祈りのように
案ずるより産むが易し。
もうこの言葉を使うと、一定の団体に噛みつかれそうなご時世だ。
実際産む事は苦しいそうだし、なんだったら育てるのも苦しい事だ。
女性の苦しみがわかってない、時代錯誤だと、なんだかんだとガブガブと、かじりたくなるのも分かる。
まぁ、そうなんだけど、そんなものにまで、噛みつき始めたら、余計に生きにくい世の中になるだろうなと、思わずにはいられない。
ネット上には多数いるけど、実際にそこまで言うやつは、3年に一回会えるかどうかの、織姫と彦星より合わない奴等の言葉なんて、気にしていてもしょうがない。
案じたところで、悩んだって、何かしら軋轢とか、疑心とか、愛情だとか友情とか、そんなものを産んでいく事にかわりない。
だからさ。
「酒を産んだぐらいで、動揺するなよ」
「産んでないです」
朝起きて駆け寄った際に、こんだ時に、抱いて寝ていた、朝起きたら隣に知らない酒がいた等、中々の取り乱しようだった。
「世の中の農家には、自分の子供のようだと言う方々もいるらしいから、あながち間違いでもないだろう」
「その人達だって育てた覚えのない、急に出てきた子には、戸惑うと思うんですよ」
「まぁ、そうかもね」
まぁトマト育てていたら、スイカが生えてきたら、驚くことは間違いないだろう。
「まぁアサギ、キミの奇跡の証だよ、仮契約で眠っていた力が呼び起こされたんだよ」
「それを真っ先に聞きたかったです」
「数分ぐらいは誤差だと思うけどね、それはそうと、そのお酒を味わいたいからコップに入れてくれないか?」
アサギが産み出したお酒が、どれぐらいのモノなのか確かめねばなるまい。
ワクワクしながら待っていても、一向にアサギは動きだそうとしない。
「まさか、お嬢様だから酒瓶から酒を入れられないとか?」
「いや、味わう?」
アサギは、何か不自然なものを見たという顔をこちらにむけてきた。
鳥居が生えるとかのほうが、余程不自然だというのに、出会って一番の顔である。
出会って2日も立って以内のだが、中々の理不尽さを感じるが、まぁ、こっちも相互理解が足りていない。
なんだったら、どうやって味わっているのかとか、生きているのかとか、その辺りの説明等していなかった。
「確かに、何年寝かしただの、野に咲く薔薇を思い出させるだの、そういった感性とか舌も、口もないが、そこのちゃぶ台か、後はそこの小さな屋敷、神棚っていう所に、酒をそそいだコップをおいて、手をあわせて祈れば、味とか満足感を得ることができる」
「お腹もすくんですか?」
「まぁ、食べなくたって生きていけるけど、食べられる機会があれば、それなりに食べることもある、まぁ今回はややこしい事情抜きに味わえる機会だからね、君も味わってみるのも一興かもしれないよ」
「私はいらない」
お酒に逃げないとは、アサギは真面目な部類だったらしい。
コップをちゃぶ台に置き、お酒を注いで、アサギは目を閉じ両手を胸にあて祈る。
数秒後には、アサギから生み出されたお酒が、体内に巡る感覚がある。
しかし、それよりも神の痣が、こちらに存在感を向けるように、うっすらと光る。
わざわざ光る必要もないはずだが、女神の視線のようにも思えた。
アサギは気付く様子もなく、神の痣が消えても未だに祈りを続けている。
ちゃぶ台のコップには、すでにお酒は空になっており、代わりに少し大きめのパンと、リンゴ風味がするの果実水に、トマトの入った野菜スープが、代わりに用意されていた。
アサギのお酒への代価あるいは、これからの代価。
「女神にとっての蜜の味か」
そう呟いたせいだろう。
祈りを中断したアサギはこちらにたずねる。
「甘いんですか?」
「いや、うまい喩えが浮かばない、しかし、まぁ、活力にはなるほどに燃える芯のようなものを感じると言えるぐらいには、美味しいと思うよ、さて朝食にしようか」
いつの間にか並べられた料理が、冷めてしまっては勿体ない。
「これもお祈りしてからの方が良いですか?」
「いや、僕はいらないから、好きに食べると良い、あぁでも、どうせ祈るならお酒を、もう一杯だけ頼もうかな」
酒は気分で味が変わると、昔講釈を垂れて飲んだ事がある。
イヤな時も楽しい時も、それなりの味はしたから、その言葉は結局嘘だったのだけれど。
慰めてくれる相手もなしに、お酒をのんだ所で、旨い理由もない。
それよりは、朝食を食べることの方が良いだろう。
それでもこのぐらいの言葉は送ろう。
「何か良いことでも起こるといい、お酒は、そうやって嗜むのもまた一興かもしれないよアサギ」




