幸運か不運か、溺れ沈むものはどちらかを掴む
運命の人を見つけ手を伸ばすのは、王子の役目
そう言う古い格言が、ニノワ国にはある。
男の方が運命を感じて、手を伸ばしてきたなら、幸せになれるから、プロポーズをするのは男からすべしというマナーを説いた意味合いを持ち、多くはこちらの意味合いで使われる。
ただ、もう一つの意味合いとしては、王子が運命を感じたら諦めなさい。
運命の人に伸ばした手が、何を掴んでいたか忘れてしまうものだから。
理不尽なものだと思う。
諌めるような、皮肉めいたものだ。
運命の人なんて現れなければ、こんな思いをしていない。
ん、違うか。
二年ほど前に、条件に合う女性なら上級貴族から下級国民の誰もが王子の正室、ないし側室の座が約束された。
実の父はこれ幸いと、上級貴族との養子縁組を決めて、家を売り払いおめでとうと言って、私にはお小遣い3ヶ月分を渡してどこかにいった。
3ヶ月前に赤いドレスが贈られてきて、婚約時期から、本当に結婚するんだと実感した。
義母や義父は言うに及ばず、通っていた学園の学園長、恩師、見知らぬ生徒迄おめでとうと言っていた。
あぁ その言葉が、今日は罵倒や蔑みに代わるなんて早すぎやしないだろうか。
悪いことなんてしていないのに。
いきなり道を踏み外したような。
勝手に道がなくなったような。
ふらふらと、さ迷って、今身に付けている優雅な赤いドレスとは、場違いな場所で、きっとみじめに死ぬんだろう。
そう考えたら、その道しか選べないようになりそうでイヤだ。
もう少しマシな事を考えよう。
もしかしたら、昔読んだ神話のように、その場所に赤いドレスの花が咲くのかもしれない。
それは素敵だろうけど、イヤだ。
あぁ神様。
神様じゃなくてもいい。
誰でもいいからから、助けて欲しい。
目の前にマシな道を示して欲しい。
「やぁ 迷える人よ僕はミサカ 呼ばれたからやって来たのさ」
目の前に簡略した、人の形をした紙が、現れて突如しゃべった。
岩や砂の魔物のゴーレムというのは、聞いたことがある。
だけども紙のゴーレムというのはない。
魔物かイタズラか、そもそも呼んでいない。
「何これ?」
「君のように婚約破棄された女性を救う、すきま的な役割を与えられた妖精とでも思ったらいいさ、多分今夜の宿のあてなどもないんだろ、とりあえず仮契約すれば、衣食住の保証はするけど、どうする迷える人よ?」
思わず出た声に反応し、肩をすくめている、意外に人間らしいというか、表情はないのにおどけているような口調で応えてくれた。
私の様に婚約破棄された人を救う妖精というのは、聞いた事がない。
妖精というのは、可愛いらしいものだと言われているが、そうでないものもいるようだ。
ただ、こちらの事情を察してはいるようだ。
宿もだが行く宛すらない。
誰でもいいからと願ったのは自分だ。
仮契約とか、わからないけれど。
「アサギです、宜しくお願いします」
妖精のような紙の言葉に乗っかることにした。
幸運か不運か、溺れ沈むものはどちらかを掴む
ニノワ国にはそう言う格言がある。
溺れたり、沈んだりするときは、何かを必死に掴もうとする。
それが幸運か不運かだけの違い。
王子に手放された私の手が掴んだのが、紙。
ミサカという妖精だという事だ。




