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冬目前は夜だって寒い1

本日も快晴なり。あたたかな午後の陽射しのもと、風の冷たさを頬で感じながら少し厚手のクリーム色のカーディガンを羽織り、ワンピースとお揃いのワイレッドのストールをぐるぐると首に巻き付けた『俺』ことナデシコは、目の前にあるブルーベリーもどきをぷちぷちともぎ取り足元の籠に放りこんでいた。

両手で抱える程の大きさの籠には、既に半分ほどぷりっとした大振りのブルーベリーもどきがキラキラと光を反射して積み上がっていた。

少し疲れを感じたので休憩がてら反対側で同じ作業をしている親友の様子をうかがうことにした。

今日は作業を手伝いやすいように人型なのだが、服を着るのも靴を履くのも面倒とのことで、ふっさふさの体毛とチャームポイントの尻尾を残し、人面だと違和感があるので顔はワンコ。そして面倒とは思うが流石にズボンは履いてもらった。アニメでよく見る獣人スタイルだ。本人とても動きやすいらしく最近はこのスタイルでいることが多い気がする。俺も可愛いお顔と尻尾と毛並みでとても癒され大満足である。

そんなプリティーな姿で木の前に立つ邦彦は肉球付きの右手の指で器用に実を摘まんでは足元の籠へ、左手の指で摘まんではぱくり、一定のスピードで手を動かしていた。

ん?ぱくり?

こちらの視線に気付いたらしく、手を止め目が合う。口の端のゴムパッキンに果汁を滲ませながらも未だにもぐもぐと咀嚼をやめない。可愛い。いや違う!惑わされてはダメだ!

『こら!食べるnふぐっ!』

邦彦は大声を出されても顔色1つ変えず、深い青紫の実を1つもぎ取り、俺の口へと押し込んだ。

口の中で皮が弾け、みずみずしい甘さが広がり、あとを追いかけ皮に潜んだ酸っぱさがほんのりと混じる。うまい。まるで葡萄のようだ。

驚きと旨さに浸っていると、1つまた1つと口に実が運ばれる。

「な、うまいだろ?」

俺の顔にうまいと書いてあったのだろうか。邦彦が笑みをたたえながら自慢気に話す。さらに1つぶ『あーん』と言われながら食べさせられる。

マジでうまい。

お返しにと俺も木から実を1つ取ると、邦彦の顔の前につきだし『あーん』と促す。少し開いた口の横から歯と歯の間をぬって押し込む。押し込まれた実は器用に動く舌に転がされ上顎に押し付けられ潰された。

少し目を細め味わう姿は控えめに言って可愛い。嬉しくなってもう1つ実を取り邦彦の口へと運ぶ。すると自分の口にも運ばれる。右に左にテンポよくそれぞれの口へと実が消える。

しばらくすると手の届く範囲に食べ頃の実が無くなり2人の手が止まった。口の中に残る実を名残惜しく嚥下する。

「俺ら何してんだろ」

少し傾いた日を眺め呟く。

「うまいから仕方ない」

「確かに」

「とりま、実を集めるぞ。日が入ると寒い。」

そうだ。日の入り前に収穫せねば。

ふと邦彦の集めた籠の中を覗く。ほとんど埋まっている。俺より大きい籠のはずなのに…食べながらもしっかり仕事はしていたようだ。ちゃっかりしている。

俺は自分の籠の所に戻りペースアップして実を籠に放り込む。

「そういえば。クティカさんって日中なにしてんの?」

川で転びそうになった時助けてくれて以来、川に行く際は着いてくるようになったモロっぽいやつことクティカさんは夜決まった時間になると家のベッドのある窓の外にやってきて眠り、朝カーテンを開けた時に目が合うとどこかに行ってしまう日々が続いていた。

「んークティカ?はっきりとはわかんねーけど…自分ん家行ったり、森ん中見回ったりじゃね?たぶん」

結構一緒に行動してるイメージだったが、意外と別行動なのだろうか。そうなんだーと相づちを打つと邦彦は『案外近くにいたりしてな』とボソッと呟いた。

「俺さ、前に川で助けてもらったじゃん?あれのお礼ちゃんとしてないんだよな。」

今度は向こうが、そうなんだーと相づちを打つ。

「お礼を伝えるだけじゃなくて何かしたいんだけど…なんかない?好きなものとか」

よいしょと掛け声をあげて、山盛りの籠を抱えた邦彦が木からひょっこり顔を出す。

『好きなものねー』と目を細めこちらを見る。何だよと声をかける前に目線を空にうつしもう一度『好きなものねー』と呟く。

籠が重かったのか、下ろして腕を組む。

『わりぃ。わかんねーわ』とポリポリ鼻の頭をかいてすまなそうに眉を下げる。

そっか、付き合い長そうだから何か知ってるかと思ったけど、そこまで気にかけないとそうそう分からないよなと思い直す。

ふと足元の籠をみるといつの間にか実が山になっていた。収穫はこの辺でやめておこう。

腰に巻き付けたエプロンのポケットに手を突っ込み枝切りバサミを取り出すとそのまま目の前の木の剪定を始めた。

んー何かプレゼント出来るものないかなぁ

ピロロロロと鳥っぽい声の木霊をききながらテキパキと不要と思った枝を切っては木の根本に落としていく。

時折、大きな羽を持った不思議な何かが遥か彼方の頭上を飛び影を落としていく。空はだんだんと赤く色づく。

ジョキンと刃と刃に押され『あ』と言う声を聞きながら少し太めの枝が落ちる。

目の前にあったふさふさの木は見るも無惨なスカスカの木になり果てていた。

ヤバい。切りすぎた。

さっと血の気がひき、生唾を呑み込むと『もう切るまい』とハサミをポケットにしまい、かがんで切り落とした枝を木の根本に寄せ手を合わせる。

「切りすぎで寒かったらごめんなさい!」

「んな謝らなくて大丈夫だぞ」

自分の籠を家に運んできた邦彦が俺の様子を見て言葉をかける。

「毎年こんくらい切ってもちゃんと成長すっから安心しろ」

「まじか?!」

ガバッと伏せた顔をあげ、親友の顔を伺うといたって真面目な顔でゆっくりとうなずいた。

ちょっと信じがたいが冗談で言っているわけでは無さそうなので信じることにする。が、やはりスカスカになってしまった木を見ると心が痛む。そっとごめんなともう一度謝った。

そんな感傷に浸っていると邦彦が『これ持ってくぞー』と俺の籠をひょいと持ち上げ家に向かって歩き始めた。

「あ!待って!自分でもつ!」

「もう持ってるから下ろせねー。それより先に行ってドアあけてくれ」

「もう!女の子扱いはやめてくれよ!」

ぷぅと頬を膨らませて抗議すれば『だって事実女の子だろ?』と流される。

さらに頬を膨らませ地響きするんじゃないかと言うほど強く地を蹴り、早足でドアの前まで来ると親子扉が両方開いてしまいそうなほど力強く開け放つと『どうぞ!』と鼻息荒く、膨れっ面のまま足をドアストッパーにして中へと右手を室内へ向ける。

それを何とも思っていない飄々とした顔で『どうも』と言って中へ入っていく。

そんな姿にも腹が立ちドアを乱暴に閉めた。

読んでくださりありがとうございます。

長くなって打つの大変なので、ちょっと分けます。

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