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拝啓、父さん母さん元気ですか?俺は今、異世界に来ています。


木製のドアを勢いよくあける。視界が明るく開け、青空が広がる。頬を撫でるそよ風は遠くの鳥の声を運んで丘の下の町へと駆け抜ける。大きく伸びをし胸いっぱいに息を吸い込むと新鮮な空気が身体を満たし指先まで届いた気がした。

今日もいい天気だ。

風につられてこぼれた金色の長い髪を耳にかけ微笑む。腕にひっかけた買い物籠をしっかりと持ち直し、薄汚れたスカートをはたいた。少しでもと汚れを落とすと、靴と呼ぶには少し心もとない布で覆われた足を前へと踏み出した。

道に転がる小石が布越しに足裏を刺激する。

青竹かよ。

こちらの世界に来て早16年、こちらに来たばかりの頃は以前の世界とは違いすぎてびっくりしたが、大分慣れた。

慣れたのだがこればかりはなかなか慣れない。

痛い。

ナイキのスニーカーが恋しい。

あの履き慣れたかかとの少しすり減ったスニーカー。そしてあの着なれたTシャツとジーンズにボディバックが懐かしい。

俺はもともとラフな格好が好きだった。だが今は襟元にボタンが1つあるだけの白がぼやけた五分袖のゆるゆるシャツに、ひらひらすーすーする焦げ茶色の膝丈スカートだ。あまりにもラフすぎる。てか、女性はよくこんなスカートをはけるなと思う。歩き方気を付けないと変に見えるし、ちょっと強めの風が吹けばめくれて中見えるんじゃね?前世では『あ、あと少しで見えそう』とうきうきしちゃったけど、見られる側の『今』とてつもなく嫌な気持ちがわかり反省している。


前世、香坂大和と名前を持って産まれた男だった。毎朝満員電車に揺られもまれながら獣医師を目指して学校に通い、友達とくだらない会話や先生への悪口で盛り上がり、空いた時間にバイトを詰めてようやく最近できた彼女に『私のこと好きなの?なんで私といる時間ないの?』と怒られながら日々をこなすように生きていた。ごく普通の穏やかな人生だったと思う。特にパッとしない人生だったけど悲劇はパッとやって来た。

その日はたまたま寝坊して、やべぇと思いながら駅への道を走ってた。ちょうど工事現場の曲がり角を曲がったときだった。頭上から『お兄さんあぶない!』と声がして反射的に上を見上げたら目の前が真っ暗だった。次の瞬間、顔と頭がものすごく熱くて痛くて、何がなんだかわからなくて、でも段々と落ち着いてきて『あ、もしかして工事現場の足場が落ちてきたのかな?』なんて冷静に考えられるようになって、痛みが少しずつ遠のき『あ、もしかして死ぬのかな?』と思ったら熱さも遠くなってきて『こんなことなら一昨日ひなちゃんと別れる前に最後にエッチしてくれとお願いしとけばよかったなぁ。まさか、経験無しで人生が終わるとは…』と考えているうちに体が軽くなり考えることも出来なくなった。真っ暗闇の中段々と遠退く意識。

このまま死ぬのかと思った次の瞬間、さっと冷たい感覚が全身を襲い、つんざくような赤子の泣き声が聞こえ、かと思えば今度は体がほどよく暖かくなった。何がなんだかわからない。

そっと目を開けてみる。が、開かない!なぜだ!余計パニックに陥る。いや、冷静になろう。

今度は耳をそばだてる。どうやら近くに何人か人がいるらしい。遠くの方で女性の声、耳元で男性と女性の声がするが何をいっているのかわからない。異国か?

そしてつんざくような赤子の泣き声はどうやら俺の口から出ていたようだ。冷静になればなるほど泣き声が小さくなった。

詳しくはわからないが転生したようだ。

とりあえず…

転生最高!!!!神様グッジョブ!!俺は今度こそ童貞卒業してやるぜ!!


そして数ヶ月が経ち、会話を聞きながら語学勉強をし、日本語とかぶる単語が多かったため、なるはやで色々なことを知ることができた。異世界であることを知った。『今流行りの異世界転生か!』と喜んだ。と同時に女性として性を受けたことを知り落ち込んだ。

あのときは本当にショックだったな。熱だして食欲減って周りに病気じゃないか心配されたなぁ。吹っ切れるのにも時間がかかった。3日くらい。

思えば2年前に現世の両親を無くしたときもショックだった…

でもまあ、魔物あり魔法ありの世界で何となく平穏無事な日々を過ごしている。なんともありがたや!


そんなとこを思っていたら後頭部の重さが消え、風に髪が舞い視界ふさいだ。どうやら髪を後ろで1つに束ねていた紐がほどけてしまったらしい。両手で髪をかきあげざっくりとまとめ辺りを見回し紐を探す。

あった。

一メートルくらい先に落ちていた紐を舞わぬうちにと小走りで取りに行く。シャツ同様前は白かったはずのレースの紐はすんなり手のひらにおさまった。

手でまとめた毛束をレースの紐でしっかりと結ぶ。

よし、とまった。

今度こそと籠を持ち直し歩き出す。

今日はバゲットとレモンを買わねば。

昨日自家製ベーコンを作ったので、厚めに切ってこんがりと焼きとスライスしたレモンと一緒にバゲットに挟んで食べるととても美味しいのだ。

ルンルン気分で『lemon』のフレーズを口ずさみ町を目指す。

気分よくスキップしようと一歩踏み出した足の裏に刺激を感じ『クェ!』と変な声が出た。

駄文、読んでくださりありがとうございました。

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