手は辺境伯だと聞いていたが……
テント内は大騒ぎになった。
そりゃあそうだろう。戦場で大将首を取ったなんて、正規兵だったら大出世間違いなしの所業だ。
いろいろと揉めたようだが、報奨は奴隷紋を3つ消すことになった。
私と張飛もアロの恩恵に預かって5つ消えている。意外と解放までは早いかも知れん。
評価ありがとうございます。
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